原子力規制委員会は10月26日、火山灰が大量に降った際の原発への影響について、これまで求めていたより10倍の濃度の火山灰を想定して対策を立てるよう電力各社に求めることを決めた。
現在の規制基準では、噴火で火山灰がまき散らされても、空気取り入れフィルターの目詰まりにより非常用発電機が機能を失うことがないよう対策を求めており、想定する大気中の火山灰の濃度は、2010年に欧州で航空便が大量欠航したアイスランドの噴火の際に観測された1立方メートルあたり約3ミリグラムを用いて いる。
2010年4月14日、アイスランドの首都レイキャビクの東方125kmのエイヤフィヤトラヨークトル(Eyjafjalla-jokull)火山が噴火した。
噴煙は成層圏に達し、火山灰は西ヨーロッパ全土に拡散、欧州約30カ国の空港が一時閉鎖し、1週間で航空機10万便が運休した。
しかし、関西電力美浜原発3号機の審査書案への意見募集で、桜島の噴火で7~10mgを観測していること、1980年の米 St. Helens山の噴火では30mg 超だったとの指摘があった。
このため、規制委の指示で関電で再評価をした結果、仮にSt. Helens山の噴火における大気中濃度を適用した場合であっても、フィルタを交換することで施設の機能を確保できることを確認した。
規制委員会では、すでに新規制基準への適合が認められた九州電力川内原発1・2号炉、四国電力伊方原発3号炉及び関西電力高浜原発 1~4号炉の3原発7基についても、非常用発電機のフィルターなどが目詰まりしないか、評価して報告するよう求めた。
これとは別に、電力中央研究所が今年4月に公表したシミュレーションでは、富士山の宝永噴火(1707年)で横浜付近(降灰実績16㎝程度)の火山灰濃度は1立方メートルあたり最大100㎎~1,000㎎ の結果が出た。
1707年12月16日午前10時ごろに富士山宝永噴火が発生し、翌年1月1日未明までの16日間噴火は続いた。
火口から約100km 離れた江戸では、16日午後1時頃から噴煙に覆われて暗黒になり、灰色の火山灰が降灰。夜に入ると灰色の火山灰は黒色の砂へと変わり、この砂は夜半には降り止んだ。
規制委は、 電力中央研究所レポートや、産総研の「吸気フィルタの火山灰目詰試験」レポートの妥当性を確認した上で、「火山影響評価ガイド」改正その他の検討に着手する。
検討に当たっては、海外の動向も参考とする他、これらレポートを踏まえた事業者の意見や対応についても聴取する。
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火山については巨大噴火の問題が残っている。
地下のマグマが一気に地上に噴出する壊滅的な噴火(破局噴火)で、大規模なカルデラの形成を伴うことからカルデラ破局噴火とも呼ばれる。
7300年前に屋久島近くの海中で鬼界カルデラ噴火が発生した。阿蘇山では、30万年前から9万年前までの間に、4回の巨大なカルデラ噴火が発生している。
これまで平均 6,000年間隔で起こっていたカルデラ噴火が、最近 7,300年間は発生しておらず、いつ起こっても不思議がない。
規模にもよるが、一度、カルデラ噴火が起こると、その周囲100~200kmの範囲は火砕流で覆われる。
原子力規制委員会は九州電力川内原発については、原発周辺で巨大噴火が起こる可能性は非常に低いとして、再稼働審査に合格させている。
規制委は10月17日、外部有識者でつくる原子炉火山部会の初会合を開き、巨大噴火に備えて原発の停止、核燃料の搬出などを命じる基準の検討を始めた。
規制委の案によると、巨大噴火は、中小規模の噴火や大規模噴火を経て発生すると考えられるため、中小規模の噴火が起こり、極めて異常なデータが観測された場合、同部会で対応を検討するとした。監視対象となるデータとしては、地殻変動や地震活動、火山の熱やガスを挙げている。
この日の会合では、「顕著な現象があっても巨大噴火になるかは直前にならないと分からない」など、有識者から予兆をとらえるのは困難とする指摘が相次いだ。
しかし、核燃料の搬出には核燃料を数年間冷やすことが必要で、直前に搬出を命じても間に合わない。
停止命令は実際には廃炉命令であるため、可能性が低い時点では出し難いが、ためらっていると噴火前に核燃料の搬出が出来ず、 大惨事となる。
基準の作成が難航するのは必至である。
また、現在は核燃料の搬出先が決まっていないが、予め決めておく必要がある。
付記
数十年以内に桜島で大きな噴火が起きる恐れがある。英 Bristol 大学 School of Earth SciencesのVolcanology Research Group と京都大学の桜島火山観測所が 9月13日にNature 誌に発表した。
桜島を含む姶良カルデラの地下にあるマグマが年間1150万立方メートルのペースで増えているというもの。
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