ドイツ北部ハノーバーの地方裁判所は7月4日、エネルギー大手E.ON が東京電力福島第1原発事故の後に、原発2基の停止を命じられ損失を被ったとして、政府などに計約380百万ユーロ(約434億円)の損害賠償を求めた訴訟で、請求を棄却した。
ドイツ政府は2011年3月11日の福島第一の事故を受け、 直後の15日に、32年の運転年数期限が到達した7基の運転を3カ月間停止すると発表した。
このなかにはE.ONのUnterweser原発1号機とIsar原発1号機が含まれている。E.ONは損害賠償訴訟にかかる時間は一時停止期間を上回るとの判断から、提訴を行わなかった。しかし2011年6月に議会はこれらの原子炉の閉鎖を決めた。
しかし同様の停止命令を受けたRWEは直ちに訴訟を起こし、2014年1月にドイツ最高行政裁判所から停止命令が違法であるとの判決を得た。
(2014年8月にRWEは連邦政府とヘッセン州政府を相手取って、235百万ユーロの損害賠償の支払いを求める民事訴訟を起こしている。)今回、ハノーバーの地方裁判所は、E.ON が命令を受けた時点で法的措置を取らなかったためとして却下した。
裁判長は、「E.ONが直ちに訴えを起こしていれば、運転停止による損失を回避できた可能性がある」としている。
電力会社EnBWも、Neckarwestheim 1 原発とPhillipsburg 1 原発の停止命令に関し、RWE訴訟での判決を受け、261百万ユーロの賠償を求め訴えたが、Bonn 地裁は2016年4月、これを却下した。停止命令を受けた時点で、直ちに全ての法的措置を取らなかったとしている。
EnBWは連邦政府とBaden-Württemberg 州を訴えたが、同州はEnBWの株式の46%を所有する大株主である。
EnBWは現在、控訴中。
なお、もう1社の電力会社で、スウェーデンに本社を置く Vattenfall は、ワシントンの投資紛争解決国際センター (ICSID)に47億ユーロの賠償を求め、訴えている。
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ドイツでは、電力会社4社が17基の原発を運営していた。
2002年に当時のSchröder政権(ドイツ社会民主党と緑の党の連立政権)が原子力法を改正し、原発の運転年数を32年と定めて順次停止し、2022年までに原発を廃止すること、原発の新規建設は認めないことを決定した。
原発の寿命は32年の規定寿命にもとづいて2000年1月1日から残余稼働年数が計算される。
残余年数のあいだ従来の安全性基準が適用される。
核廃棄物処理に関しては電力会社はできるかぎり早急に原子力発電所の立地場所あるいはその近くに中間貯蔵施設を建設する。
しかし、2009年にMerkel 政権(キリスト教民主・社会同盟と自由民主党の連立政権)が成立し、方向転換した。
2022年までにすべての原発の稼働をやめると必要な電力を賄う見通しが立たないため、
再生可能エネルギー等による電力供給のインフラが整うまでの移行措置として原発を位置づけ、
1980年以前に稼働を開始した原発7基の稼働期間を8年、1981年以降に稼働を開始した原発10基の稼働期間を14年延長する「エネルギー計画2050」を決定し、
2010年12月に原子力法を改正した。
ところが、2011年3月11日の福島第一原発事故で、この決定が覆ることになった。メルケル政権は、福島原発事故後のドイツ国内の反原発運動の圧力に抗いきれずに、すべての原発を2020年までに廃止するという以前の決定を受け入れることになった。
2011年6月末のドイツ連邦議会で、この決定が513対79で可決された。
この決定で、8基の旧型の原発が2011年に廃止され、9基の原発は2022年までにすべて廃止されることが確定した。
VattenfallのKruemmel 原発は2011年3月時点で休止していた。
ドイツのエネルギー最大手E. On は2015年6月27日、バイエルン州のGrafenrheinfeld 原発の稼働を停止した。
ドイツ国内で稼働中の原発は残り8基となった。
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問題は2011年6月末のドイツ連邦議会での上記の決定以前の措置である。
メルケル首相は3月11日の事故を受け、翌12日に国内すべての原発の点検を表明し、14日には前年(2010年)に決めたばかりの「原発の運転延長政策」の凍結に踏み込んだ。
さらに3月15日には、国内17基の原発のうち1980年までに稼働を開始 (32年の運転年数期限到達)した7基の運転を3カ月間停止すると発表した。(このほか、クリュンメルは故障で停止中で、実質8基が停止となる)
決定には、首相のほか、環境大臣、経済大臣と原発がある5つの州の知事が参加した。
上記の2011年6月末のドイツ連邦議会の議決で、これら8基の旧型の原発が2011年に廃止され、9基の原発は2022年までにすべて廃止されることが確定した。上記の通り、2015年6月にGrafenrheinfeld 原発が期限切れで停止した。
メルケル首相は2011年6月9日の議会で演説した。
福島事故は、全世界にとって強烈な一撃でした。この事故は私個人にとっても、強い衝撃を与えました。大災害に襲われた福島第一原発で、人々が事態がさらに悪化するのを防ぐために、海水を注入して原子炉を冷却しようとしていると聞いて、私は「日本ほど技術水準が高い国も、原子力のリスクを安全に制御することはできない」ということを理解しました。
私は福島事故の前には、原子力の残余のリスクを受け入れていました。高い安全水準を持ったハイテク国家では、残余のリスクが現実の事故につながることはないと確信していたからです。しかし、今やその事故が現実に起こってしまいました。
福島事故が我々に突きつけている最も重要な問題は、リスクの想定と、事故の確率分析をどの程度信頼できるのかという点です。なぜならば、これらの分析は、我々政治家がドイツにとってどのエネルギー源が安全で、価格が高すぎず、環境に対する悪影響が少ないかを判断するための基礎となるからです。
私があえて強調したいことがあります。私は去年秋に発表した長期エネルギー戦略の中で、原発稼働年数を延長させました。しかし私は今日、この議場ではっきりと申し上げます。福島事故は原子力についての私の態度を変えたのです。
電力会社RWE は2011年4月1日、3月15日の政府によるBiblis (A &B)原発の運転停止命令は行政手続き法に違反していたとして、メルケル政権とヘッセン州政府を相手取り、行政訴訟を起こした。政府の安全規則に従っており、停止命令の法的根拠はないと主張した。
損害賠償については判決を受けてからのこととした。(行政裁判所は損害賠償については判断しない。)
州の行政裁判所は2013年2月、Biblis 原発の即時停止を決めた決定は違法であったと判断した。
停止命令がRWEに対し異議をとなえる十分な機会を与えておらず、州政府は原子炉停止などが与える影響などについて、RWEから詳しい事情聴取を行わなかったとし、違法とした。
州政府は上告したが、ドイツ最高行政裁判所は2014年1月、上告を却下した。Biblis原発の停止命令はRWEとの協議がなく、重大な手続きエラーで違法であるとした。
ドイツの法曹関係者の間では、「メルケルの原子炉停止措置は、少なくとも行政手続きの面では、違法だった」という意見が浸透している。
2014年8月、RWEは連邦政府とヘッセン州政府を相手取って、損害賠償の支払いを求める民事訴訟を起こした。
損害賠償請求額は235百万ユーロとされる。
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