欧州連合は2月19日夜、ブリュッセルで開いた首脳会議で、英国のEU離脱を回避するためにCameron英首相が求めているEU改革案を巡って全会一致で合意した。
合意を受けCameron首相は、6月23日に国民投票を実施することを決め、自らはEU残留を訴えていく考えを明らかにした。
2016/2/22 EU首脳会議、英離脱回避へ改革案合意
経済協力開発機構(OECD)は4月27日、英国がEUを離脱した場合の影響分析:The Economic Consequences of Brexit : A Taxing Decision を発表した。
英国(Britain) のEU離脱(exit ) は Brexit と呼ばれる。
OECDのAngel Gurría 事務総長は同日、これについて ロンドンでスピーチ(タイトルは To Brexit or not to Brexit: A Taxing Decision )を行った。
OECDの分析によると、英国が6月23日の国民投票でEU離脱を選択した場合、2020年の英国のGDPは加盟を継続した場合より3.3%少なく、これは1 世帯あたり 2,200ポンド(約34万円)の損失に相当するという。
長期的には、2030年時点でGDPの減少幅は5.1%に広がると推計する。(楽観ケースでは2.7%減、悲観ケースで7.7%)
1 所帯当たりでは3,200ポンド(約50万円)の損失。(楽観ケースでは1,500ポンド、悲観ケースでは5,000ポンドの損失)
事務総長は、離脱による損失を英国民にとっての「離脱税 ( Brexit tax)」と呼び、これは、一般の税金とは異なり、公共サービスに使われるのでも財政赤字の穴埋めに使われるのでもなく、純粋な超過負担(pure deadweight loss)で経済的利便のないコストであるとしている。しかもこれは一回限りのものではなく、英国民は何年にもわたり払い続けることとなる。
このため、離脱は「やっかいな決定(taxing decision) 」であるとする。
6月23日の国民投票でEU離脱を選択した場合、直ちに交渉を始め、正式離脱は2018年の終わりと予想する。
2019から2023年にかけてEUとの新しい貿易交渉を行い、移民を減らす方策を採用することとなる。
事務総長は以下の通り述べている。
短期的な影響として、経済的な不確実性が高まり、ひどい影響が出る。資産の投売りが起こり、リスクプレミアが大きく高まる。消費が減り、投資が減り、成長が落ちる。
離脱により、EUとの貿易協定を結ぶ必要がある。EUへのアクセスが自動的に止まるだけでなく、EUが貿易協定を結んでいる53カ国・地域とも同様である。今よりもよい貿易関係を結べるとの意見は妄想で、新しい交渉には長い時間がかかり、膨大なエネルギーを要する。ゼロからの交渉となる。オバマ大統領が述べたとおり、米国にとって英国は貿易交渉の最優先国ではなく、英国にとり有利な交渉は期待できない。
長期的にはサプライサイドで影響を受ける。英国は現在、欧州で最大の海外からの直接投資対象国であるが、EU単独市場にアクセスできない英国の魅力は縮小する。
EU市場にアクセスするために英国に拠点を置いた企業は移転を考えるだろう。英国の多くの多国籍企業も同様である。
海外からの直接投資の減少は全体の投資、イノベーション、生産性に悪影響を与え、貿易不均衡を生む。資金の流出、流入減が起こり、GDPの7%にも達する経常収支赤字の補填が難しくなる。
投資の減、モノと人の流入の減、信用コストのアップ、海外からのアイディアとスキルの流入減は、最終的に英国の生産性を弱め、長期的な経済力を弱める。
他のいろいろな調査でもBrexitの影響はマイナスである。OECDの結論は、英国は欧州の一員としてより強くなり、欧州も英国が先頭を切ることでより強い。
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事務総長のスピーチには入っていないが、報告書は移民について次のように述べている。
2005年以降、英国への移民は200万以上の職を創り出し、英国のGDPの伸びの半分を占めている。EUからの労働力の自由な流入の制限と離脱後の英国経済の弱体化によって英国への移民のインセンティブが次第に減り、英国経済にとって負担となる。
英国が現在問題にしているのは、EUの拡大の結果、東欧諸国からの移民の大量流入で、低賃金層の英国人の職が奪われる点と、公的医療などの社会保障の費用が増えることである。
金融分野や企業誘致による知的労働層の移民は英国経済に大きく貢献しており、これが減ると、英国経済に悪影響を与える。上の表のImmigration はこの影響を表している。
フランスのマクロン経済相は、英国が離脱するならば、「ロンドンの金融街シティーからの帰還者を受け入れることになるだろう」と語った。
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