三菱ケミカルホールディングスは2月4日、第3四半期の決算を発表した。
営業利益は2283億円で前年同期比 +83.7% となったが、親会社株主帰属純利益は314億円で -58.4%となった。
これは前年同期の特別損益が+328億円であったのに対し、当期は-651億円となったことによる。
同社は以下の発表を行った。
当社のテレフタル酸事業を運営する連結子会社であるMCC PTA India 及び 寧波三菱化学において、近年の業況の著しい悪化及び将来においても事業環境の回復が見込めないことから、両社が保有する固定資産の回収可能性を検討したところ、両社にて、628億円(MCC PTA Indiaが424億円、寧波三菱化学が204億円)の固定資産減損損失を特別損失に計上しました。
同社は2015年12月9日の事業説明会で、素材分野のアクションプランで「テレフタル酸事業の抜本的対策の実施」 を挙げている。
三菱化学石塚社長の年頭挨拶でも、「テレフタル酸は中国の過剰設備により厳しい状況が続いているが、2016年度中に抜本的な対策を行う」としていた。
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三菱化学は、国内では黒崎と松山にテレフタル酸の工場を持ち、海外では韓国の三南石油化学とインドネシアのPT. Mitsubishi Chemical Indonesia (旧 バクリー化成)に参加していた。
1997年8月にインド計画を発表した。
「3大合成繊維の原料を擁する世界で唯一のメーカーとして、またポリエステル主原料であるPTA・EG (エチレングリコール) 両方を持つメーカーとして、それぞれの戦略と整合性を持ちながら、かつ川下分野においても、その展開を強力に推進することで、世界有数のポリエステルメーカーとしての地位を確固たるものとすべく取り組んでいく。」
「生産設備の需要地立地こそがPTA事業の競争力の基盤であるという考えに立ち、各拠点を核とする需要地域での事業展開を推進していく。
これにより技術のみならず規模のうえでも世界有数のPTA事業会社としての地位を確立することになるものと考えている。」
1999年9月に、黒崎事業所のテレフタル酸製造設備を休止し、テレフタル酸の国内生産を松山工場に集約した。
2004年3月には中国計画を発表した。
「成長市場で立地、製造・販売を行い、収益を確保しながら事業拡大・競争力確保を行うという方針に基づき、日本・韓国・インドネシア・インドの4つの拠点でPTA事業を推進してきた。中国においても、経済急成長の中、ポリエステル繊維等の需要が急速に拡大してきている。その原料として使用されるPTAの需要は、2003年中国全体で約830万トン規模に達しているが、総需要の54%を輸入に依存している現状に加え、今後年10%以上の高い需要の伸びが予想されていることから、三菱化学は、これら旺盛な需要に応えるべく、中国国内での製造設備設置について事業化検討を実施してきた。
その結果、世界でトップクラスの三菱化学独自の製造技術を用いることにより、中国国内においても品質・価格面で競争力のある製品をお客様に提供することが十分可能であると判断し、今回の事業化を決定した。」QTAは一段酸化PTAで、同社ではPTAは主に非繊維用途、QTAは主に繊維用途としている。
この時点までは、三菱化学はテレフタル酸事業を成長事業とみなし、投資を続けていた。
その後、世界中でPTAの大増設が行われた。
本ブログは2006年に次のとおり書いている。
世界中でPTAの大増設が続いている。筆者のデータベース更新情報では4/13に欧州、ブラジル、中国、タイのPTAの記事が同時に載った。
PTAはポリエステル繊維やペットボトルの原料で、需要は伸びている。中国では年率10%の成長が見込まれている。しかし、こんなに増設して大丈夫であろうか。これもバブルではないのだろうか。
2006/3のMETI「世界の石油化学製品需給動向」では2007年の全世界の需要を3,700万トン、能力を4,400万トンとしており、能力が上回っている。
しかし、この能力は過小とみられており、例えば、中国の能力を1,230万トン(生産836万トン)としているが、中国の情報では1,840万トン(生産1,400万トン)となっており、600万トンの差がある。2006/4/17 高純度テレフタル酸(PTA)の大増設
三菱化学は2008年12月に「2008-10年度の中期経営計画の見直し」を発表したが、そのなかで、テレフタル酸については以下の通りとした。
テレフタル酸は徹底したコスト削減とアライアンスを検討する。
1) インド、インドネシア、中国では海外企業との提携による販売・生産体制再構築
2) コスト競争力(合理化によるコスト削減、不採算工場の撤退検討)
3) 海外Global Head Quarters による購買/販売/技術面での機動力あるマネジメント
2009年2月にテレフタル酸事業の事業構造改革を発表した。国内生産から撤退、本社機能を海外に移す。
1.松山工場テレフタル酸と水島事業所の原料パラキシレンの停止
松山工場 テレフタル酸(QTA) 能力250千トン 2010年12月停止予定 水島工場 パラキシレン 能力100千トン 2010年5月停止予定 2.テレフタル酸事業の本社機能移転
本社機能 シンガポール 2009年6月 技術に関する本社機能 インド(西ベンガル州ハルディア) 2009年末
2009年5月にシンガポールにMCC PTA Asia Pacific を設立した。
2009/2/24 三菱化学、テレフタル酸事業の事業構造改革
三井化学では、中国での新増設で、2013年以降大幅余剰が継続する(供給過剰 1500万トン)と見た。(2014/2)
三菱化学は今回、近年の業況の著しい悪化及び将来においても事業環境の回復が見込めないことから、インドと中国について減損損失を計上した。
同社の拠点は下記のとおり。
社名 | 株主 | 立地 | 能力 千トン | ||
韓国 | 三南石油化学 (Sam Nam Petrochemical) |
三菱化学 40% 三養社 40% LGカルテックス 20% |
麗川 | PTA 300 QTA 1,400 計 1,700 |
2015/3現在の韓国石化協資料では 能力は1,800千トンとなっている。 |
インドネシア | PT. Mitsubishi Chemical Indonesia 旧称 バクリー化成 |
三菱化学 83.3% 日本アジア投資 16.7% |
メラク | PTA 640 PET 52 |
当初 三菱化学 57.4% 日本アジア投資 17.1% Bakrie & Brothers 25.5% |
インド | MCC PTA India | 三菱化学 66% 州産業開発公社 5% 三菱商事 9% 日商岩井 8% トーメン 5% 丸紅 5% 住金物産 2% |
西ベンガル州ハルディア | ① 470 ② 800 |
投資額 ①400億円 ②426億円 |
中国 | 寧波三菱化学 | 寧波PTA投資* 90% 中国中信集団(CITIC)10% |
浙江省 寧波市 |
600 | *三菱化学 61% 伊藤忠商事 35% 三菱商事 4%
三菱化学減損損失 |
三井化学も2014年2月に高純度テレフタル酸(PTA)の再構築を発表している。
2014/2/10 三井化学の事業構造改善計画
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