IMFは8月2日、日本経済に関する年次審査スタッフ報告書を発表した。
Japan : 2016 Article IV Consultation 発表文 (日本語) Staff Report
日本経済の現況については、次のように述べている。
民間消費の弱さと投資の低迷によって減速し、インフレは上昇の勢いを失っている。
当局は、マイナス金利政策、追加的財政刺激策、消費税率引き上げ延期などの措置を取ったが、成長とインフレの見通しは引き続き弱いままである。日本経済は2016年に約0.3%という緩慢なペースで成長すると期待され、2017年には(今後採用される経済対策による潜在的効果を除き) 0.1%に低下すると見込まれる。
アベノミクスは当初、期待の押し上げと日本経済の再活性化に進展をもたらしたが、構造的障害と、とりわけ構造面での政策の不足が、持続的な改善を難しくしている。
特に経済成長の見通しに対する信認の低さが投資と借入需要を抑制している。
労働市場の二重構造と硬直性が賃金の伸びを阻害しており、金融部門のリスク・テイキング支援は限定的である。
加えて、財政政策の変動と中期的な予算の見通しを支える楽観的な成長前提は、信頼できる中期的なアンカー(支え)のない財政政策をもたらし、政策の不透明性を高めている。
IMFの日本チームリーダーはワシントンで開いた記者会見で、政府の新たな経済対策について、全面的な効果を評価するには時期尚早との認識を示し、金融緩和や賃金上昇への取り組み、子育て手当の拡充など労働力縮小に対応した構造的障壁の除去など、政策オプションの一環として、景気刺激策を位置づける必要があるとした。
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IMFはこれに合わせ、「アベノミクスを再充填するには」(How to Reload Abenomics)という論文を発表した。
Reloadには、下の漫画のとおり、新しい矢をつがえるという意味を掛けている。
賃金アップとインフレ期待による「2%のインフレ率」、財政政策による「2020年までに基礎的財政収支プラス」、構造改革による「実質成長率2%」の3本の矢はいずれも的に当たらなかった。日本は新しい矢をつがえるか、的を代えるしかないとし、新しい矢について述べている。
概要は次のとおり。
試練-アベノミクス効果の弱まり
安倍晋三首相がまとめた金融政策による刺激と財政の「柔軟性」、構造改革の「3本の矢」からなる「アベノミクス」は当初は成功したが、ここにきて経済の勢いが弱まり、デフレリスクが再び高まっている。
日本の2016年の成長率は0.3%、2017年は0.1%で、総合インフレ率は2016年の0.2%から、2017年は 0.4%へ上昇する。
労働市場は経済の明るい部分で、2016年6月時点の失業率は3.1%と他国がうらやむ低さだ。しかしベース賃金の2016年の上昇率はわずか0.4%にとどまり、民間部門の消費と投資は低迷している。今後を展望すると、消費者物価のインフレ率2%、実質成長率2%、2020年までの基礎的財政収支の均衡というアベノミクスの野心的な目標は、現在の政策では手の届かなくなっている。
日本の金融政策と財政政策による刺激余地は限られている。
これらの目標を達成するには日本はより大胆な改革が必要だ。
解決策― 3 主要分野に集中を
1. 所得政策を再充填し、企業に賃金上げを促すべし
インフレ率を上げる賃金と物価の好ましいダイナミクスを作動させるには、所得政策の後押しが必要となる。
・賃上げの規則を企業に求める。
・最終的には罰則の導入も視野に入れた税制上のインセンティブを拡大
・インフレ目標に整合した行政的に管理された賃金と物価の引き上げなど
2. 労働市場改革
所得政策が有効性を持つためには、大規模な労働市場改革と持続的な財政・金融政策による需要の下支えが並行的に必要。
労働市場改革
・雇用保障と賃金上昇のバランスをよりよく取った雇用契約での新たな雇用を促進
・正規社員と賃金の低い臨時雇用社員に分断された現市場を消滅させていくことを目指す。
・「同一労働・同一賃金」プログラムを加速それに加え、
・税及び社会保障システムの改革
・利用可能な育児施設の増設
・外国人労働者の受け入れ促進
を通じてフルタイムの正規労働への障害を取り除くことができる。また、継続的な需要の下支えは、賃金上昇の物価への転嫁を実現し、構造改革がデフレ圧力を生じさせないことを確実にするため必要となる。
3. 財政の持続可能性の達成
・消費税の段階的ながら着実な引き上げをできる限り早期に着手
・社会保障支出の伸びを抑制する明確な支出規則を制定
アベノミクスの約束を実現するには、日本は以下の実行が不可欠だ。
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