環境省は11月13日、関西電力などが千葉県市原市と秋田市で計画している2件の石炭火力発電所の建設について「現段階では是認できない」とする環境影響評価(アセスメント)の意見を経済産業省に提出したと発表した。
本年に入り、合計5件となった。
2015/8/20 環境相、中部電力の石炭火力計画 是認せず
環境影響評価法及び電気事業法は、出力11.25万kw以上の火力発電所の設置又は変更の工事を対象事業としており、環境相は、提出された計画段階環境配慮書について経産相からの照会に対して意見を言うことができるとされており、この手続きに沿うもの。
事業が、国の目標・計画と整合を取るためには、電力業界全体で二酸化炭素排出削減に取り組む実効性のある枠組が必要不可欠である 。
政府は7月17日、地球温暖化対策推進本部を開き、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出量を「2030年までに2013年比26%削減」とする目標を正式決定した。
2015/7/18 温室効果ガス 2030年に2013年比 26%減
政府は目標の検討にあたり、2030年時点の再生可能エネルギー比率を22〜24%、原発を20〜22%と決め、2013年比で排出量を21.9%削減できるとした。さらに代替フロン類削減などで1.5%減、森林整備などによるCO2吸収分2.6%を上乗せし、計26%削減を目指す。
2015/6/4 エネルギーミックス最終案
しかし、電気事業連合会など電力業界が2015年7月に公表した「電気事業における低炭素社会実行計画」では、2030年度の販売電力量1kWh当たりのCO2排出量を2013年度比約35%減らすとするが、「参加各社はそれぞれの事業形態に応じた取り組みを結集する」というだけで、具体的な「実行計画」はない。
「実効性のある枠組」ではなく、単なる目標に過ぎず、これらの事業については、「日本の約束草案」及びエネルギーミックスの達成に支障を及ぼしかねない。
このため、環境省は今回も、本事業の計画内容について、国の二酸化炭素排出削減の目標・計画との整合性を判断できず、現段階において是認することはできないため、早急に具体的な仕組みやルールづくり等が必要不可欠であるとした。
石炭火力は、最新型であってもCO2排出量が天然ガス火力の2倍以上とされ、欧米各国は事実上、新設を不可能にする規制を導入しつつある。
日本が大量の石炭火力発電の増強を進めれば、温暖化対策に逆行するとして、国際的な批判にされるのは必至である。
少なくとも、(1)石炭火力のCO2排出量をどう減らすか(2)CO2排出が目標通りに収まらない場合どう対応するか−−を明確にしない限り、環境省は是認できない。
丸川珠代環境相は「石炭火力発電のCO2排出削減は極めて重要だ」と述べ、早急に実効性のある対策をまとめるよう電力業界に求めた。
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これを受け、経済産業省は11月17日、総合資源エネルギー調査会の専門委員会で、電力各社の火力発電に占める石炭火力の比率を上限5割(電力量ベース)に抑える案を正式に示した。年内にも省エネルギー法の告示を変え、2016年度以降、電力会社に指標の達成を求める。
新設する場合も現在普及している中で最新鋭クラスの高効率な設備のみ認め、老朽設備の廃止や稼働休止を求める。
既存設備では、ベンチマーク制度を活用し、発電効率に応じて事業者を評価する指標を導入、一定の基準を満たさず、改善の努力が見られない事業者名を公表する。
経産省によると、現時点では大手電力10社の大半が達成できていないという。
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環境省が「現段階では是認できない」との意見を提出した案件は下記の通りで、全て、超々臨界圧石炭火力である。
超々臨界圧発電所は超高温・超高圧(蒸気温度593℃以上、蒸気圧力24.1Mpa以上)の蒸気でタービンを駆動させ、発電効率を向上するとともに、燃料消費量・CO2排出量を低減する。
意見書 | 立地 | 事業者 | 石炭火力計画 | 備考 |
6月12日 | 山口県宇部市 西沖の山 (宇部興産所有地) |
山口宇部パワー | 120万kw(60万kw x2基) | 運転開始:2020年代前半 |
電源開発 45% 大阪ガス 45% 宇部興産 10% |
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8月14日 | 愛知県知多郡武豊町 | 中部電力 | 5号機 107万kW | 原油・重油燃焼の1号機は停止済み 同2号機~4号機(各37.5万kw)を2015年に停止、全機を撤去 運転開始:2021年度 |
8月28日 | 千葉県袖ケ浦市 出光興産貯炭場に隣接 |
千葉袖ケ浦エナジー | 200万kW(100万kW×2基) | 運転開始:2020年代半ば |
出光興産 33.3% 九州電力 33.3% 東京ガス 33.3% |
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11月13日 | 千葉県市原市 東燃ゼネラル石油千葉工場構内 |
市原火力発電 | 100万kW | 運転開始:2024年 |
東燃ゼネラル石油 50% 関電エネルギーソリューション 50% |
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11月13日 | 秋田県秋田市 | 秋田港発電所 | 130万kW(65万kW×2基) | 運転開始: 1号機 2024/3 2号機 2024/6 |
丸紅 関電エネルギーソリューション |
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石炭火力発電所の輸出に関しては、国際規制の強化を主導したい米国と、輸出を推進したい日本が対立しているが、日米両政府が一部規制の導入で合意したことが分かった。
加盟国が石炭火力の輸出時に政府系金融機関を通じて行う公的融資について、発電効率が高く温室効果ガス排出が比較的少ない「超々臨界圧」技術を用いる場合は認める一方、効率が低い技術を用いた場合は原則として支援を禁止する。
パリで11月16日に開幕するOECDの作業部会に共同提案し、加盟各国に協調を呼びかける方向で最終調整している。
付記
OECD作業部会は11月17日、下記を除き、公的金融機関からの融資を制限することで合意した。
①「超々臨界圧」技術、
②低所得国と島嶼国向けに限り、出力50万kw以下の「超臨界圧」や30万kw未満の「亜臨界圧」
米政権の高官が匿名を条件に語ったところでは、石炭プロジェクト全体の85%に当たる案件で今後、金融支援が打ち切られる。
合意によると、融資制限は4年後に再び厳格化される見通し。
国際協力銀行(JBIC)が2003~2014年度に資金支援した石炭火力の輸出案件(計画段階を含む)23件のうち、超々臨界圧はわずか1件にとどまる。
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