リーマン級危機?

| コメント(0)

5月26日の伊勢志摩サミットの「世界経済」をテーマにしたセッションで、安倍晋三首相は現状の認識について「参考データ」と題する説明資料を提示した。

エネルギー・食料・素材など商品価格が「リーマン・ショック前後での下落幅である55%と同じ」で、新興国の投資伸び率も「リーマン・ショックより低い水準まで低下」と明記、リーマン級の経済危機再燃を警戒する内容となっている。

安倍首相は、「リーマンショック直前に北海道洞爺湖サミットが行われたが、危機の発生を防ぐことができなかった。その轍は踏みたくない。世界経済はまさに分岐点にあり、政策的対応を誤ると危機に陥るリスクがあることは認識する必要がある」と述べ、世界経済を回復軌道に戻すため、G7の政策協調を呼びかけた。

討議では世界経済の持続的な成長に向けて、機動的に財政戦略を実施し、構造改革を果断に進める重要性で一致したが、一部の首脳から、「危機という表現は強すぎるのではないか」という指摘が出された。

商品価格は IMF Primary Commodity Prices のデータのうち、All Commodity Price Index (2005 = 100) を採用している。
   http://www.imf.org/external/np/res/commod/index.aspx (Monthly Data)

リーマンショック時には、直前の2008/7 の219.90に対し、2009/2は98.16で、7ヶ月で55.4%の下落となった。
これに対し、最近では、2014/6の185
.16が2016/1 には 83.05 となり、19ヶ月で55.1%の下落となっている。
下落率は同じだが、今回は時間をかけたもの。

別の資料では、2015年の新興国・途上国の投資伸び率が2008年のリーマン・ショック後の3.8%を下回り、実質2.5%となったことを指摘している。
  http://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2016/01/pdf/text.pdf


しかし、この間、輸入は-8.5%から+0.5%にアップ、GDPも+1.7%から+3.4%にアップしている。

また、全世界では様子は異なる。前回は投資伸び率は大きなマイナスだが、今回はプラスである。他の比率も同様。


最近の物価の値下がりは、実際には原油価格の下落の影響が大き く、同じIMF統計でNon-Fuel Price Indexは下記の通りとなっている。
最近の物価下落は2014年春からの22ヶ月間の緩やかなもので、下落率も低く、リーマンショック時とは異なる。

これらからみると、いいとこ取りの感がある。

ーーー

首相は消費増税延期の条件について、5月18日の党首討論で、「リーマン・ショックや大震災級の影響のある出来事が起こらない限り予定通り行っていく。適時適切に判断していきたい」と表明している。

今回の説明は、現状がリーマンショック時と同じ状況として消費増税を延期しようとしているのではないかと見られている。


付記

本日の池田信夫ブログは次のように述べている。

今回の奇妙な「危機説」が、世界最悪の政府債務を抱える日本が増税を延期するための国内向けの理由づけだとすれば、世界のエコノミストの失笑を買うだけだ。


付記

サミット首脳宣言では、リーマン級危機の表現はない。経済関係の要旨は下記の通り。

G7伊勢志摩首脳宣言(骨子)

前文
世界的な成長は、低成長のリスクが残る中、依然として緩やかであり、かつ、潜在成長力を下回っている。

G7伊勢志摩経済イニシアティブ
強固で、持続可能な、かつ、均衡ある成長に貢献するため、世界経済、移民及び難民、貿易、インフラ、保健、女性、サイバー、腐敗対策、気候、エネルギーの分野でのコミットメントを発展。

世界経済
<世界経済の状況>
世界経済の回復は継続しているが、成長は引き続き緩やかでばらつきがある。また、前回の会合以降、世界経済の見通しに対する下方リスクが高まってきている。我々は、新たな危機に陥ることを回避するため、経済の強靭性を強化してきているところ、この目的のため適時に全ての政策対応を行うことにより現在の経済状況に対応するための努力を強化することにコミット。

<政策的対応>
各国の状況に配慮しつつ、強固で、持続可能な、かつ、均衡ある成長経路を迅速に達成するため、我々の経済政策による対応を協力して強化すること及びより強力な、かつ、均衡ある政策の組合せを用いることにコミット。

債務を持続可能な道筋に乗せていくための取組を継続しつつ、世界的な需要を強化し、供給側の制約に対処するため、全ての政策手段-金融、財政及び構造政策-を個別にまた総合的に用いることにコミット。

3本の矢のアプローチ、すなわち相互補完的な財政、金融及び構造政策の重要な役割を再確認。

財政戦略を機動的に実施し、及び構造政策を果断に進めることに関し、G7が協力して取組を強化することの重要性について合意。

過剰な生産能力は、世界的な影響を有する構造的な課題。

為替レートの過度な変動や無秩序な動きは経済及び金融の安定に対し悪影響を与えに対し悪影響を与え得る。

コメントする

月別 アーカイブ