2016年 イグノーベル賞

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今年のIg Nobel Prize 贈呈式が9月22日、米ハーバード大で開催された。

東山篤規・立命館大教授と足立浩平・大阪大教授が「知覚賞」を受賞した。日本人の受賞は10年連続となる。


受賞テーマは、前かがみになって股の間から後ろ方向にものを見ると、実際より小さく見える「股のぞき効果」である。
実験心理学が専門の東山教授が主に研究を行い、足立教授が統計分析に協力して、2006年に専門誌に論文を発表した。

股のぞきをして景色を見ると、天地が逆さまになり、直立した姿勢で見た時より平らで奥行きが少ない印象を受ける。

計90人に股のぞきなどをしてもらい、離れた位置に置いた目印(三角形の板)の見かけの大きさや距離を当ててもらう実験を繰り返した。

その結果、股のぞきをすると、直立して見るより目印が小さく、遠くの目印が手前にあるように感じる錯視の効果が確認できた。

「逆さ眼鏡」をかけて股のぞきをすると、見える景色は直立した姿勢と同じになるが、その場合も、同じような錯視が起きていた。

錯視が起きる原因に、前かがみの姿勢が深く関係していることも示した。

姿勢などの体感が視覚に直接影響する証拠の一つという。
「人間は、歩き始めると、直立した状態でモノを見るので、直立した状態の体の位置が、周りの空間を見るときの基準となっているのではないか」としている。

他の受賞は下記の通り。

生殖賞 ポリエステル、綿、ウールのズボン着用がラットの性生活に与える効果の研究 
ズボンの材料

100% polyester
50/50% polyester/cotton
all cotton
all wool.

綿やウールの場合は比較的正常だが、ポリエステルの場合の性行動は "significantly lower"。 多分、材料の帯電のせいか?

人間の男性にも同様のテストを実施。

経済学賞

「営業およびマーケティングの視点から石のブランドパーソナリティを評価」

「ブランドパーソナリティ」は、製品のブランドに「健全」や「若さ」、「知性」など、人格的な属性を付与する考え方に対するマーケティング用語。

いろんな石の写真を学生に見せ、どう見えるかを聞いた。

答えの例。

石 G :ニューヨークタイプのビジネスマンで、黒いブリーフケースを持ち、・・・・
石 I :ジプシーかヒッピーというものや、リベラルで魅力的な30歳代半ばの女性とするものなど。

物理学賞

偏光2件

① 白馬がアブに刺され難い理由

アブは獲物を探すために皮膚からの偏光を使うため、白馬よりも黒馬や茶毛の馬に魅かれる。

② トンボが黒い墓石に引き付けられる理由

ハンガリーの墓地で、餌はどこにもいないのに、トンボが黒い磨かれた墓石の上で時間を過ごしている。雌は墓石のうえに卵を産みさえする。
昆虫は水辺の巣を探すのに水面に光る偏光を探す。

化学賞

自動車の排ガステストの際に、自動的に、電気機械的に排ガス量を減らし、自動車の排ガス 公害問題を解決した。

排ガス不正を摘発されたVolkswagen が受賞した。

医学賞

腕にかゆみを与える薬品を注射して、鏡を見て、かゆい方の腕を掻かせるテスト。

右腕がかゆい場合、鏡に映った右腕(実際にはかゆくない左腕)をかいた場合も、かゆみが直ることが分かった。
脳が右腕をかいていると錯覚するため。

心理学賞

千人の嘘つきに、何回嘘をついたかを聞き、その答えが本当かどうかを検証。

人間は幼児から成長するにつれ、次第に多くの嘘をつくようになり、思春期にピークになる。大人は通常1日2回嘘をつく。
例外はあるが、齢をとると嘘は減る。
嘘つきは自分に対しても嘘をつき続ける。

平和賞

論文「あたかも意義深く聞こえるデタラメな言葉の受容と検知」

名言や、名言を一部変えて出鱈目な表現にしたものを学生に示し、どう反応するかを調べた。

生物学賞

野生動物を理解するための2つの実験

①人間以外の動物の世界観を理解するため、アナグマ、カワウソ、キツネ、鳥 と同じ野生の生活を体験
  ・アナグマとして昼間は寝て、夜中、食料のみみずを探して森を四つ這いで歩き回った。
  ・都市のキツネとして、ゴミをあさり、庭で寝た。

② 象の真似をしたかったが、危険なのでヤギの真似をした。
  特製の義肢をつけ、訓練した後、3日間 スイスアルプスでヤギと暮らし、草を食べ、群れに入り込もうとした。
  階級制度の群れのなかで友達をつくることが重要だと分かった。

文学賞 離島で、死んだハエ、まだ死んでいないハエを 収集する喜びを記した 3巻もの自伝。


イグノーベル賞の賞品は特製の時計と毎年恒例のジンバブエの「10兆ドル」札(米国の40セント相当)。

過去のイグ・ノーベル賞については、下記を参照。

2006/10/13 ノーベル賞とイグ・ノーベル賞
2007/10/8 2007年イグ・ノーベル賞
2008/10/4 2008年イグ・ノーベル賞
2009/10/3 2009年イグ・ノーベル賞
2010/10/7 2010年ノーベル化学賞とイグ・ノーベル賞
2011/10/1  2011年度イグノーベル賞
2012/9/25 2012年 Ig Nobel 賞に日本人の「スピーチジャマー」
2013/9/16 2013年 Ig Nobel 賞、日本の2チームが受賞
2014/9/20 2014年イグ・ノーベル賞
2015/9/22 2015年 イグノーベル賞

日本人の受賞は次のとおりで、2005年までに11件、2007年からは10年連続で11件(2013年は2件)で、合計22件の受賞となった。
なお、2008年の認知科学賞と、2010年の交通計画賞は、同一テーマの研究の延長で受賞している。

(敬称略)

名前 受賞
1992 神田不二宏, E. Yagi,
M. Fukuda
K. Nakajima,
T. Ohta and O. Nakata
(資生堂研究センター)
薬学賞
足の匂いの原因となる混合物の解明
1994 気象庁 物理学賞
地震が尾を振るナマズによって引き起こされるかどうかを7年間研究した功績
1995 渡辺茂(慶應義塾大学)
坂本淳子
脇田真清(京都大学)
心理学賞
ハトの絵画弁別(ハトを訓練してピカソとモネの絵を区別できるようにした)功績
1996 岡村長之助
(岡村化石研究所)
生物学的多様性賞
岩手県の岩石から古生代石炭紀(約3億年前)の石灰岩中に超ミニ恐竜化石を
発見した功績
(小さな石を顕微鏡で見て超ミニ恐竜化石だと主張して発表)
1997 舞田あき(バンダイ)
横井昭宏(ウィズ)
経済学賞
バーチャルペット(
たまごっち)の開発によりバーチャルペットへの労働時間を
費やさせた功績
1997 柳生隆視 他
(関西医科大学)
生物学賞
様々な味のガムをかんでいる人の脳波を研究
1999 牧野武
(セーフティ探偵社)
化学賞
妻や夫の下着に適用して精液の跡を発見できる浮気検出スプレーの開発
.
2002 佐藤慶太(タカラ社社長)
鈴木松美(日本音響研究所)
小暮規夫(獣医学博士)
平和賞
コンピュータ・ベースでの犬と人間の言葉を自動翻訳するデバイス「
バウリンガル」開発
2003 広瀬幸雄 教授
(金沢大学)
化学賞
銅像に鳥が寄りつかないことをヒントに、カラスを撃退できる合金開発
2004 井上大佑 平和賞
カラオケ
を発明し、人々に互いに寛容になる新しい手段を提供
2005 中松義郎
(ドクター中松) 
栄養学賞
36年間にわたり自分が食べたすべての食事を撮影し、食べ物が頭の働きや体調に
与える影響を分析
2007 山本麻由 化学賞
牛糞からバニラの芳香成分 vanillin の抽出
2008 中垣俊之ほか 認知科学賞
真正粘菌変形体という巨大なアメーバ様生物が迷路の最短経路を探し当てる
2009 田口文章ほか 生物学賞
パンダのフンから抽出したバクテリアを使って台所の生ゴミを分解し、9割減量
2010 中垣俊之ほか 交通計画賞
粘菌が交通網を整備
2011 今井眞ほか 化学賞
わさびの臭いが火災報知器の役割を成す理想的な空気中のわさび濃度
2012 栗原一貴、塚田浩二 音響賞
迷惑を顧みず話し続ける人の話を妨害する装置「スピーチジャマー」を開
2013 新見正則ほか 医学賞
心臓移植したマウスにオペラを聴かせると生存期間が延びた
今井真介ほか 化学賞
タマネギの催涙成分をつくる酵素
2014 馬渕清資ほか 物理学賞
「バナナの皮を踏むとなぜ滑りやすいのか」を実験で解明
2015 木俣肇 医学賞
情熱的なキスの生物医学的な利益あるいは影響を研究するための実験

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