韓国で9月28日、「不正請託や金品などの授受の禁止に関する法律」(不正請託禁止法)が施行された。韓国社会にはびこる賄賂や接待文化を禁止する法律である。
韓国初の女性裁判官で、首相直属機関の国民権益委員会の当時の委員長の金英蘭女史が発案したため、その名前を取って「キムヨンラン法」と呼ばれる。
原案では、規制対象者は中央・地方すべての公職者と公企業、国公立の教職員とされていたが、社会に与える影響力が大きいという点から記者などマスコミに携わる従事者と私立学校教員、その配偶者が追加された。 但し、国会議員が対象から除外されていることで批判がある。(国会議員が除外されたから法律が成立したとの説もある)
公職者やメディア関係者、私立学校職員などで、配偶者も含め、1回100万ウォン、年間計300万ウォンを超える金品を受け取った場合、どんな理由であれ刑事処罰の対象になる。
会食は3万ウォン、贈り物は5万ウォンなどの上限も設けられた。
違反した場合は、3年以下の懲役か3000万ウォン以下の罰金が科せられる。
概要は下記の通り。(1万ウォンは約900円)
1.「公職者等」
国家公務員、地方公務員、公共機関関係者、法律により公務員と認められる者、学校関係者及び報道機関関係者をいう。
国会議員はこれに含まれない。
2.不正請託の禁止
許認可、人事、入札、補助金、徴兵、事件捜査等に関して、公職者等に対し、不正請託(計15 類型)を行ってはならない。
公職者等は、当該不正請託に応じてはならない。罰則は下記の通り。
依頼側:1~3 千万ウォン以下の過料(公職者等が行ったのか否か、第三者のためか第三者を通じてかにより3 段階に区分)
受ける側:2 年以下の懲役又は2 千万ウォン以下の罰金
3.金品等授受の禁止
公職者等及びその配偶者は、職務との関連とは無関係に、同一人から1 回に100 万ウォン又は1年に300 万ウォンを超える金品等を授受、要求又は授受する約束をしてはならない。
公職者等の配偶者が受け取った金品も、公職本人への金品とみなされる。配偶者が職務に関連して金品などを受け取った事実を知った場合、申告しなければならない。罰則は下記の通り。
金品等授受(依頼側、受ける側とも)100万ウォン超の場合、3 年以下の懲役又は3 千万ウォン以下の罰金
100万ウォン以下でも職務関連性がある場合、受領額の2~5 倍の過料配偶者の金品等授受
100 万ウォン超で、報告・返還なし:3 年以下の懲役又は3 千万ウォン以下の罰金
100 万ウォン以下で職務関連性があり、報告・返還なし:受領額の2~5 倍の過料
4.飲食、贈答、慶弔費
公職者等は、原則として職務関連者から金品などを受けることができないが、円滑な職務遂行や社交、儀礼、扶助の目的である場合に限り、受け取ることが出来る 。
但し、飲食費は3万ウォン、贈答品は5万ウォン、慶弔費は10万ウォンを超えてはならない。
「職務関連性」の概念が曖昧なため、個別事案が法の適用対象なのか、判断に迷う事例が少なくないが、国民権益委員会はガイドラインを示し、「迷ったら割り勘」などと呼びかけている。「公職者など多くの人が食事をするとき、頭数で割り勘するのが原則だ」としている。
直接の職務関連性があり、公正な職務遂行を阻害する可能性がある場合、価格基準内であっても、飲食・贈答品・慶弔費を受けることができない。
学校の教師は、日常的に提供を受ける食事や贈答品が学生の評価に影響を与える可能性があるため、飲食物・贈答品の提供が基本的に禁止される。
違反の通報第1号は、大学生からの電話で、「同じ講義を聞く他の学生が教授に缶コーヒーをあげるのを見た」というもので、警察は書面で通報するよう案内したという。
5.ゴルフ接待はダメ
職務関係者とのゴルフを一種の接待とみなし、原則的に禁止。
公職者などがゴルフ会員権の所有者とゴルフをしたとき、グリーンフィー優遇などの割引は、金品授受に該当するとして禁止。
6.不正な請託は、最初は拒絶して、2回目は申告する
公職者等が最初に不正な請託を受けた場合、不正な請託だという事実を知らせ、これを拒絶する意思を明確にしなければならない。
それでもまた同じ不正な請託を受けた場合、所属機関長に申告しなければならない。
7. 提供者も法人も処罰される
誰でも公職者等に金品などを提供したり、金品の提供などを約束した場合、罰金または刑事処罰を受ける。
また、法人所属の役職員が、業務に関して不正な請託をした場合、法人も罰金を科されることがある。
8. 外部で講演するときは、あらかじめ申告して、基準額だけ受け取る
公職者などが外部で講演をするときは、講演の要請があったことや明細などを所属機関長にあらかじめ書面で申告しなければならない。
外部講演の報酬上限額は、閣僚以上は1時間あたり50万ウォン、次官級は40万ウォン、上級公務員30万ウォン、それ以外の公務員は20万ウォン。
ただし報酬の総額は講演時間に関係なく、1時間の上限額の150%を超えてはならない。
私立学校の教職員、学校法人の従業員、報道機関の役職員が外部 講演などをした場合の報酬上限額は、1時間当たり100万ウォン 。公職者等が過剰な報酬を受け取った場合、これを所属機関長に書面で申告して返納する必要がある。
公職者等が申告や返納を履行しなかった場合、500万ウォン以下の罰金。
9.不正な請託・金品授受の通報制度
違反行為の通報者には、最大 2億ウォンの褒賞金が与えられる。
超小型カメラや盗聴器を使って違反者を通報し、一攫千金を狙う者を指す "ランパラッチ"( キムヨンラン+パパラッチ) という言葉ができたという。
また、個人の素行調査を目的とした「公益申告専門要員養成」を標榜する私設塾が新しくできたと報じられた。
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2012年8月に国民権益委員会の当時の金英蘭委員長(韓国初の女性裁判官)が韓国社会に根強く残る不正腐敗の根絶のために推進した。
発端は2011年に釜山で起きた「ベンツ女性検事事件」で、ダブル不倫の関係にあった男性弁護士に刑事事件の情報を流し、同僚の検事などに特別の計らいを依頼し便宜を図った女性検事が、見返りとしてベンツやシャネルのバッグを受けとっていたもの。
これに世論が激怒し、公職者が職務に関連性がなくとも金品を授受した場合は処罰しようという気運が高まり、金英蘭法が本格的に立法に向けて動き出した。
2015年3月に国会を通過した。
しかし、規制対象者がマスコミ関係者、私立学校教員にまで拡大されるなど国会審議の過程で内容が大幅に変更されたため、弁護士協会、韓国記者協会などが憲法裁判所に違憲の審議を求めた。
本年7月28日、憲法裁判所は、金英蘭法は合憲である旨の判断を下した。
政府や企業とマスコミとの間に、過剰な接待や金品授受が蔓延していると指摘し、「自浄努力には任せられないとする立法者の判断は間違っていない」と断じた。
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韓国経済研究院は2016年6月に、"金英蘭法"によってもたらされる経済的損失について、飲食業、ゴルフ業、消費財、流通業などに直接的な打撃を与え、合わせて 年間 11兆6000億ウォンほどの年間損失になると推定した。
飲食業界は8兆5000億ウォンほどの経済損失が予想されている。
政治家たちも、さっそく会食などを減らしているという。 初日は料理店はどこも開店休業状態であったという。
農林畜産食品部では、贈り物で人気の高級牛や水産物への打撃で年間8000億ウォン〜9000億ウォンの損失が出ると推定している。
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最近の韓国ギャラップの世論調査によると、賛成が71%で、反対の15%を大きく上回った。
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