米環境保護局(EPA)は9月18日、独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)が排ガス規制逃れのために一部ディーゼルエンジン車に違法ソフトウエアを搭載していたと告発した。
世界各国が調査を開始しており、多額の罰金が科されるほか、損害賠償訴訟も相次ぐと思われる。
本件の技術的な背景については、安井至氏の「市民のための環境学ガイド」(2015/10/3) が「VWの排気ガススキャンダル」として詳しく取り上げている。
ここでは、VWの歴史と資本構成を取り上げる。
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VWとスズキは2009年に資本提携し、VWはスズキ株の約20%を約2200億円で取得、スズキはVWの1.5%を取得した。
しかし両社の思惑が異なり、スズキはVWに対し、円満な協議を通じて提携及び資本関係を解消することを求めたが、VWが応じないため、スズキは、2011年11月にVWとの包括契約を解除する旨を通知し、国際商業会議所国際仲裁裁判所に対して仲裁を申し立てた。
2015年8月29日、下記の仲裁判断が出た。
包括契約が2011年11月18日付の解除通知により2012年5月18日に有効に解除されたVW保有のスズキ株式をスズキに引き渡す。
VWが主張するスズキの契約違反の一部を認め、損害の有無及び額について引き続き仲裁において審議する。
これに基づき、スズキはVWから2015年9月17日に119,787千株を4,602億円強で取得した。
スズキは26日、保有する全てのVW株をVWの親会社のPorsche SEに売却する契約を結んだ。売却益として特別利益約367億円を計上する。
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VWの出資関係は下記の通りで、VWの100%子会社のPorscheの創立者一族の持株会社 Porsche SEがVWの大株主となっている。
ヒトラーが1934年のベルリンモーターショウで提唱した国民車(フォルクスワーゲン)計画に従い、Ferdinand Porscheが設計し、1938年に発表されたのがVolkswagen Type 1で、生産のために1937年5月28日VW準備会社が創立され、1938年9月16日Volkswagenwerk GmbHと 改称した。
第二次大戦後、VW社の株主が誰かが問題となったが、1959年11月に、ニーダーザクセン州と連邦政府との協議で次のように定められた。
① VW有限会社は株式会社へ組織変更
② 連邦とニーダーザクセン州がそれぞれ20%ずつ保有し、残りの60%は株式の発行によって民営化する。
1960年に民営化の場合のことを規定するVW法が制定された。
VWの買収を防ぐための法律で、ニーダーザクセン州に買収の拒否権が与えられているというもので、同州が認めない限り、誰もVWを買収できない。
① 1人の株主が20%超を保有する場合、議決権は20%に制限される。
② 株主総会の重要決議は、資本金の80%を超える多数を必要とする。
連邦政府は1988年にすべての持ち株を売却した。ニーダーザクセン州は現在に至るまで保有している。
EU 委員会は2005年 に、VW法の20%の上限付き議決権は資本取引の制限となり、EC条約56条1項が定める資本移動の自由と43条2項による開業の自由に違反するとし、ドイツ連邦政府に対し、上述の規定の削除を求めた。
2007年10月23日、ヨーロッパ裁判所(大法廷)は、VW 法の前述の規定がEC条約に違反する旨の判決を下した 。
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VWを設計したFerdinand Porscheのデザイン事務所は、息子のFerry Porscheとその姉のLouise Piech により自動車メーカー Porsche となった。
現在の持株会社 Porsche SE は、Ferry Porsche の一族 と姉のLouise Piech の一族が所有している。
(公表では50/50だが、独紙によると、一族内の金銭的な事情によって、Porsche家が過半数53%を占めているという。)
2005年9月、Porsche SEはVWに20%資本参加するつもりであると発表した。
2007年3月、Porsche SEは、VWの持株比率を30.2%へ引き上げた。
2009年1月の時点では、持株比率は50.76%となり、VWの子会社化が完了した。
しかし、この後、Porsche SE の資金繰りが行き詰った。金融機関からの借入金でVW株を購入していたが、VW株の株価が下落したためである。
このため、以下の対応が行われた。
① VWがPorsche SE から自動車メーカー Porsche AG と自動車販売会社 Porsche Holding を買収し、逆に子会社とする。
② カタールのQatar Holding にVWの株式17%を売却する。
合わせて、Porsche SEの普通株を10%売却したが、これについては、その後買い戻した。
これにより、Porsche SE は負債を返済した。
Porsche SE の100%子会社のPorsche AGはVWに買収されたが、Porsche SEはVWの権益の50%以上を維持し、現在に至っている。
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