韓国出身のAIIB副総裁、更迭

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韓国企画財政部は6月28日、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の副総裁の一人でChief Risk Officerの洪起沢(元韓国産業銀行会長)が突如休職に入ったことを明らかにした。
「一身上の都合で半年間の休職をAIIB理事会に口頭報告し、これが受け入れられたと聞いている」としている。洪副総裁は所在不明で、韓国政府側とも連絡ができていない状態という。

その後の報道では、就任前に務めていた韓国政府系の韓国産業銀行会長時代に支援先企業の放漫経営を放置した問題の責任を問う声が上がり、 Chief Risk Officerとして適任ではないとする中国の更迭要求に韓国政府が応じたとの見方が強い。

AIIBは、後任を選ぶ方針を固めた。AIIBのDanny Alexander副総裁(Corporate Secretary)は「大規模な投資プロジェクトが今後相次ぐ。最高リスク管理者(CRO)というポストを長期間空席のままにしておくわけにはいかない」と述べ、早期に後任を募る方針を加盟国に伝えた。早ければ1-2週間以内に募集広告が出される見通し。

後任には韓国(出資比率5位)のほか、ロシア(3位)、オーストラリア(6位)、フランス(7位)が候補擁立の構えを見せており、4カ国による争いが予想される。

副総裁ポストを得られなかったロシアが中国にポストを強く要求する見通し。
また、フランスは競合する英国、ドイツが副総裁ポストを獲得したことに強い不満を抱いている。

韓国政府は後任に韓国人を推薦し、韓国の「取り分」を死守する構えだが、現実的にポストを守るのは容易ではないとみられる。韓国が37.4億ドルを拠出し、朴槿恵大統領が金立群AIIB総裁と会うなど、政府一丸となった努力で勝ち取った国際金融機関の副総裁ポストが失われる危機に直面し ている。

韓国企画財政部関係者は「最大限の努力を尽くすが、洪副総裁が大宇造船海洋への支援過程をめぐり、インタビューで韓国政府を批判する趣旨の発言を行い、物議を醸している上、休職に至る過程もスムーズではなかった」と述べ、洪副総裁の言動や行動で韓国政府のイメージが低下したことが弱点となる可能性を懸念した。

付記

AIIB は7月8日、最高リスク管理責任者(CRO)のポストを局長級に格下げした上で後任者を公募すると発表した。

別途、局長級の最高財務責任者(CFO)は副総裁職に格上げすることも発表した。

AIIBは7月13日に、アジア開発銀行(ADB)副総裁でフランス出身のThierry de Longuemar(ド=ロングマール)氏をCFOに内定している。
この結果、韓国が占めていた副総裁の地位はフランスに移ることとなる。

付記 韓国紙が本件の背景を伝えた。

韓国政府関係者によると、洪副総裁は6月22日ごろ、AIIBから「1週間以内に辞任など去就を決めてもらいたい」と要求され、それを韓国企画財政部に伝え、大統領府にも報告された。AIIB側は韓国産業銀行会長を歴任した洪副総裁が大宇造船海洋の監督責任問題に巻き込まれた上、先月初めに韓国メディアのインタビューで自分には責任がないとの趣旨の発言を行い、物議を醸したことを問題視したとされる。

状況が深刻だと判断した企画財政部などは、AIIBと「休職」カードで折衝を試み、洪副総裁は6カ月の休職を届け出た。韓国政府は一連の経緯を全て秘密扱いにした。柳一鎬経済副首相は6月29日、国会の答弁で「一身上の理由で休職の意思をAIIB理事会に口頭で伝え、受け入れられたと聞いている」と説明していた。

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AIIBは2016年2月5日、5人の副総裁を指名した。出資比率第三位のロシアは選ばれていない。 

担当 出身国 氏名 経歴
Corporate Secretary 理事会、取締役会、経営陣の調整 英国 Sir Danny Alexander 元 英国予算担当大臣
Chief Risk Officer 投資危険管理 韓国 洪起沢 前 韓国産業銀行会長、CEO
Chief Investment Officer 投資運営管理 インド D.J. Pandian 元 Indian Administrative Services
Policy and Strategy 中長期政策・戦略 ドイツ Joachim von Amsberg 現 世銀開発金融担当の副総裁
Chief Administration Officer 一般行政 インドネシア Luky Eko Wuryanto 元 政府高官

   

出資(億ドル)

出資比率
(%)
議決権
(%)
 
域内 域外
1 中国 297.804   30.34 26.06 総裁
2 インド 83.673   8.52 7.50 副総裁
3 ロシア 65.362   6.66 5.93  
4 ドイツ   44.842 4.57 4.15 副総裁
5 韓国 37.388   3.81 3.50 副総裁
6 オーストラリア 36.912   3.76 3.46  
7 フランス   33.756 3.44 3.19  
8 インドネシア 33.607   3.42 3.17 副総裁
9 ブラジル   31.810 3.24 3.02  
10 英国   30.547 3.11 2.91 副総裁

 
2016/2/8 アジアインフラ投資銀行(AIIB)、副総裁人事を発表

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洪起沢副総裁は、これまで韓国産業銀行の会長兼 CEO であった。

韓国産業銀行が大株主の大宇造船海洋は黒字経営と発表してきたが、粉飾会計が発覚し、韓国の単一企業としては過去最高の5兆ウォン(約4400億円)規模の赤字を計上した。

大宇造船海洋は、韓国の造船ビッグ3の一社。

1973年に政府出資で巨済島に玉浦造船所 を設立した。

1978 年の民営化の際に、ラッキー金星、三星、現代などの財閥企業 が争ったが、各社が大韓造船公社の経営権や発電所設備事業への参入を要求したため、決まらず、最終的に大宇財閥が引受け 、大宇造船重工業機械とした。

1994年に大宇重工業と合併したが、2000年に大宇財閥が解体され、大宇重工業は 分割されて造船事業は大宇造船海洋となった。

最大株主である韓国産業銀行(31.5%出資)は売却を決定したが、実現していない。 (ロシアのRosneftが関心を示したが、政府は外国企業への売却を禁じた。)


2016年3月に大宇造船海洋が発表した2015年12月期連結決算は営業損益が5兆5050億ウォン(約5200億円)の赤字だった。2014年は4710億ウォンの黒字 であった。
海洋プラント事業でコスト管理に失敗し建造費用が受注額を上回ったり、納期に間に合わなかったりしたケースがあると報じられた。

しかし、実際は粉飾決算であることが判明した。政府が調査を始めた。

大宇造船海洋は2013年の営業損益を4409億ウォンの黒字から7784億ウォンの赤字に修正、2014年の営業損益も4711億ウォンの黒字から7429億ウォンの赤字にそれぞれ修正した。
2015年の営業損失は2兆9372億ウォンに減る。

検察腐敗犯罪特別捜査団は6月21日、産業銀行出身で大宇造船海洋の前最高財務責任者を召喚した。

監査院が6月15日に発表した「金融公共機関出資会社管理実態」によると、大宇造船海洋は原価を少なく算定して工事進行率を膨らませ営業利益を実際より高く算出する手法を使った。

同社は実際には大幅赤字にもかかわらず、粉飾した財務状態を根拠に2013~14年に役員に成果給65億ウォン 、社員に成果給1984億ウォンを不当に支給した。

大株主の産業銀行は粉飾決算を摘発できる「財務異常値分析システム」を適時に活用せず、監督をおろそかにしたとしている。

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