米国の予算はオバマ政権になってから、難航している。
2015会計年度(2014/10~2015/9) は2014年12月に可決したが、このうち移民制度改革を巡る与野党対立で国土安全保障省関連分は2015年3月にようやく通った。
2015/3/6 米、国土安保省の予算可決
2016会計年度(2015/10~2016/9)についても同様である。
上下両院は9月30日、下院のJohn Boehner議長(共和党)が議長退任、下院議員辞職を発表することでようやく 12月11日までの暫定予算法案を可決した。
しかし、民主党と野党・共和党(上下両院で多数)との対立は激しく、本格的な予算や連邦債務を巡る法定上限の引き上げなどの議論の行方は予断を許さない。
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2016会計年度予算案については、民主党と共和党の対立で成立の目途が立たず、このままでは10月1日に政府機関を閉鎖せざるを得ないため、これに回避のため民主、共和両党の有力上院議員により、10月1日から12月11日まで、約10週間の暫定予算を組む方向で話が進んだ。
ここで問題が生じた。
米国の医療関連の非営利組織「全米家族計画連盟(Planned Parenthood Federation of America: PPFA)」が臓器売買に関わっているとされる疑惑が浮上した。PPFAには年間5億ドルを超える連邦助成金が支給されている。
PPFAは全米700拠点で乳がん検診や妊娠検査、妊娠中絶措置などの医療行為を行っているが、本年7月にPPFA幹部が関連医療機関で中絶された胎児の臓器の価格交渉をしているとされる隠し撮り動画が保守系のCenter for Medical Progressという団体によりインターネット上で公表された。
PPFAは内容を虚偽だとしており、既に裁判所からはビデオの公開が禁止されている。
オバマ政権をはじめとする民主党も同じで、ニセの企業を騙った俳優を潜入させ、一種の「おとり捜査」的な手法を使って疑惑をデッチ上げたとみている。
中絶自体に否定的な保守層からは、疑惑の徹底究明を求める声が噴出、共和党はPPFA への補助金を打ち切るべきだと主張した。
ホワイトハウスは、「主要な医療機関に対する連邦助成金の打ち切りを含む案は、全米の女性、男性、家族による医療へのアクセスを制限することになり、低所得者に不利益が集中する恐れがある」とし、暫定予算案にPPFAに対する連邦助成金の支給停止が盛り込まれる場合は、大統領は予算案に拒否権を行使するとした。
上院は9月24日、12月11日まで現行の政府支出を継続する暫定予算案の審議入りを採決した。共和党はPPFAに対する連邦助成金の支給停止を盛り込もうとしたが、かなわなかった。
下院のJohn Boehner議長(共和党)は9月25日の記者会見で、10月末に議長を退任し、下院議員も辞職すると表明した。
辞職と引き換えに、PPFA への補助金打ち切りを含まない暫定予算の可決を図ったもの。議長は政権寄りなどとの批判を浴びていた。
上下両院は9月30日、12月11日までの暫定予算法案を可決、オバマ大統領が署名して成立した。
上院 下院 共和党 民主党 無所属 合計 共和党 民主党 合計 賛成 32 44 2 78 91 186 277 反対 20 20 151 151 棄権 2 2 4 2 6 合計 54 44 2 100 246 188 434
オバマ大統領は10月2日、政府機関閉鎖を回避するための暫定予算案に「次は署名しない」と明言、議会に対し、現在の暫定予算案が12月11日に期限切れを迎えるまでに本格予算案を可決するよう要請した。
John Boehner議長の後任は、共和党下院 No.2のKevin McCarthy院内総務と見られていた。
しかし、院内総務は10月8日、下院議長の後任を選ぶ選挙への出馬を突然取りやめた。共和保守派の反発で、過半数を得るメドが立たなくなったためとみられる。院内総務にはとどまる意向。
下院共和党は混乱状態に陥っている。
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連邦債務を巡る法定上限の引き上げについては、2014年2月に債務上限の適用を2015年3月15日まで凍結することが決まった。
2014/2/14 米債務上限上げ法案可決 デフォルト回避確定
しかし、その後も引き上げで合意が出来ず、米財務省は3月16日以降、18兆ドルの法定上限を超過する借り入れはできなくなり、政府が持つ基金の金を活用するなどの特別な措置でやりくりしている。
オバマ大統領は10月2日、11月5日が事実上の期限となっている債務上限問題について、解決する責任は議会にあるとして、野党共和党とは「交渉しない」と改めて表明。議会が上限を引き上げなければ、米国債のデフォルトが発生し「金融システムは危機に陥る」と警告した。
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