厚生労働省は11月16日、中央社会保険医療協議会を開き、極めて高額のがん治療薬「オプジーボ」(一般名ニボルマブ)の薬価 50%引き下げを提案し、了承された。
現行薬価 算定薬価 オプジーボ点滴静注 20mg 150,200円 75,100円 同 100mg 729,849円 364,925円
付記
製造販売元の小野薬品工業は不服意見の提出を見送った。
厚生労働省は11月24日、来年2月1日からの薬価引下げを官報で告示した。
革新的な抗がん剤のオプジーボは、希少がんであるメラノーマ(根治切除不能な悪性黒色腫、推定対象患者は470人)の治療薬として超高額な薬価が設定された。
その後、切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん(推定対象患者は5万人)へ適応が拡大されている。
オプジーボは、免疫細胞上のタンパク質(PD-1)を発見した京都大学の本庶佑名誉教授の研究を基に「ゴールの見えないまま始めた研究から成果が出るまで20年以上かかった」(小野薬品)。
薬を作るには、PD-1分子の働きを邪魔する「抗体」が欠かせなかったが、小野薬品には抗体を作る技術がなかった。その後、米ベンチャー企業 Medarexとの提携で「完全ヒト型抗PD-1 抗体」を入手でき、オプジーボが誕生した。
Bristol-Myers Squibbは2009年7月22日、Medarexを24億ドルで買収すると発表した。
現在、日本、韓国、台湾以外はBristol-Myers Squibbが開発・商業化の権利を持つ。
オブジーボの薬価には次の問題がある。
・肺がん患者1人当たりで年約3,500万円かかる。
・患者数の拡大で単位当たり開発費・製造原価は大幅に下がる筈。
・5万人の肺がん患者全員が使えば費用は1兆7500億円に達する。
・オプジーボの日本の価格は海外の価格に比べ高すぎる。
全国保険医団体連合会の分析結果は下記の通り。(体重60kg、2週間に一度使用)
薬価(100mg) 年間薬剤費 日本 729,849円 34,596,874円 米国 297,832円 13,938,449円 英国 150,234円 7,815,737円
中医協でも「薬価が高額のまま患者が増えれば、医療保険財政を破綻させかねない」などの意見が出ており、首相官邸や政府の経済財政諮問会議などが大幅引き下げを求めていた。
このため、原則2年に1回の薬価改定時期(次回は2018年度)を待たず来年2月1日から実施する。
薬価引き下げの根拠としては、2016年度の薬価制度改革で導入された巨額再算定(特例の市場拡大再算定)のうち、「年間予想販売額が1500億円超、かつ予想の1.3倍以上の場合、薬価を最低で50%引き下げる」という規定が準用された。
付記
厚生労働省の専門家会議は11月24日、Merckが開発中のがん免疫薬KEYTRUDA® (Pembrolizumab) を肺がん向けに承認して問題ないと判断した。
キイトルーダはオプジーボと作用が同じで、対象疾患も競合する。
オプジーボが使えるのは現時点で、皮膚がんの一種である悪性黒色腫と、肺がん、腎がんの3種類。
一方、キイトルーダは9月に悪性黒色腫への使用が承認され、今回の肺がんで2種類目となる。キイトルーダの薬価は類似薬であるオプジーボの薬価を基準に決まる。
ニュースサイトで読む: http://mainichi.jp/articles/20161116/dde/001/040/071000c#csidx7a24027a11ac40c9d98de7fa0184b45
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新医薬品の薬価算定方式は次ぎの通りだが、オプジーボの価格は類似薬がなく、開発費や製造原価、営業利益、流通経費などを積み上げて算出された。
オプジーボの価格設定は下記による。(オプジーボ点滴静注 100mg)
製造原価(開発費を含む) 459,778円 営業利益 170,055円 通常の場合、営業利益率は16.9%
画期的新薬ということで、60%が加算がされ、営業利益率 27.0%流通経費 45,953円 消費税 54,063円 合計 729,849円
オプジーボは、推定対象患者は470人の希少がんであるメラノーマ治療薬として超高額な薬価が設定されたが、その後、推定対象患者は5万人の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんへ適応が拡大された。
市場拡大の場合の薬価再算定のルールは2000年から実施されている。
一定の市場拡大の場合に最大25%引き下げるというもの。
これに加え、2016年より、年間販売額が極めて大きい品目についての特例が決まった。
年間販売額が1000~1500億円で予想の1.5倍以上の場合は最大25%引き下げ、年間販売額が1500億円超で予想の1.3倍以上の場合は最大50%の引き下げとなる。
小野薬品はオプジーボの2017年3月期の売上高を出荷ベースで1260億円と見込んでいる。
このままでは、薬価引下げは最大25%となる。
厚労省はこれを下記により補正し、年間販売額(末端)を1516億円と試算し、年間販売額が1500億円超で予想の1.3倍以上の場合の最大引下げ率 50%を適用した。
(流通経費や乖離率は実数ではなく、明らかに50%引下げのための恣意的な計算である。)
流通経費 業界平均 7% 卸業者のマージン 消費税 8% 乖離率 業界平均 6.9%の1/2 卸業者による医療機関への納入価格と薬価の差
新薬のため、1/2にした。
通常の薬価改定であれば、薬価調査を実施して販売額などを調べる。「流通経費」や「乖離率」などは、今回の緊急対応に限ってのものとなる。
超高額薬剤の薬価制度については、2018年度の次期改定に向けて抜本的な見直しを行う方針が中医協で固まっている。
今回の見直しについて、医薬品メーカーサイドの加茂谷専門委員(塩野義製薬常務執行役員)は薬価専門部会で、「イノベーション強化が極めて重要だが、メーカーに十分な収益がなければ、新薬の開発ができなくなってしまう。緊急の引き下げは、今後、あってはならない」旨を訴えた。
小野薬品工業は11月16日、「唐突なルール変更によって経営の予見性を損なうことがないように願いたい」とするコメントを発表した。
日本製薬団体連合会と日本製薬工業協会も同日、「今回の措置は現行ルールを大きく逸脱したもので、今後二度とあってはならない。(通常ではない時期の)大幅引き下げは日本における新薬の研究開発意欲をそぐ」と連名の声明を公表した。
また菅義偉官房長官は同日の記者会見で「(適用拡大があった経緯などから)50%引き下げても研究開発を阻害することにはならないと思う」と述べた。【細川貴代、久野洋】
ニュースサイトで読む: http://mainichi.jp/articles/20161117/k00/00m/040/150000c#csidxf962c28ed0046529372999cfc682a46
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日本製薬団体連合会と日本製薬工業協会も同日、「今回の措置は現行ルールを大きく逸脱したもので、今後二度とあってはならない。(通常ではない時期の)大幅引き下げは日本における新薬の研究開発意欲をそぐ」と連名の声明を公表した。
また菅義偉官房長官は同日の記者会見で「(適用拡大があった経緯などから)50%引き下げても研究開発を阻害することにはならないと思う」と述べた。【細川貴代、久野洋】
ニュースサイトで読む: http://mainichi.jp/articles/20161117/k00/00m/040/150000c#csidxf962c28ed0046529372999cfc682a46
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日本製薬団体連合会と日本製薬工業協会も同日、「今回の措置は現行ルールを大きく逸脱したもので、今後二度とあってはならない。(通常ではない時期の)大幅引き下げは日本における新薬の研究開発意欲をそぐ」と連名の声明を公表した。
また菅義偉官房長官は同日の記者会見で「(適用拡大があった経緯などから)50%引き下げても研究開発を阻害することにはならないと思う」と述べた。【細川貴代、久野洋】
ニュースサイトで読む: http://mainichi.jp/articles/20161117/k00/00m/040/150000c#csidxc8b0636bfae60ae8e16ffdd64be125b
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日本製薬団体連合会と日本製薬工業協会も、「 今回の措置は薬価改定がない時期に、企業公表の売上予測を活用して薬価を引き下げるという、現行ルールを大きく逸脱したもので、今後二度とあってはならない。通常ではない時期の大幅引き下げは日本における新薬の研究開発意欲をそぐ」と連名の声明を公表した。
菅官房長官は同日の記者会見で「(適用拡大があった経緯などから)50%引き下げても研究開発を阻害することにはならないと思う」と述べた。
今回の決定はルールを歪めたもので好ましくはないが、適用患者の大幅拡大(当然、原価は大幅に下がる)を考えると妥当と思われる。(薬価はごく少数の患者を前提にしたコストを基に決まっている。)
米国や英国の売価から見ると、日本の薬価が高すぎるのは明らかである。(米国の売価はメーカーが自主的に決めている。)
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