ガス絶縁開閉装置カルテルに関する欧州一般裁判所の判決

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欧州一般裁判所は1月19日、ガス絶縁開閉装置の欧州での販売に関するEU競争法違反に関して、三菱電機と東芝が制裁金の減額を求めていた裁判で、提訴を棄却し、欧州委員会の主張を支持する内容の判決を下した。

この結果、欧州市場でのカルテルに参入しないということを決めて摘発された場合も、制裁金の計算で、参入した企業と同じ扱いを受けることが確定した。
(欧州市場でのカルテルに参入しないということを決めることが違法であることは、2013年12月の判決で確定している。)

ガス絶縁開閉装置は、しゃ断器、断路器、母線等をガスを封入した金属容器に収納して構成された開閉機器システムの総称。

本件経緯は下記の通り。

(単位:千ユーロ) 2007/1
 制裁金
2011/7
一般裁判所
2012/6 
 制裁金
事実関係 制裁金
EU発表 各社発表 2013/12
司法裁判所
2016/1
一般裁判所
Siemens(ドイツ)   396,563 却下 上訴 却下
Siemens(オーストリア)    22,050
ABB(スイス)       0
三菱電機 2002/10 JV
TMT & D
  118,575 113,920 連帯
4,650

取り消し
(違反有・ 計算誤り)

上訴 74,817

連帯
  4,650

却下 2012/6の制裁金が確定
東芝    90,900 86,250 56,800
Alstom(フランス)    11,475
Areva/Alstom(フランス) 53,550
日立製作所    51,750 却下
Schneider(フランス)    8,100
富士電機システムズ    3,750 情報提供
減額→3,550
日本AEパワーシステムズ
(富士電機システムズ、
日立、明電舎のJV)
   1,350
合計   750,713

1)

EUの欧州委員会は2007年1月24日、電力用ガス絶縁開閉装置で国際カルテルを結んでいたとして日欧10社に7億5千万ユーロの制裁金支払いを命じた。

少なくとも1988年からカルテルを結んでいたとされる。
日本企業は欧州での販売実績はほとんどないが、上記の取り決めに従って
欧州で応札せず、直接的に欧州での競争を制限したため制裁金が課せられた。

当初のEU発表分では、三菱電機 118,575千ユーロ、東芝 90,900千ユーロとなっているが、
各社が受け取った通知は、
三菱電機 113,920千ユーロ、東芝 86,250千ユーロ、JV連帯 4,650千ユーロとなっており、その後のEU発表も後者となっている。

2007/1/26 EU、電力用ガス絶縁開閉装置のカルテルで1200億円の制裁金

2) これに対し、Siemens、三菱電機+東芝、日立、富士電機システムズが処分の見直しを求めて欧州一般裁判所に提訴した。

 日本企業各社は欧州競争法に違反する行為を行っていないとして提訴。
 Siemensは、「制裁金の額は無茶苦茶で、どうしてこんな額になるのか理解できない」として提訴した。

3) 2011年7月に一般裁判所の判決があった。
欧州で販売していない日本企業に制裁金が課せられたことについては、欧州市場は欧州企業に、日本市場は日本企業とという(書類にはない)合意があり、日本側は欧州市場への参入を行わず、欧州側は欧州市場割当の結果を日本側に連絡していること、欧州側は日本市場への不参入を約束するとともに、一部の海外市場に参入しないことを約束していることから、カルテルに参加していると認めた。

Siemensと日立は却下、富士電機システムズ は情報提供を評価し、制裁金を減額。
三菱電機と東芝については、事実認識についてはEUを支持、制裁金については
算定基準の違いを理由に決定を無効とした。

欧州委員会が三菱電機と東芝には2001年の売上高を使用し、欧州企業には2003年の売上高を使ったことを問題とし、平等な扱いでないとみなした。

欧州委員会が年度を変えた理由は、東芝と三菱電機は2002年10月に両社の電力系統・変電事業を統合して50/50の合弁会社TMT & Dを設立した(2005年4月末に解消)が、カルテルにはJVではなく、東芝と三菱電機として参加していたため、JV設立前の両社の売上高を採用したもの。

裁判所は、意図は理解できるが、何か別の方法を使用することにより、日本企業を不平等に扱わないようするべきであったとし、平等処理の原則に反しているとして、制裁金を取り消した。

2011/7/15 欧州一般裁判所、東芝・三菱電機への電力用ガス絶縁開閉装置カルテル制裁金を取り消し

4)

事実認識(有罪・無罪)について、Siemens と三菱電機/東芝が上訴。

司法裁判所は2013年12月にこれを却下した。

この判決により、日本企業が欧州市場で販売をしない約束をすれば、カルテルに参加していると判断され、制裁金を命じられることとなった

2013/12/27 ガス絶縁開閉装置事業のカルテル制裁金に関する欧州司法裁判所の判決

5)

2011年7月の判決に基づき、2012年6月に三菱電機/東芝に対し欧州委員会から新しい制裁金(他社と同じ2003年の TM T&Dの売上高から計算)が下されたが、両社は減額を求めて一般裁判所に提訴。

6)

今回の判決で確定。


今回の判決の理由は下記の通り。

1)欧州市場に参入しないとしただけで、欧州のマーケットシェアの配分に参加していないため、減額すべきとの主張に対して:

欧州市場に参入しないと決めたことで、欧州市場のマーケットシェア配分が欧州のメーカー間で実行できることが確実となり、全体として違法行為に貢献しており、責任度合を減らすことは出来ない。

2)2003年のそれぞれの会社の売上高を基準に計算すべきとの主張に対して:

2011年の判決では、両社に対してのみ2003年ではなく2001年の売上高を使ったとして無効としたため、制裁金は2003年の売上高を基に計算することとなる。
しかし、両社は
この事業を統合して50/50の合弁会社TMT & Dを設立したため、両社の2003年の売上高はゼロである。このため、2003年のTMT & Dの売上高を使用することは妥当である。



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