住友商事、マダガスカルのAmbatovy ニッケルプロジェクトで約770億円の減損損失を計上  

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住友商事は1月13日、マダガスカルで進めてきたニッケル採掘・精錬の「Ambatovy Nickel Project」に関してニッケル価格の下落を理由に約770億円の減損損失を計上すると発表した。

同社は、原油や鉄鉱石などの価格も下落していて、さらに損失を計上する可能性もあるとし、2015年10月30日に公表していた3月期の最終利益 2300億円の予想を「未定」として撤回した。

足元のニッケル価格の下落を踏まえ、中長期価格の見通しを見直した結果、プロジェクト会社が保有する固定資産の簿価を全額回収することは困難と判断したとしている。

Ambatovy Nickel Projectに40%出資するSherritt Internationalは1月13日に以下の発表を行った。

製品市価の下落から、税引き後で24億米ドルの評価損を認識
(ニッケルの長期的価格として US$8.50/lb を前提)

Sherrittの損失持分は9.6億米ドル(13億カナダドル) で、これに鉱業権などの分を加え、16億カナダドルの損失を計上する。

これを住友商事(32.5%)に当てはめると、7.8億ドルとなる。
(但し、2015/9までは出資比率は27.5%であり、9月末に買収した5%の買値なども考慮し、評価損を計算したと思われる。)

2010年稼動を目指して投資を決定したが、生産開始は約2年ずれ込んだうえ、総事業費は当初見込みの33億ドルから72億ドルに拡大、2010年頃には1ポンド10ドル前後であったニッケル価格は3.8ドルに下落している。

住友商事では2020年時点のロンドン金属取引所のニッケル価格を当初想定の1ポンド当たり10-11ドルから8.5ドルへと引き下げた。

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住友商事は2014年9月に米国のタイトオイル開発などで2700億円の大幅な損失を計上すると発表した。

2014/10/1 住友商事、米国のタイトオイル開発などで大幅な損失計上

当ブログでは2015/1/29の丸紅の減損損失の記事で、これに触れ、以下の通り述べている。

「住友商事はアフリカで世界最大級のニッケル鉱山開発を進めているが、操業開始が大幅に遅れたほか、市況急落もあり、損失を計上する可能性がある」

ニッケル価格はその後も値下がりを続けており、他の株主とも協議し、損失計上を決断したと思われる。

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住友商事は2006年10月30日、マダガスカル共和国で日加韓共同で大型ニッケル資源の開発を推進すると発表した。

前年の2005年8月に住友商事とカナダのDynatec Corporation が契約を締結、2005年10月に住友商事25%出資でスタートしたが、1年後にKorea Resources CorporationとSNC Lavalin が参加し、新体制でスタートしたもの。

ニッケルの鉱石から地金までの一貫生産を行う Ambatovy Nickel Project の概要は下記の通り。


合弁会社名 ① Ambatovy Minerals  ニッケル採掘
Dynatec Madagascar  ニッケル精錬
株主

(当初)
住友商事  27.5% ---- ファイナンスの組成と販売を担当
Korea Resources Corporation 27.5% ---- ファイナンスの組成と販売を担当
Dynatec Corporation (Canada) 40.0% ---- 操業を担当
SNC Lavalin Inc. (Canada)  
5.0% ---- 設計/資機材調達(EPCM)を担当

Dynatec はエンジニアリング・鉱山会社で、ニッケルについては、最高レベルの知見・経験を持つ。

SNCは幅広い分野で設計・エンジニアリング・建設・操業マネジメント
を実施する世界有数のエンジニアリング会社で、ニッケルの湿式製錬プロジェクトを手がけた実績を持つ。

Korea Resources(韓国鉱物資源公社)海外資源開発投資の国策会社

(現状)
住友商事 32.5% ----2015/9 SNC Lavalin分を買収(後記)
Korea Resources Corporation 27.5%
Sherritt International (Canada) 40.0% ---- 2007 Dynatec を買収

住友商事と韓国鉱物資源公社はそれぞれ、ニッケル地金の50%の販売権をもつ。

立地


Ambatovy鉱山はAntananarivoから東へ80km、海抜1,000m程のAmbatovyに位置する。
鉱山面積は約1,300haで、鉱石は深さ20m~100mを削ぎ取るように露天掘りで採掘される。
発掘後、水と混合させたスラリー状態にして、スラリーパイプラインで東海岸の港町Toamasiaまで220km運び、精錬 する。

初期投資 2006/10時点 25億米ドル→2007/8時点 33億米ドル

2007年8月、21億米ドルのプロジェクトファイナンス契約を締結
 国際協力銀行(協調融資を含め7億米ドル)
 韓国輸出入銀行(同 6.5億米ドル)
 カナダ輸出開発公社(3億米ドル)
 欧州投資銀行(3億米ドル)
 アフリカ開発銀行(1.5億米ドル)


2013年3月の報告では、これまでの投資総額はパイプラインの設置、鉄道などのインフラ、ニッケル地金生産のためのリファイナリー向けなど、約55億ドルを上回った。

現在の報道では72億ドルとされる。

能力
ニッケル地金 60,000トン---- 2011年世界シェア 4%
コバルト地金 5,600トン---- 2011年世界シェア 7%
硫安  190,000トン
鉱山の寿命 少なくとも27年間を想定
当初、生産開始は2010年初頭としていたが、ニッケル価格低下や、現地の政権交代、採用する生産技術の複雑さなどが相まって、延期が続き、2014年1月にようやく生産を開始した。

2014年1月23日、プラントでの鉱石処理量が30日間平均でフル生産時の70パーセントに到達し、商業生産を開始したと発表。

2015年9月30日、5%を出資するカナダのSNC Lavalin Inc. はオプションを行使し、権益を住友商事に約6億カナダドル(4.18億米ドル)で売却した。

設計/資機材調達(EPCM)を担当するSNC LavalinはFinancial Completion (財務面でみた完工)時に離脱するオプションを持っていた模様。
本プロジェクトは2015年9月21日に
プロジェクトファイナンス契約上の全10の条件を達成し、Financial Completion となった。

Financial Completion となると、プロジェクト・ファイナンスは、ノンリコース・ローン(非遡及型融資)に切り替わる。

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豪州では、ニッケル精錬を手掛けるQueensland Nickel が1月18日、経営破綻した。ニッケルの市況が悪化し、債務不履行に陥った。
同社は豪州の富豪で下院議員のClive Palmer が100%出資している。

同社はニッケル原料をニューカレドニアなどから輸入している。

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