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中国は2001年12月にWTOに加盟した。
中国は、WTO加盟に伴い、 アンチダンピング(AD)措置及び相殺措置に係る規則・手続をAD協定及び補助金・相殺措置協定に整合化させることを約束している。
他方、中国以外のWTO加盟国が、中国産品についてAD 措置又は相殺措置に係る調査を行う際の価格比較及び補助金額の算定に関し、中国を「非市場経済国(Non Market Economy)」として扱う特例が、加盟後15年間認められた。
WTO協定では「貿易の完全な又は実質的に完全な独占を設定している国で、すべての国内価格が国家により定められているものからの輸入の場合には、規定の適用上比較可能な価格の決定が困難であり、また、このような場合には、輸入締約国にとって、このような国における国内価格との厳密な比較が必ずしも適当でないことを考慮する必要があることを認める」と規定している。
この結果、「市場経済国」との認定を受けていない国の場合、ダンピング調査の際に、輸出価格は、国内価格との比較ではなく、経済発展レベルが近い代替国の価格と比較して判定される。EUは中国に市場経済国待遇を適用せず、しかも中国よりコスト水準の高い国を代替国に採用するケースが多く、この結果、ダンピングと判定される確率も高くなっているといわれている。
EUは2006年10月に中国・ベトナム産革靴に対する反ダンピング税徴収法案を僅差で可決し、中国製品には16.5%、ベトナム製品には10%の反ダンピング税が課されたが、中国商務部はこれについて、特にEUが中国を非市場経済国待遇をしていることに猛烈に反発した。
中国政府側は、大々的に中国が不公平は待遇を受けていると宣伝を繰り広げた。
2007年には中国は連続12年、反ダンピング調査を一番多く受けた国家であるとし、2014年には中国は18年間、世界で最も反ダンピング調査を受けた国だとしている。
これまでにロシア、ブラジル、ニュージーランド、スイス、オーストラリアなど81国が中国の市場経済国家の地位を認めた。しかし、米、EU、日本、カナダなどの多くの国々や地域は未だに承認していない。
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WTOは中国を「非市場経済国」と認定しているが、その根拠となっている条項は15年が経過する2016年12月に失効する。
中国は自動的に「市場経済国」へ移行すると主張しているが、日米欧などは12月までに個別に判断する方針である。
EUは2月2日、加盟28カ国の通商担当相らが参加する非公式理事会を開催し、この問題を初めて取り上げた。
「市場経済国」となった場合、EUは中国からの輸入に対し反ダンピング措置を取りにくくなる。欧州委員会は、何の対応策もとらずに認めれば、安い中国製品が欧州市場に大量流入し、域内で最大21万人強の雇用を失うとの試算を示した。
米シンクタンク EPI は2015年9月に公表した報告書で、中国に「市場経済国」の地位を認めれば、EUは最大350万人の雇用が失われる恐れがあると指摘した。
英国やオランダや北欧諸国などが「市場経済国」認定に理解を示す一方、製造業に占める鉄鋼業の比重が大きいイタリアなどは反対姿勢を示している。
過剰生産の結果、中国からEUへの鉄鋼輸出は過去1年半で2倍に急拡大している。
中国のダンピングに対して反ダンピング税を課すことができにくくなるために、鉄鋼、窯業、紡績などの産業は壊滅的な打撃を受けるだろうとしている。
欧州委は当初、2月にも中国を「市場経済国」として認定するよう加盟国に提案する方針だったが、産業界の猛反発を受けて撤回した。
欧州域内の産業や雇用への本格的な影響を調査し、7月にも欧州委としての方針を再検討する。
マルムストローム欧州委員は、「問題は中国が実際に市場経済国なのかではなく、中国との貿易問題への対応をどう見直すかだ」と強調、市場経済国の認定に理解をみせた一方、ダンピングや政府補助金の乱用などへの対抗措置の強化が欠かせないとの考えをにじませた。
2015年末までのWTOのメンバーは161か国で、もしEU(28カ国)が認めた場合、WTO内部で中国の市場経済国家の地位を認める国が109か国、全体の2/3になる。
このため、中国はEUの承認を特に重視している。
中国を市場経済国に認定するかどうかの判断は欧州だけでなく、日米も同様に迫られる。
EUは日本に対し、中国の市場経済国の認定問題や過剰生産への対応策を伊勢志摩サミットで主要議題に取り上げるよう求める方針とされる。
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