新潟市から法律に基づく水俣病の患者認定申請を棄却された市内の9人(故人1人を含む)が、市に処分の取り消しと患者認定を求めた裁判で、新潟地裁は5月30日、 市の処分を一部取り消し、原告7人を水俣病と認定するよう市に命じた。2人については請求を退けた。
原告は新潟市の50~80代の男女で、1人は申請後に死亡した未認定患者の遺族。阿賀野川のメチル水銀に汚染された魚を食べ、しびれなどの症状があるとして市に認定申請し2007~13年に棄却された。
水俣病の行政認定を巡る判決は最高裁が認定の幅を広げる判断を示した2013年4月の判決以来で、新潟水俣病では初めて。
水俣病未認定患者の遺族が熊本県に認定を求めた2件の訴訟の上告審判決が2013年4月16日、最高裁第3小法廷で言い渡され、いずれも患者側の勝訴となった。 それまで、裁判所が患者認定審査をできるというものと、県の裁量を重視し、司法は県の判断が不合理かどうかを審理するというものに分かれていたが、司法が独自に審査しうるとし、県の判断を覆した。 また、環境庁の「手足のしびれや視野狭さく、運動障害など複数の症状の組み合わせ」を条件とするという「(昭和)52年判断条件」に基づく高裁判決を破棄した。 ーーー 最高裁判決を受け、環境省は2014年1月に、メチル水銀との因果関係が認められれば、手足の先のしびれなどの感覚障害だけでも認める方針を固めた。
環境省は2014年3月7日、これを関係自治体に通知した。 ーーー 今回の訴訟は、「症状が複数でない場合でも認定する余地がある」とした最高裁判決をきっかけに2013年12月に提起された。
ーーー 水俣病と診断されながら国の基準では認定されなかった新潟市などの男女11人が2007年4月に、国と新潟県、原因企業の昭和電工に1人当たり1200万円の損害賠償などを求めた新潟水俣病3次訴訟の判決が2015年3月23日に出た。
この3次訴訟については、高裁で係争中で、第1回口頭弁論で、被告の国や昭和電工などは請求の棄却を求め争う構えをみせた。 他に2009年6月の5次訴訟も係争中。
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新潟県の泉田知事は4月2日、水俣病特別措置法(特措法)に基づく救済策で一時金の支給の対象と認められず、新潟県に異議を申し立てた92人のうち、3人を救済対象とし、2人を棄却したと発表した。残る87人も審査を進めるとした。
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今回の判決で西森裁判長は、軽度の水俣病の場合、手足の感覚障害の症状だけのものが存在すると指摘し、最高裁の見解を踏襲した。
その上で、請求を認めた7人について「阿賀野川の魚介類を摂取するか、摂取した母親の胎内にいたことにより、高度のメチル水銀の暴露を受け、水俣病になった」と判断した。
また、メチル水銀が取り込まれてから数年後に発症した例や、発症後10~20年後に症状が悪化した例があるとして、長期間経過後、老化に伴い症状がはっきり現れる「遅発性水俣病」があり得ることも認めた。
認められた7人は、症状は感覚障害だけだったが、同居する家族に認定患者がおり、食生活が同じという点からもメチル水銀を摂取した可能性が大きいとし、水俣病と判断した。
7人は2015年3月、国や県、原因企業の昭和電工に未認定患者らが損害賠償などを求めた新潟水俣病第3次訴訟の地裁判決で、水俣病と判断されている。
一方、請求を棄却された2人は、感覚障害はあるが、家族に認定患者がおらず、「汚染された阿賀野川の魚を多食した確かな証拠がない」とした。
判決後、記者会見を開いた高島章・原告弁護団長は、訴えを退けられた2人については「7人と同じような症状がある。家族が認められているかの違いしかない」と複雑な表情を見せ、「家族の有無による線引きがいかに非科学的で根拠がないか、今後も主張していきたい」と述べた。
棄却された2人は東京高裁に控訴する。
原告側弁護団は新潟県内に住む男女3人が新たに認定を求めて提訴すると明らかにした。
新潟地裁判決を受けて、新潟市の篠田昭市長は「判決を真摯に受け止めるとともに、判決内容の詳細を確認し、今後の対応を検討したい」とのコメントを発表した。
本年4月末現在、認定を申請した2,129人のうち患者として認められたのは705人。
認定患者は原因企業の昭和電工から約1千万円の一時金(死亡の場合は500万円上積み)や年約140万円の年金などの補償が受けられる。
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