化学工場で膀胱癌発症

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厚生労働省は12月18日、顔料の原料を製造する国内の化学メーカーの工場従業員と退職者の計5人が膀胱癌を発症したと発表した。

問題の工場は三星(みつぼし)化学工業の福井工場で、12月3日、工場の従業員約40人のうち47〜56歳の男性4人と、約12年前に退職した43歳の男性1人が 膀胱癌を発症したと労働局に報告した。5人の勤務歴は7年半〜24年で、2014年2月〜2015年11月の診察で判明した。


工場では膀胱癌を引き起こすとの指摘があるオルト−トルイジンのほか、発がん性が指摘されるオルト−アニシジン、2、4−キシリジン 、パラ−トルイジン、アニリンの計5種類の芳香族アミンを使用、ドラム缶に入った芳香族アミンの液体をポンプを使って反応器に移し、他の物質と合成して 染料や顔料の中間体を製造していた。

厚労省によると、「芳香族アミンには、問題が起きて製造禁止になっている物質もあるが、オルト―トルイジンなど5物質については、国内でがんの報告は初めて。」

同社ではこの物質の危険性を認識し「防じん・防毒マスクはして換気もしていた」と説明しているが、厚労省は「どこかで漏れがあったと判断せざるを得ない」としている。5人には労災申請を勧めている。

福井新聞によると、一人の男性は、18年余り、福井工場に勤務。オルト―トルイジンからつくった粉末状の物質を袋詰めする作業や、機器の修理の際に機器にこびりついた粉末の結晶をへらで落とす作業に従事し 、「作業が終わると顔が(粉で)真っ白になった」と振り返る。

工場では、芳香族アミンの動物への発がん性を指摘する文書が約4年前に従業員に配布され、この男性は「みんなびっくりした」と話し、「そのときから粉じんにさらされていることを上司に言い続けてきたが、会社は『今まで通りやれ』と言うだけだった」と憤った。

作業実態や発生原因について所轄の労働局・労働基準監督署及び労働安全衛生総合研究所で調査を行っている。


厚労省は、予防的観点から、12月18日、日本化学工業協会及び化成品工業協会に対して、芳香族アミンによる健康障害の防止対策の適切な実施を要請した。

また、緊急対応として、当該事業場で取り扱われている芳香族アミンのうち、膀胱癌との関連があるとされているオルト-トルイジンを取り扱う事業場として厚労省が把握している 約40事業所を対象に、防毒マスクの着用など労働者のばく露防止と健康管理の徹底が図られるよう、労働局・労働基準監督署による調査・指導を実施する。

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三星化学工業は1953年設立で、有機顔料中間体をコア事業とし、医農薬中間体や写真薬、機能性色素など様々な分野に事業を展開して いる。

福井のほか、相馬、埼玉に工場を持つ。

福井工場 アセト酢酸アニライド系化合物の製造 (有機顔料中間体)
相馬工場 アミノベンゼン系化合物、フタルイミド系化合物、アセト酢酸アニライド系化合物の製造
埼玉工場 顔料、写真薬、医薬、農業等の中間体の開発、製造

福井工場で取り扱う芳香族アミンは下記の通り。

用途

有害性情報

IARC(国際がん研究機関) 日本産業衛生学会 ACGIH(米国産業衛生専門家会議)
オルト-
トルイジン
染料・顔料の中間体原料、エポキシ樹脂硬化剤原料 グループ1
(ヒトに対して発がん性がある)
発がん分類 2A
(ヒトに対しておそらく発がん性がある)
許容濃度 1ppm
発がん性区分 A3
(動物に対して発がん性がある)
TLV-TWA 2ppm
オルト-
アニシジン
染料中間体 グループ2B
(ヒトに対する発がん性が疑われる)
発がん分類 2B
(ヒトに対する発がん性が疑われる)
許容濃度 0.1ppm
発がん性区分 A3
(動物に対して発がん性がある) 
TLV-TWA 0.5mg/m3
2, 4-
キシリジン
染料・顔料中間体 グループ3
(分類できない)
発がん性区分 A3
(動物に対して発がん性がある)
※Xylidine(異性体混合物)について
p-トルイジン 顔料中間体・農薬合成原料 評価なし 発がん性区分 A3
(動物に対して発がん性がある)
TLV-TWA 2ppm
アニリン ウレタン中間体合成原料、染料・ゴム製造用薬品・医薬・農薬合成原料 グループ3
(分類できない)
発がん性区分 A3
(動物に対して発がん性がある) 
TLV-TWA 0.5ppm skin


安衛法上の位置付けは、いずれもSafety Data Sheet 交付対象物質で、当該物質を取り扱う事業者は、労働安全衛生法第28 条の2に基づき、化学物質による危険性又は有害性等の調査(リスクアセスメント)等の実施に努めること、労働安全衛生規則に基づく一般的健康障害防止措置を講ずることが求められる。


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