ギリシャ、イタリア、フランス、ポルトガル、キプロス、マルタ、スペインのEUの南欧7カ国の首脳は9月9日、アテネで初の南欧諸国会議(Euro-Med summit)を開いた。
旗振り役のギリシャのチプラス首相は開会に当たり、参加国は「経済危機と難民危機で不公正な打撃を受け、移民流入の圧力を受け、不安定な中東・北アフリカ諸国に隣接している」と指摘した。
会議は、難民・移民問題や失業、安全保障など南欧が苦しむ課題について提言をまとめ、EUに一層の対応を求めることで一致し、「アテネ宣言」(Athens Declaration)を採択した。
9月16日には、EU離脱を決めた英国抜きの非公式なEU首脳会合がスロバキアの首都Bratislavaで開かれるが、宣言に基づく提案を行うとみられる。
アテネ宣言は「欧州の経済と社会モデルの構築」を目指すとし、経済成長や難民問題、安全保障の各分野でEUが採るべき施策を提案した。
経済面では、EUが主導した緊縮策で失業者が増大し、貧困が拡大したことを受け、雇用創出に向けたEUの資金援助を大幅に拡充することを要求している。
「欧州は繁栄と社会正義の約束を守る必要がある。経済危機に打ち勝ち、雇用を産み、社会モデルを守り、我々の経済の将来に備えるため、更なる成長と投資が必要である 」としている。
とりわけ、高失業率に苦しむ若年層への支援強化を求めた。
提案3.Fostering Growth and Investment in Europe
提案4.Strengthening programmes for youth
難民問題では、ギリシャやイタリアに負担が集中している現状を打開するため、EU各国による「責任の共有」を要望している。
国境管理や移民・難民対策は欧州の将来へのチャレンジであるとし、レーシズムや外国人嫌悪は許容できないとしている。
EU の現行の難民政策はDublin systemと呼ばれ、政治的な迫害などを逃れてきた難民申請者に対しては、最初に入国したEU 加盟国のみが難民申請手続きを受け付けることになっているが、責任と連帯の原則に立ち、これを見直すことを求めている。
提案5.Addressing the challenge of migration
このほか、次の2つの提案をしている。
提案1.Ensuring the internal and external security of Europe
提案2.Reinforcing the cooperation in the Mediterranean and with African countries
今後も南欧諸国会議を続けることを決めた。次回はポルトガルで開催する。
これに対し、緊縮策を推進するドイツからは厳しい意見が相次いでいる。「仏大統領や伊首相はギリシャのチプラス首相に利用されている」とのコメントも出た。
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ドイツ主導のEUの緊縮策により、南欧諸国の経済は停滞し、失業率が増大している。特に若年層の失業率は大きい。
ドイツやオランダとの差が著しい。
難民・移民問題については、最初に入国したEU 加盟国のみが難民申請手続きを受け付けるというDublin systemでは「玄関口」にあたる国に負担が集中するため、これを緩和するため、EUの内相会議は2015年9月、加盟国の経済規模などに基づいて難民を割り当てることを賛成多数で決めた。
ギリシャやイタリアにたどり着いた約16万人を2年間かけて分担する目標だったが、両国から移転した難民は3%未満の約4700人にとどまっている。一部の中東欧諸国は反対の姿勢を崩していない。
ポーランドやハンガリーは受け入れを拒否、ハンガリーとスロバキアは決議無効を訴えて欧州司法裁判所に提訴している。
「寛容な」難民受け入れ政策を進めてきたドイツのメルケル首相の選挙区で、首相のキリスト教民主同盟が州議会選挙で大敗した。移民受け入れがその原因である。
9月16日の非公式なEU首脳会合は、英国の離脱後のEUの団結を議論する予定だが、ドイツと南欧諸国との対立が拡大する恐れもある。
付記
9月16日の27カ国の非公式首脳会合は、今後半年間に最優先で取り組む政策課題をまとめた「行程表」を採択した。
・ 移民・難民問題
・ テロ対策・安全保障
・ 反グローバル化への対応・若年対策
・ EUの将来 来年3月に将来像を提示
イタリア首相は会議終了後に単独で記者会見を開き、「今回の結論には満足していない」と言及。難民・移民対策で突っ込んだ議論を避けた会議進行や、緊縮的な財政政策を重視するドイツへの不満を隠さず、独仏との共同記者会見を拒否したことを明かした。
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