日本ゼオンと住友化学は8月4日、溶液重合法スチレンブタジエンゴム(S-SBR)事業の統合に向けた検討を開始することで基本合意したと発表した。
両社は、S-SBR事業における新製品開発やコスト競争力の強化、安定供給の確保等による事業強化を目的とし、新たな合弁会社の設立や、両社のシンガポール子会社を含めたS-SBR事業の合弁会社への移管などについて検討する。
9月末までにデューデリジェンスの実施および統合効果の調査・検討を行い、12月末の最終契約締結、2017年4月の新会社営業開始を予定している。
日本ゼオンは徳山とシンガポールで、住友化学もシンガポールで S-SBR の生産を行っている。
(他に住友化学は千葉にパイロットプラント10千トンを持つ)
場所 能力 運営子会社 日本ゼオン 徳山 55千トン シンガポール S-BR併産
第一期 30~40千トン(2014)
第二期 30~40千トン(2016)Zeon Chemicals Singapore 住友化学 千葉 10千トン シンガポール 40千トン (2014) Sumitomo Chemical Asia
後記のとおり、シンガポールでは旭化成もS-SBRの生産を行っている。
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SBRは、ブタジエンとスチレンを主原料とする合成ゴムで、製造法により乳化重合法によるE-SBRと、溶液重合法によるS-SBRの2タイプがある。
E-SBRは汎用タイヤ向けが主体。
S-SBRの主な用途は自動車のタイヤトレッドで、タイヤの安全性能(グリップ力)を確保しつつ省燃費性能(転がり抵抗)を同時に向上させるというニ律背反の関係を解決する材料として、省燃費型高性能タイヤ用の需要が急速に拡大している。
日本の各社は、環境規制の強化や環境意識の高まりを背景に世界的に省燃費型高性能タイヤの需要が拡大しており、特にアジアではモータリゼーションの急速な進展とタイヤ生産のアジアへのシフトにより、タイヤ用ゴム市場の成長が続いていることから、増強を行っている。
2010/12/27 溶液重合法SBRの増設相次ぐ
世界需要は2020年まで年率7-8%で拡大するとみられる。
しかし、合成ゴム事業での唯一の成長分野として、世界の各社が増設・新設を行っており、さらに多くの計画が続く。
2014年のIISRP(国際合成ゴム製造者協会)の総会でのスピーチ "Global Synthetic Rubber Overview 2014" では、各社の増設計画をもとに今後の需給を予想している。
それによると、2013年のS-SBRの能力 1,602千トンに対し、需要は 1,200千トン。
新増設計画を積み上げると2017年には能力は300万トン弱となり、需要の年率18%もの伸びが必要になる。
需要の伸びが年率7-8%であれば、大幅な供給過剰となるのは必至である。
各社の生産設備の増強により、競争は既に激化している。
住友化学は2016年3月期決算で、シンガポールのS-SBR 製造設備で 8,519百万円の減損損失を計上した。
今回、「世界中で増産が進み、1社で踏ん張っても難しくなる」とし、独力で商品開発を続けるよりも、ゴムを主力とする日本ゼオンに委ねたほうがよいと判断した。
8月4日付け日経の「ニュース一言」コラムで、住友化学の十倉社長は次のように述べている。
余剰資金が世界を徘徊しており、為替や原油価格の振れ幅は広がる。
右往左往せず、伸ばす事業には投資し、縮小撤退もいとわない。メリハリが重要だ。
住友化学と日本ゼオンは、新第一塩ビを設立するなど、親しい関係にある。
(住友化学と日本ゼオンはともに新第一塩ビから実質撤退している。)
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日本ゼオンと住友化学以外のアジアでの進出企業は下記の通り。
場所 |
能力(千トン) |
備考 | ||
現行 | 計画 | |||
旭化成 | 川崎 | 105 | ||
シンガポール | 100 | 第一期 50、第二期 50 | ||
大分 | 52 | 10 | 日本エラストマー (旭化成 75%、昭和電工 25%) |
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JSR | 四日市 | 60 | ||
タイ | 50 | 50 | JSR BST Elastomer (JSR 51%、Bangkok Synthetics 49%) |
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ハンガリー | 60 | JSR MOL Elastomer (JSR 51%、MOL 49%) |
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錦湖石化 | 韓国 | 63 | 公称計画は120千トン | |
LG Chem | 韓国 | 60 | ||
Lotte Versalis Elastomers | 韓国 | 100 | Lotte 50%、Versalis (Eni子会社) 50% | |
Synthetic Rubber Indonesia | インドネシア | 80 | Michelin55%、Styrindo Mono Indonesia 45% | |
Liaoning North Dynasol Synthetic Rubber | 中国遼寧省 | 50 | Dynasol (Grupo KUO / Repsol) 50% 山西北方興安化學 50% |
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Zhucheng Guoxin Rubber | 中国山東省 | 100 | ||
Keyuan Petrochemical | 中国浙江省 | 150 |
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