国際通貨基金(IMF)は11月13日、外貨不足に陥った加盟国を支援する特別引き出し権(SDR)の構成通貨に中国の人民元の採用が妥当とする見解をまとめた。
11月30日のIMF理事会で正式決定する。
評価方法の決定は70%の賛成で決まるため、米国(17.67%)と日本(6.56%) が反対しても通る。
SDRの評価の原則の変更や現行の原則の適用の抜本的な変更には85%の賛成が必要。
IMFは2010年に、新興国の出資比率を引き上げ、理事会への登用を増やす「IMF改革」に合意したが、85%の賛成が必要で、米国議会が賛成しないため、実施できない。
SDRは、加盟国のIMFへの出資比率に応じて各国に割り振られており、金融危機などで外貨不足に陥った場合、SDRと引き換えにドルや円など構成通貨と交換できる。
構成通貨は5年に一度、見直しを検討する決まりで、今年が見直しの年にあたっている。
構成通貨に採用する条件は、「財とサービスの輸出額」と「通貨が自由に取引できるかどうか」−−の2点で、2010年の見直し時には、中国はすでに財とサービスの輸出額の基準は満たしていたが、取引の自由度が不足とされ、採用を見送られた。
中国は今年に入って、SDR入りを目指す方針を公式に示し、人民元の取引活発化に向けた通貨・金融市場改革を実施した。
IMF事務局が7月に、「運用上の課題がある」との報告書をまとめた後、中国が人民元相場を従来より市場実勢に従って変動させるなど一段の改革を約束したことで、今回の判断につながった。
中国人民銀行(中央銀行)は11月14日、「人民元のSDR入りは、現行の国際通貨体制を改善し、中国と世界にともに利益をもたらす」との声明を発表し、理事会での正式決定に向けて各国の支持を求めた。
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SDR(Special Drawing Rights)はIMF がブレトン・ウッズの固定為替相場制を支えるために、1969年に創設した国際準備資産で、加盟国の自由利用可能通貨に対する「潜在的な請求権」といえる。
SDRは、IMFへの拠出割当額に比例して、加盟国へ配分される。これによって加盟国は、コストのかからない準備資産を得ることができる。
配分はこれまで4回
・1970年~1972年 合計93億SDR
・1979年~1981年 121億SDR
・2009年8月29日 1,612億SDR
・IMF協定の第4次改正(2009年8月10日発効)215億SDR
合計 2,041億SDR第4次改正の215億SDRは一度限りの特別配分で、1981年以降にIMFに加盟した5分の1以上の加盟国が、SDR配分を一度も受けていないという状況を是正するもので、全加盟国が、公平にSDR制度に参加できるようにするもの。
外貨が不足する加盟国は、保有するSDRと引き換えに、他の加盟国から外貨を融通してもらえる。
加盟国が保有するSDRが配分を上回った場合は、超過分に対して利子が支払われるが、逆に保有するSDRが配分を下回った場合は、不足分に対して金利を支払うことになる。
この金利は、SDRバスケットの構成通貨国・地域の短期金融市場における代表的な短期借入金利の加重平均を基に毎週決定される。
1981年に評価方式が見直され、財とサービスの輸出額が上位5位以内のIMF加盟国通貨を5年間固定の比率で加重平均して評価する方式となり、以降5年毎に見直しが行われるようになった。
ユーロができるまでは、米ドル・独マルク・仏フラン・日本円・ 英ポンドから構成されていた。
現在、SDRの通貨バスケットは、米ドル・ユーロ・日本円・ 英ポンドから構成されている。
SDRの価値は、0.66 米ドル + 0.423 Euro + 12.1日本円 + 0.111 英ポンドとなっている。
本年が見直し年となっており、人民元が加わることとなる。
SDRの米ドルでの価値は、毎日、ロンドン市場の正午の為替相場を基に IMFのウェブサイトに掲載される。
2011-2015
November 13, 2015
参考 2006-2010
構成通貨 比率 レート 米ドル換算 構成通貨 比率 0.660 米ドル 41.9% 1.00 0.660000 0.632 米ドル 44% 0.423 Euro 37.4% 1.079 0.456417 0.410 Euro 34% 12.1日本円 9.4% 122.58 0.098711 18.4日本円 11% 0.1110 英ポンド 11.3% 1.5221 0.168953 0.0903 英ポンド 11% 1 SDR = 1.384081
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IMFは8月4日公表した報告書や記者団に対するコメントで、人民元に公式準備通貨としての地位を与えるには、中国が為替制度の自由化を進める必要があると率直に指摘した。
中国は人民元の自由化に向け数々の施策を打ったが、その価値は市場で決定されておらず、国際準備通貨と見なされる上では大幅な自由化が必要になると述べた。
人民元の国際的な利用や取引がかなりの程度に達していることが、今や広範な指標で明らかになっているが、米ドルをはじめとする4つのSDR構成通貨は総じて、「自由に使用可能」という基準において元よりも「上位に」位置づけられていると述べた。
中国人民銀行(中央銀行)は8月11日、人民元売買の基準となる対ドルの為替レートの「基準値」の算出方法を変更すると発表した。
人民銀行は市場で取引される人民元の水準を基準値の上下2%以内に制限している。
これまでは基準値は銀行から毎朝報告される為替レートをもとに人民銀行が決めていたが、市場の実勢レートとの差が大きかった。8月11日からは、基準値を市場の前日終値などを参考に決め、市場の実勢を反映しやすくする。
これに伴い人民銀行は8月11日の基準値を前日から約2%切り下げた。
2015/8/11 中国、人民元/米ドル取引の基準値の算出方法を変更、人民元2%切り下げ
それまでは、人民銀行の設定する基準値は、前日の終値には無関係に、ほぼ同じ水準を維持してきた。
8月11日に基準値を前日の1ドル=6.1162元から6.2298元に下げて前日終値の6.2097元に近付け、翌日は更に6.3306元、更にその翌日は6.4010元まで下げ、それ以降はほぼ前日終値と同じ水準で設定している。
一般的には、輸出促進のための人民元の切り下げだと批判されたが、中国側はそれを否定している。結果的には、基準値の引き下げは基準値を実勢に合わすものであり、IMFの指導に対応したものであったようだ。
IMFは8月12日、人民元の基準値算出変更について、歓迎すべき措置だと表明した。
「為替相場の柔軟性拡大は、経済における決定的役割を市場に与えようと努力し、世界の金融市場への統合を加速させている中国にとって重要だ」と評価し、「中国は2─3年以内に、実質的な変動相場制に移行することが可能で、それを目指すべきだ」との見解を示した。
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