EUとカナダの包括的経済・貿易協定(CETA)は2014年に交渉が終わり、10月27日に正式調印を目指していた。
CETAが実現すれば、関税が98%撤廃されるだけでなく、手厚く保護されているEUの農業市場をカナダの農家に開放するほか、EU企業がカナダの公共部門の調達市場にアクセスできるようになる。同時に、労働および環境の基準、公共サービスなどについての国家の選択に新たなセーフガードも設けられる。
EU加盟の28カ国の全ての承認が必要で、27カ国が承認したが、ベルギーが承認できない状態となっている。
ベルギーのワロン (Wallonia)地域議会が投資家を保護する紛争解決手続きに問題があるとして反対を決定した。
反対の核心は、投資家と政府の間の紛争を解決するための独立した法廷を設置すること 。
欧州委員会は、CETAでは新たに設置する法廷が政府にサービスの民営化を迫ったり国営化を阻んだりするために利用されないよう確約するなど、強力なセーフガードを設けてあると主張している。しかし、各国政府の政治的選択に反対する多国籍企業に強すぎる権力を与えることを懸念している。
ベルギーの条約締結には地方議会の承認が必要なため、ベルギーは国として承認できず、FTAの締結が危ぶまれている。
ワロン地域議会の議長は10月24日、条文には雑多な内容が含まれているため精査する時間が必要と説明し、脅しや最後通牒は民主主義に反するとして、同日中に承認するよう求めるEUの圧力には屈しないと述べた。年末まで期限を延長することが妥当としている。
人口わずか350万人ほどの一地区の反対でEUが貿易協定を締結できない状況となった。
欧州理事会のDonald Tusk 常任議長(EU大統領)は20日、カナダとの協定締結に失敗した場合、他の協定を締結することもできなくなる恐れがあると警鐘を鳴らした。
CETAの調印ができなければEU加盟国の国民のEUへの信頼性にも傷がつくと懸念された。
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ベルギーのミシェル首相は10月27日、協定に反対していた南部ワロン地域政府から同意を取り付けたと述べた。
ミシェル首相は、地域の行政府首脳らが農民や政府の権利などに対する自らの懸念を軽減する補足条項を策定したと明らかにした。
ただCETAの調印には、カナダと他のEU諸国がこの補足条項を承認する必要がある。
カナダは「前向きな進展」とし、慎重ながらも歓迎する意向を表明。EU大統領は「EUのCETA承認手続きがすべて完了してからトルドー首相に連絡する」とし、双方とも問題が決着したとの見解はまだ示していない。
付記
EUとカナダは10月30日、ブリュッセルで首脳会談を開き、自由貿易協定(FTA)に署名した。反対していたベルギーのワロン地域の説得に成功し、実現にこぎ着けた。
欧州議会の承認を経て、2017年初めに暫定発効する見通し。暫定発効すれば貿易品目の99%の関税が撤廃される。
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ベルギーは1993年の憲法改正により連邦制に移行した。
連邦は、ブリュッセル首都圏地域、フランデレン地域、ワロン地域の3つの地域と、フラマン語共同体、フランス語共同体、ドイツ語共同体の3つの言語共同体の2層、計6つの組織で構成される。
ただし、フラマン語共同体とフランデレン地域については、ブリュッセル首都圏を除き領域が完全に重なるので、現行憲法が施行されてまもなく、フラマン語共同体政府がフランデレン地域政府を吸収する形で統合され、計5つの組織で構成されることとなった。
この結果、ベルギーには連邦政府を加えて6つの政府、連邦上院・下院を含めて7つの議会があることとなる。
ベルギー政府がCETAを承認するには、7つの地域議会が、協定に署名する権限を連邦政府に与えなければならないことになって いる。
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