ブラジル鉄鋼大手のUsiminas は4月18日、臨時株主総会を開き、10億レアル(約300 億円)の増資を承認した。
1株 5レアルの普通株を2億株発行、株数は 505百万株から705百万株となる。他に約20億円の優先株を発行する。
既存の株主に新株優先引受権があり、4月22日から5月23日まで申し込みを受け付ける。
新日鉄住金は他の株主が引き受けない場合、増資額の全額にあたる10億レアルを引き受ける意向だが、共同出資するTechint Groupの鉄鋼大手Ternium がどの程度の出資に応じるかが焦点となる。
Techint Groupは、アルゼンチン、イタリアを拠点とする財閥。鉄鋼、鋼管、石油、ガス、建設、産業機械、ヘルスケアなどの事業を手掛ける。
イタリアの市民権をもつ Rocca 一族が、オランダの財団を通じて各グループ企業を支配している。
傘下に鉄鋼メーカーTernium、鋼管メーカーTenarisを持つ。
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ブラジルの経済低迷を受け、Usiminasの2015年12月期の連結純損失は36億8500万レアル(約1200億円)で運転資金が不足しており、3月中旬が期限の借入金を返済すれば資金ショートする状況であった。
金融機関は借入金の返済猶予の条件として、主要株主の追加出資を求めた。
しかし、Usiminasの協定株主で、ともに3割弱の議決権を保有する新日鉄住金などの日本グループとTerniumは、再建方法を巡って対立してきた。
ブラジルでは、上場会社の議決権の過半を有する株主が、会社の意思決定、株式譲渡等につき協定を締結することができる。
Usiminasの協定株主は、議決権の過半数を確保した上で、株主総会、経営協議会(取締役会に相当)において議決権を統一的に行使することを取り決めている。
現状は下記の通りで、詳細は後記の通り。
議決権 | 協定内 | |
日本グループ合計 | 29.45 | 46.12 |
Ternium Group | 27.66 | 43.31 |
Usiminas従業員年金基金 | 6.75 | 10.57 |
協定株主計 | 63.86 | 100.00 |
新日鉄住金とTerniumは1年以上にわたり、Usiminasの経営をめぐって意見が対立しており、2月に行われた前回の取締役会も増資について合意せずに終わっている。
新日鉄住金は大幅増資を主張したのに対し、Terniumは、限定的な増資 は受け入れるが、Usiminasの鉄鉱山会社 Mineração Usiminas S.A.(MUSA) のキャッシュの一部を流動性改善に充てるよう求めた。
MUSAについては 2010/10/4 住友商事、ウジミナスの鉄鉱山子会社に出資
Usiminasが3月11日に開いた経営審議会(取締役会に相当)で、新日鉄住金が提案した既存株主への新株2億株の割り当てによる総額10億レアルの増資が承認され、別の増資案を提示するよう求めたTerniumの要請を拒否した。
(4月18日の株主総会で、この増資案を決議した。)
両社は経営の重要事項を事前協議し、経営審議会や株主総会で協調する協定を結んでおり、採決での決着は異例 。
経営審議会での増資決議を受け、Usiminasは主要債権者との間で 4カ月間の債務支払い猶予で合意した。
新日鉄住金は翌12日、Usiminasが実施する増資 について、最大10億レアル全額を引き受けると発表した。他の株主が株式を引き受けない場合、代わりに引き取る もの。
仮に 全株を取得すれば、日本グループのUsiminasへの出資比率は現在の29.45%から5割に高まることになる。
株主協定では、協定期間中、比率は一定だが、増資の場合は反映させるとなっている。
また、 各株主はこれ以外に株を買うことは可能だが、その分については協定株主として決めた結論に従って投票する。新日鉄住金は協定外で約 1.33%を保有している。
Ternium グループは2014年10月、ブラジル銀行年金基金から株式の10.2%を買い取り、持ち株比率を27.66%から37.86%に増やした。
株主間協定では、新たに購入した株を協定に盛り込むには、両社の合意が必要だが、新日鉄住金側は応じておらず、協定上の比率は変わらない。2014/10/7 ブラジル鉄鋼会社 Usiminasを巡る争い
新日鉄住金が全株を引き受けた場合の議決権は次のとおり。(株数は比率からの逆算による概数)
実際には、交渉による株主協定の改定が必要となる。
Case 1 新日鉄住金が増資全株を引き受け
Case 2 上記に合わせ、協定枠外の持株も協定内に組み入れ
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ブラジルでは、上場会社の議決権の過半を有する株主が、会社の意思決定、株式譲渡等につき協定を締結することができる。
Usiminasの協定株主は、議決権の過半数を確保した上で、株主総会、経営協議会(取締役会に相当)において議決権を統一的に行使することを取り決めている。
Usiminasの株主協定の推移は下記の通り。
当初、日本グループとV/Cグループ及び従業員年金基金が株主協定を結んでいた。
2011年2月18日に、従業員年金基金を含めた協定は2016年11月に終了し、以降は新比率とする ことに決めた。
2006/11~2016/11
2016/11~2031/11
議決権 協定内 議決権 協定内 新日鉄住金・日本Usiminas 26.1 26.1 三菱商事・メタルワン 1.6 1.6 日本グループ合計 27.8 43.5 27.8 51.7 Votorantim 13.0 13.0 Camargo Correa Group 13.0 13.0 V/Cグループ合計 26.0 40.7 26.0 48.3 従業員年金基金 10.1 15.9 - - 協定株主計 63.9 100.0 53.7 100.0
直後にブラジル鉄鋼大手のCSNがUsiminas株買取を提案した。
2011/9/24 ブラジル鉄鋼大手CSN、Usiminas株買い取りを提案
CSNはその後の買い増しで議決権株の16%とした。
ブラジル司法省はCSNに対して、Usiminas株の買い増しを禁止する通達を出した。
一部製品での両社のシェアは7割を超えており、寡占状態を防ぐための措置との見方が多い。
これに対し、新日鉄は2011年11月28日、協定株購入に関する契約および同社に関する新たな株主間協定を締結したと発表した。
1) 新日鉄が、Usiminasの従業員年金基金から、全議決権の約1.69%相当を購入。 2) 中南米を拠点とする大手鉄鋼会社Ternium Groupが、VotorantimとCamargo Correa及び従業員年金基金から全議決権の約27.66%相当を22億ドルで購入。 3) 新日鉄グループ(新日鉄、日本Usiminas、三菱商事グループ)、テルニウム・グループ、従業員年金基金の間で、新たな株主間協定を締結。
2006/11~
株売買 2012/1/16施行 議決権 協定内 議決権 協定内 新日鉄住金・日本Usiminas 26.1 27.83 三菱商事・メタルワン 1.6 1.62 日本グループ合計 27.8 43.5 +1.69 29.45 46.12 Votorantim 13.0 - Camargo Correa Group 13.0 - V/Cグループ合計 26.0 40.7 -26.0 0 0 Ternium Group - - +26.00
+1.6627.66 43.31 Usiminas従業員年金基金 10.1 15.9 -1.69
-1.666.75 10.57 協定株主計 63.9 100.0 63.86 100.00
新体制下で、新日鉄住金とTerniumの間には経営方針を巡る対立が起こった。
2012年1月に社長に就いたTernium出身のEguren氏は、投資と経費の削減、生産性向上、資産売却、人員整理など経営再建に努め、業績は目立って改善されてきた。
新日鉄住金は自動車用鋼板など高級品で収益拡大を目指しているのに対し、Terniumはコスト圧縮による短期収益改善と南米での自社販売網を活用した汎用品の販売拡大を狙っているとみられる。
Usiminasの経営審議会は2014年9月26日、Terniumグループ出身のJulián Eguren社長と子会社社長、製造担当取締役の3人の解任を発表した。
Terniumは、事前協議がなく、株主間協定に違反するとしたが、日本側が押し切った。
経営審議会で賛否は5対5だったが、議長の判断で解任が決まった。
これは法廷闘争となったが、ブラジルの裁判所は2015年5月5日、解任を支持する判断を下した。
2014/10/7 ブラジル鉄鋼会社 ウジミナスを巡る争い
今回の資金不足対策についても、両者の方針が異なり、混迷した。
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増資に関しては、2011年にUsiminasの買収を提案したブラジル鉄鋼大手のCSNも反対を表明した。
報道では、CSN は現在、Usiminasの普通株を14.1 %、議決権のない優先株を 20.7% 保有している。
同社はまず、Ujiminasに鉄鉱山子会社のMUSAにある現金9億レアルを使うよう命じること地方裁判所に求めたが、これは却下された。
更に、増資は少数株主の権利を希薄化し、有害であるとして、増資案を無効とするよう訴えた。1株5レアルは安すぎるとしている。
同社の株価推移は下記の通り。
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今回の増資が実施されても、当面の借入金返済資金ができるに過ぎない。
大株主同士で経営に対する意見が異なるなかでの同社の再建は大変である。
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