米、日本や中国などを為替操作「監視リスト」に

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米財務省は4月29日、主な貿易相手国・地域の為替政策に関する半年に一度の報告書 Foreign Exchange Policies of Major Trading Partners of the UNITED STATES を発表した。

そのなかで、通貨を意図的に安く誘導する為替操作への監視を強化するため、日本、中国、韓国、台湾、ドイツの5つの国と地域を新たに設ける「監視リスト」の対象にし、動向を詳しく分析し監視していくとした。

これは、本年2月に成立した2015年貿易円滑化・貿易履行強制法案に基づくものである。

オバマ政権はTPPの大筋合意を受けて、米議会で強まる自由貿易協定への反対論を抑えるため、貿易相手国の通貨政策を監視して対抗措置がとれるよう法制度を強化した。

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オバマ大統領は2月24日、2015年貿易円滑化・貿易履行強制法案 ( Trade Facilitation and Trade Enforcement Act ) に署名し、法を成立させた。

2015年2月に下院に提案され、修正案を含めた最終法案が2015年12月11日に下院を256対 158で通過し、上院は今年の2月11日に75対20で可決した。

これはアンチダンピング法、相殺関税法および貿易救済法などを強化したものだが、上院の審議で為替操作国に対する措置が盛り込まれた。

追加された第7章「Engagement on Currency Exchange Rate and Economic Policies」は、提案議員の名前をとって BennetHatchCarper 法と呼ばれるが、第701条と第702条の二つの条文から成る。

第701条は、「米国の主要貿易相手国との為替レートおよび経済政策の取り極めの促進」と題し、次のように規定している。

財務長官はこの法律制定から180日以内に、米国の主要貿易相手各国について、米国との貿易収支、直前の3年間における経常収支のGDP比、外貨準備額の短期債務額比とGDP比を含む報告書を上院財政委員会および下院歳入委員会に提出し、以後半年毎に提出する。

重大な対米貿易黒字実質的な経常黒字を有し、外為市場に対する長期かつ一方的な介入を行った米国の主要貿易相手国については、マクロ経済および為替政策に関する高度な分析を行い、財務長官はこの法律制定から90日以内に、この分析で使用した諸要因を公表する。

上記の高度な分析には、当該国の
 (i)可能な限り詳細な為替介入の推移を含む当該国の為替市場の展開、
 (ii)実質有効為替レートの変化および為替切り下げ度合の変化、
 (iii)資本規制および貿易制限の推移に関する分析、および
 (iv)外貨準備高の傾向を含むものとする。

大統領は財務長官を通して、マクロ経済および為替政策に関する高度な分析の対象国と高度な二国間取り極めを開始する。

「高度な二国間取り極め」は、
 (i)当該国通貨の過小評価、大幅な対米貿易および実質的な経常黒字の要因に対処するための政策の実行を当該国に促し、
 (ii)通貨の過小評価と大幅黒字に対する米国の懸念を表明し、
 (iii)当該国が適切な政策を採用しなかった場合は、大統領が取り得る行動を当該国に忠告し、
 (iv)通貨の過小評価と大幅黒字に対処する具体的な行動を伴う計画を作成する、ために行われる。

 (iii)の「大統領が取り得る行動」は次のひとつ以上の行動と規定されている。

(i)海外民間投資公社(OPIC)による当該国に対する新規融資等の禁止、
(ii)連邦政府による当該国からの財・サービスの調達・契約締結の禁止、
(iii)IMF米国代表理事による当該国のマクロ経済および為替政策の厳格な監視および公式協議の要求、
(iv)当該国との二国間または地域間貿易協定の締結または交渉参加の是非の検討。

第702条は、財務長官に政策を諮問するため、「国際為替レート政策に関する諮問委員会」を新設することを規定している。

上院議長、下院議長および大統領が各3名の委員を任命し、合計9名で構成する。

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財務省は上記②の重大な対米貿易黒字実質的な経常黒字を有し、外為市場に対する長期かつ一方的な介入を行った貿易相手国の分析に関し、次の基準で選ぶこととした。

重大な対米貿易黒字 対米貿易黒字が200億ドル(米国GDPの約0.1%) 以上
実質的な経常黒字 経常黒字がその国のGDPの3.0%以上
外為市場に対する介入 GDPの2%以上(ネットで)の額の外貨を繰り返し購入

財務省は今回、3つの基準全てに当て嵌まる国はないことを確認したが、米国の主要貿易国の5カ国が3つの基準のうち2つに該当することを見つけた。このため、新しい「監視リスト」を創設し、この5国を監視していくこととしたもの。

2015年の分析結果は下記の通り。黄色部分が基準にかかっている国。

対米貿易黒字
億ドル
経常黒字
GDP比
net 外貨購入
GDP比

継続

中国 3,657 3.1% -3.9%
ドイツ 742 8.5%
日本 686 3.3% 0.0%
メキシコ 584 -2.8% -1.8%
韓国 283 7.7% 0.2%
イタリー 278 2.2%
インド 232 -1.1% 1.8%
フランス 176 -0.2%
カナダ 149 -3.3% 0.0%
台湾 149 14.6% 2.4%

英国 150 -5.2% 0.0%
ブラジル -43 -3.3% 0.1%
参考 ユーロ計 1,302 3.2% 0.0%

報告では各国について以下の通り述べている。

日本 重大な対米貿易黒字と実質的な経常黒字だが、4年間為替介入を行っていない。
中国 重大な対米貿易黒字と実質的な経常黒字。昨年8月の中国の為替政策変更で急激な人民元安となった後、人民元を守るため強い介入を行った。為替相場の目標についての透明性が高まれば市場は安定する。
韓国 重大な対米貿易黒字と実質的な経常黒字。2015/7~2016/3に介入した。介入は為替市場が秩序立たない場合のみに限定することと、操作の透明性を求める。
台湾 実質的な経常黒字。2015年を通じ継続して外貨買いをしている。介入は為替市場が秩序立たない場合のみに限定することと、操作の透明性を求める。
ドイツ 重大な対米貿易黒字と実質的な経常黒字。GDPの8%以上の黒字で、少なくともその一部は、ドイツの国内消費のサポートに使うべきである。


日本については、次のように述べている。

本年1月に日銀はマイナス金利導入で市場を驚かせた。黒田総裁は日銀は2%のインフレターゲット達成のために引き続き何でもやると述べた。
日銀の決定後、数日間は円安となったが、その後、円高に戻り、3月末時点では昨年11月央と比べ8.9%の円高となっている。日本政府は為替の動きを「quite rough」とし、緊張感をもって市場の動きを監視するとしている。

日本はこの4年、介入をしていない。

米財務省としては、 現在のドル・円の為替市場は秩序だっている(orderly) とみており、全ての国が為替政策に関するG-20、G-7のコミットメントを守る必要性を強調する。

G-20、G-7では日本は三本の矢の全てを使うことをコミットし、金融政策だけではバランスのとれた成長は達成できないと認めた。
日本の成長の弱さ、グローバルな需要停滞を考えると、日本政府は、柔軟な財政政策、税制改革・労働市場改革・地方活性化などの野心的な構造改革、TPPや R&Dインフラ強化などの長期的利便のための改革継続など、全てのポリシーレバーを使うことがますます重要となっている。

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アメリカ大統領選挙に向けて民主党候補への指名がほぼ確実なHillary Clinton 前国務長官はTPP協定について反対だと明言するとともに、中国その他に加え、日本も輸出を有利にするため円安を誘導していると批判し、対抗措置を取る考えを示した。

共和党候補になる可能性が高まった不動産王Donald Trump候補も、日本の円安誘導を批判し、TPPに反対している。

2016/2/25 Hillary Clinton、TPPに反対を表明、日本も為替操作国に含める

円高が進む中、米国がこれを秩序だっていると見ていることから、また為替介入には対抗策を取るとしていることから、日本政府による為替介入は非常に難しくなった。

米国の利上げは遠のいており、暫くは更なる円高が予想される。

麻生財務相は4月30日深夜、海外市場で円相場が 1ドル=106円台と1年半ぶりの円高水準に上昇したことについて「一方的で偏った投機的な動きに極めて憂慮している」と述べた。
「(投機的な動きに)必要に応じて対応する」とも明言し、円売り介入も辞さない姿勢を強調した。



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