米議会下院と上院は12月18日、1兆1500億ドル規模の予算法案を可決した。大統領がサインし、同日成立した。
下院は12月17日に、6220億ドル規模の企業向け優遇税制法案を賛成318、反対109で可決した。
法案は上院に送られ、歳出法案とともに採決され、可決した。これまで一時的な措置だった研究開発費用の優遇税制などを恒久化する内容で、学生や低所得者、教師など中間層を支援する措置も盛り込まれており、民主党の支持も得られた。
共和党は、現在の租税政策をおおむね踏襲する内容だとした上で、多くの優遇税制が恒久化されることで、「議会が特定の減税措置を延長するかどうかについて米国民は毎年12月に心配する必要がなくなる」としている。
予算法案の議決は下記の通り。
上院 下院 共和党 民主党 無所属 合計 共和党 民主党 合計 賛成 27 37 1 65 150 166 316 反対 26 6 1 33 95 18 113 棄権 1 1 - 2 1 4 5 合計 54 44 2 100 246 188 434
米国では2016年予算案(2015/10~2016/9)が決まらず、ギリギリの9月30日に、12月11日までの暫定予算法案を可決した。
オバマ大統領は10月2日、債務上限問題について、解決する責任は議会にあるとして、野党共和党とは「交渉しない」と改めて表明。議会が上限を引き上げなければ、米国債のデフォルトが発生し「金融システムは危機に陥る」と警告した。
これを受け、米政府と議会指導部は協議を続け、10月26日遅く、連邦債務上限の引き上げと2年間の予算案の概要で合意に至った。
債務上限引き上げ:
米財務省は債務上限凍結が切れた2015年3月以降、緊急の資金繰り策によって債務残高を上限の18兆1000億ドル以内に抑えてきた。
今回、債務上限凍結を2017年3月15日まで再び延長し、それ以降については期限までに行った借り入れを含む金額を新たな上限として設定する。予算合意:
2017年9月30日までの全体的な資金調達額が決まった。
ただし、2017年9月までの2年分の予算は大枠が決まったが、予算執行の細かな配分を定める関連法案が成立しておらず、暫定予算の期限の12月11日を迎えた。
このため、米下院は12月11日、12日から5日間のつなぎ予算案を賛成多数で可決した。上院は可決済みで、オバマ大統領の署名を経て成立した。
12月16日には、更に12月17日~22日のつなぎ予算を可決した。
これでようやく、2016年予算案(2015/10~2016/9)が決まった。
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今回の予算案には、両党の妥協で長年の懸案が抱き合わせで含まれ、いずれも可決された。
1)原油輸出解禁
米議会与野党の幹部は12月15日、1975年から原則禁止してきた国産原油の輸出を解禁することで合意した。
米国では1970年代の第1次石油危機をきっかけに、安全保障上の理由から原油の輸出が原則禁止され、ガソリンなど精製された石油製品の輸出に限ってきた。
1973年のアラブ石油禁輸に伴い、 米国の石油資源を保護し、米国の消費者が値上げショックを受けるのを防ぐため、1975年12月にEnergy Policy and Conservation Act (EPCA) を成立させ、原油の輸出を禁止した。 カナダ向けは特別に輸出可能。
2014年6月25日、Pioneer Natural ResourcesとEnterprise Products Partners は商務省がテキサスのEagle Ford Shaleの超軽質油を輸出する計画を承認したと発表した。 いずれも個別の申請による承認(private ruling)である。
制度は変えず、最小限の加工をした「コンデンセート」と呼ばれる原油の一種を禁輸対象外の「石油製品」とみなしたもの。
2014/6/30 米国が原油輸出を一部解禁
シェール革命を背景に、原油生産がこの7年間で8割以上増え、原油の在庫がだぶつき、石油関連企業が輸出解禁を主張し、共和党が支援していた。
オバマ大統領や民主党は「地球温暖化対策に逆行する」などと反対してきたが、再生可能エネルギーの支援策(風力・太陽光発電への税制優遇の継続)と引き換えに野党側と折り合った。
付記
米パイプライン大手Enterprise Products Partnersは12月23日、1月の第1週に60万バレルの米国産原油をタンカーに積むと発表した。
スイスの商社 Vitol が購入するが、最終買い手は明らかにしていない。
2)IMFの資本改革案
IMFは2010年に、新興国の出資比率を引き上げ、理事会への登用を増やす「IMF改革」に合意した。
改革案が実現すれば、IMFへの出資比率で米国、中国が日本に続く第3位に浮上、更に上位10カ国にインド、ロシア、ブラジルが入り、新興国の発言力が増す。
IMFへの出資比率 (%)
現状 改革後 米国 17.67 米国 17.41 日本 6.56 日本 6.46 ドイツ 6.11 中国 6.39 英国 4.51 ドイツ 5.59 フランス 4.51 英国 4.23 中国 4.00 フランス 4.23 イタリア 3.31 イタリア 3.16 サウジ 2.93 インド 2.75 カナダ 2.67 ロシア 2.71 ロシア 2.50 ブラジル 2.32
しかし、重要事項の議決には投票権で85%以上の賛成が必要で、唯一15%超の比率を持つ米国が事実上の拒否権を持つ。
米国では台頭する中国への警戒心が強く、共和党を中心とする議会の反対で承認を見送ってきた。
BRICSの第6回首脳会議は2014年7月15日、「2010年に採択されたIMF改革案が実行されないことに失望し、深刻な懸念を持っている。これはIMFの正当性、信用性、有効性を傷つけている」と厳しく批判した。
ルー米財務長官は3月18日、議会での証言で、IMFの改革を議会が承認しないことは戦略的に危険で、中国が主導するアジアインフラ銀行創設といった問題で米国の影響力が低下するとの懸念を示した。改革案の米議会での批准が遅れていることで、新興国の間でIMF以外の機関から資金を調達する傾向が出ているとの認識を示した。
オズボーン英財務相は12月7日、IMFでの中国の役割拡大に反対する米議会の姿勢について「悲劇」だと批判した。
IMFでは、中国やインドなど一部の国だけに割当を増やす暫定策も検討していた。この場合、米国は増資がないため、議会の承認は必要がない。
今回、与野党幹部は、歳出法案にIMF改革の承認を盛り込むことで合意した。
共和党が希望していた原油の輸出解禁などをのむ一方、民主党側がIMF改革などを入れるよう求め、折り合った。
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