アルゼンチン政府は2月28日夜、債務再編を拒否していたElliott Management など複数のファンドに対し、世界各国の訴訟で和解するため46億5300万ドルを支払うことで合意した。これは、ヘッジファンドが主張していた債務全額の約75%に相当する。
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アルゼンチンは2001年に債務危機が発生し、政府は 2002年1月、イタリア・リラ建て国債(2,800万ドル相当)の利払い停止を発表、国債のデフォルトとなった。3月には、円建て国債の利払いも不履行となった。
その後、IMFや他の国際機関とも債務返済について合意、民間債務について2004年12月に債務再編案を提示した。
対象となる民間保有の国債の元本総額は約810億ドルで、この75%をカットするというものであったが、2005年と2010年の合意でデフォルトに陥った国債全体の92.4%が受け入れた。
これに応じなかった"holdout"債権者のデフォルト状態の債権の残高は未払いの利息も含めてざっと150億ドルになっている。
米国の富豪Paul Singerが支配するヘッジファンド、 Elliott Managementの子会社のNML Capital Fund とAurelius Capital Management が約15億ドルの支払いを求め、米国で訴訟を起こした。
これらは当初からの債権者でなく、"holdout"債権者から安く(再編案よりは高い)買い取って債権者になったもの。
アルゼンチン政府は「ハゲタカ」と呼んだ。
2012年にニューヨーク連邦地裁のThomas Griesa判事が判決を下した。
アルゼンチンが債務再編に応じた新債券保有者に支払いを続けるのであれば、"holdout"債権者の保有債券についても、全額支払わねばならない。
もし"holdout"債権者に支払わない場合は、米国の金融機関はアルゼンチン政府から新債権保有者への支払い手続きをしてはならない。
(複数の債権者に対し返済の優先劣後を設けないとするPari Passu 条項:債権者平等条項を適用)
これに対し、アルゼンチン政府は米国の最高裁判所に対し、アルゼンチンの債務再編に応じていない債権者への支払いを命じた下級審の判決を見直すよう求めていたが、最高裁は2014年6月16日、これを却下した。
この結果、アルゼンチン政府は新債券保有者に対し、利息を払う意思もあり、資金もあるにもかかわらず、利息を払えなくなり、デフォルトとなった。
米連邦地方裁判所のThomas Griesa判事は2015年6月5日、2001年のアルゼンチンのデフォルトの際に債務再編に応じなかった "holdout" (不服)債権者に対して新たに54億ドルを支払うようアルゼンチン政府に命じた。
その後、いろいろの動きがあったが、これまで解決に至らなかった。
2015/6/10 アルゼンチンの債務危機、更に深まる
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今回の合意は、Elliott Management と、これと組むヘッジファンドのAurelius Capital Management、Davidson Kempner、Bracebridge Capital に対し、46億53百万ドルを支払うというもの。
この額は、原告側のニューヨークでの要求額(元本+金利)59億ドルの75%に相当する約44億ドルに、ニューヨークの裁判外で和解する手数料、弁護士費用など235百万ドルを加えたもの。
2004年12月の債務再編では75%がカットされており、これを拒否した債権者から債権を安く買い取ったヘッジファンドにとっては有利なもので、ヘッジファンドは「われわれは合意に達して満足している」としている。
2015年12月に就任したマクリ大統領は経済再建のために外資の流入が不可欠だと考えており、債務問題の解決を重要視した。
2016年1月からニューヨークで交渉を再開し、すでに複数の欧米のファンドとは合意に達していた。
アルゼンチンの経済財務相は「15年間で初めて、アルゼンチンはデフォルトからの脱却を開始した」と述べた。
アルゼンチン政府は、この支払のため、海外債券市場で借り入れる必要がある。
地元報道によると、引き続き合意していない小規模な投資家は残っている。さらに最終的な合意はアルゼンチン議会の承認が必要となるが、与党は議会で過半数を占めておらず、承認には曲折も予想される。
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