公取委は6月30日、キヤノンによる東芝メディカルシステムズの株式取得について、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと認められたので、排除措置命令を行わない旨の通知を行い、審査を終了したと発表した。
しかし、株式取得のスキームが、事前届出制度の趣旨を逸脱し、独占禁止法第10条第2項の規定に違反する行為につながるおそれがあることから、両者に対し異例の注意を行った。
また、今後、企業結合を計画する者が仮にこのようなスキームを採る必要があるのであれば、当該スキームの一部を実行する前に届出を行うことが求められるとした。
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キヤノンは3月17日、東芝の医療機器子会社、東芝メディカルシステムズを買収する契約を結んだと発表した。
独禁表第十条(2) では、この場合、「公取委規則で定めるところにより、あらかじめ当該株式の取得に関する計画を公取委に届け出なければならない」となっており、これには当然、公取委の審査が必要である。
東芝が2月4日に発表した2016年3月期の損益予想は、売却益を含まない前提で、7100億円の赤字となっており、東芝が3月末までに東芝メディカルの売却益を計上できなければ、債務超過に陥るが、通常の手続きでは間に合わないのは明白であった。
このため、両社は異例の手段を使った。
東芝は3月17日、東芝メディカルシステムズの売却を決定し、キヤノンと株式等譲渡契約書を締結した。
売却代金決済も同日完了した。(東芝子会社でなくなる)キヤノンは主要各国の競争法規制当局からのクリアランスを得られた時点で子会社とする。
それまでの間は独立した第三者であるMSホールディングが東芝メディカルの議決権を保有する。MSホールディングは株式の保有及び運用を目的として設立された特別目的会社で、株主は東芝とキヤノンのいずれからも独立した第三者の3人。
宮原賢次(住友商事名誉顧問) 33.3%
吉戒修一(弁護士・元東京高裁長官) 33.3%
横瀬元治(公認会計士・元あずさ監査法人専務理事) 33.3%2016/3/18 キヤノン、東芝メディカル買収を発表、独禁法対策で奇手
具体的手続きは下記の通り。
東芝は東芝メディカルの普通株を所有 していた。 3/15 C種類株に変更 3/16 C種類株の代わりに下記を取得 A種類株(議決権あり) 20株
B種類株(議決権なし) 1株
新株予約権*B種類株には議決権はないが、組織再編などの重要事項について拒否権を行使できる条項あり 3/17 東芝メディカルの売却を発表 A種類株(議決権あり)20株 MSホールディングに譲渡(対価 9万8600円) B種類株(議決権なし) 1株 )
キヤノンに譲渡(対価 6655億円) 新株予約権
関係各国の独禁当局の承認後の処理は下記の通り。
東芝メディカルは、
MSホールディングからA種類株(議決権あり)20株を買い取る(対価 3600万円)→ 自己株のため議決権無くなる。
キヤノンからB種類株(議決権なし)1株を買い取る(対価 4930円)キヤノンは新株予約権100個をすべて行使、東芝メディカルを完全子会社化する。
独禁法第10条2項では、会社が他の会社の株式取得する際、一定の基準(取得後の議決権の数の割合が新たに20%又は50%を超えること)に当たる場合には、公正取引委員会に事前に届出しなければならないとされている。
東芝/キヤノンの主張は、議決権はMSホールディングが持ち、キヤノンは議決権を持たないため、事前届出は不要というもの。
これに対し、公取委は次のとおり述べている。
これら一連の行為は、独占禁止法に基づく企業結合審査において承認を得ることを条件として最終的にキヤノンが東芝メディカルの株式を取得することとなることを前提としたスキームの一部を構成し、上記第三者を通じてキヤノンと東芝メディカルとの間に一定の結合関係が形成されるおそれを生じさせるものである。
公正取引委員会は、これら一連の行為が、キヤノンが当委員会への届出を行う前になされたことは事前届出制度の趣旨を逸脱し、独占禁止法第10条第2項の規定に違反する行為につながるおそれがあることから、今後、このような行為を行わないよう、キヤノンに対して注意を行うとともに、上記スキームの実行に関与していた東芝に対して、今後、事前届出制度の趣旨を逸脱するような行為に関与することのないよう申入れを行った。
したがって、今後、企業結合を計画する者が仮に上記のようなスキームを採る必要があるのであれば、当該スキームの一部を実行する前に届出を行うことが求められる。
東芝メディカルの買収を計画していた富士フィルムは、次のように述べている。
この買収にフェアな姿勢で臨んだ我々にとって、アンフェアな競争であった。これが許されるなら、競争法が形骸化する。
これが悪しき前例となり、日本国内で競争法の手続きを無視した、海外企業を含む企業買収が行われることが懸念される。
このようなスキームを、今後は認めないが今回は認めるということであれば、なぜ今回は認めるのか明確に説明されることを望む。
公取委は、今回の承認について、キヤノンと東芝メディカルの明確な結合関係(親子関係)が認定できなかったこと、今回は初のケースであり、明確なルールがなかったことの2点を挙げている。但し、今回は「密約が認められなかったとはいえ、今後証拠が出てくればクロに覆る」とも述べている。
専門家の間で問題にされる点は以下の通り。
・ MSホールディングの独立性
・ キヤノンの持つB種種類株には、議決権は無いが、組織再編などの重要事項についてキヤノンが拒否権を行使できる条項があること。
・ 新株予約権を持つということは、潜在的な議決権を持っているに等しいとも考えられる。
なお、他の国での審査はこれからである。
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