米国の人事・組織コンサルティング会社の Mercer は、2009年から世界各国の年金制度を横断的に比較し、かつ最も多角的、包括的に調査した指数であるといえるグローバル年金指数 (Merbourne Mercer Global Pension Index)を毎年発表しているが、本年も2016年度の指数とランキングを発表した。
Mercer はニューヨークを本拠地とし、世界40カ国約180都市にわたるグローバルネットワークに、19,000名以上のスタッフを擁する世界最大の組織・人事マネジメント・コンサルティング会社。1959年にアメリカ大手保険グループである Marsh & McLennan に買収された。
ランキング首位はデンマークで、2012年より5年連続で首位を堅持 しており、同国とオランダのみが最高ランク "A" の評価を得ている。
十分に積み立てられた年金制度や、多くの加入者数、優れた資産構成と掛金の水準、十分な給付レベルおよび法令の整った個人年金制度の提供が首位となった主な理由である。
デンマークと共にオーストラリア、オランダは3年連続トップ3の順位を維持している。
これに対し、日本の年金制度のランキングは 当初から最下位グループに属しており、今回は27ヵ国中26位となった。
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Merbourne Mercer Global Pension Indexは豪州ビクトリア州政府の支援により、オーストラリアの金融サービスやリサーチの専門分野の頭脳を結集して開発されたもの。
2009年に日本、中国を含む11カ国を対象としたが、順次対象を加え、今回は27カ国となり、全世界の人口の60%近くをカバーしている。
評価は40以上の質問項目から構成され、対象国の年金制度に0から100までの評価が付けられ、「十分性(Adequacy)」、「持続性(Sustainability)」、「健全性(Integrity)」の平均評価値が指数として表される。
各項目の評価指数における構成は次の通り:
十分性(Adequacy) | 40% | 公的年金が老後の生活に十分なだけ支払われているか、老後のための貯蓄は十分になされているか等。 |
持続性(Sustainability) | 35% | 年金が支払われるのに十分な環境が整っているか、平均寿命と支給開始年齢の関係は良いか、国家の破綻のリスクがなく持続可能なものか等。 |
健全性(Integrity) | 25% | 年金制度をうまく運用するための見直し機能や透明性が担保されているか、また私的年金のスキーム等。 世界銀行が発表している世界ガバナンス指数を評価に加えている。 |
総合指数の評価は次のとおり。
指数 | Grade | 評価基準 | 今回対象国(グラフ参照) |
80以上 | A | 十分な給付を提供、持続可能で、高い健全性を保つ、非常に優れた堅牢な年金給付制度 | デンマーク、オランダ |
75~80 | B+ | 健全な構造と多くの優れた特性を有する制度だが、改善すべき点あり。 | 豪州 |
65~75 | B | フィンランドほか | |
60~65 | C+ | いくつかの優れた特性を備えるが、同時に対処すべき重要なリスク、欠点がある。 改善なければ、有効性、長期的持続可能性が疑問視される。 |
アイルランド、英国 |
50~60 | C | ドイツほか | |
35~50 | D | いくつかの優れた特性を備えるが、同時に対処すべき重要な弱点、欠落がある。 改善なければ、有効性、長期的持続可能性が疑問視される。 |
イタリア以下、日本、アルゼンチン |
35以下 | E | 構築の初期段階にある不十分な制度 | 該当なし |
日本の場合、健全性は60.9だが、十分性は48.5、持続性が24.4で、総合指数は43.2にとどまる。
過去の順位:
一位 日本の順位 日本より下位 2009年 オランダ 11/11 なし 2010年 オランダ 13/14 中国 2011年 オランダ 14/16 インド(新規)、中国 2012年 デンマーク 17/18 インド 2013年 デンマーク 17/20 韓国、インド、インドネシア(新規) 2014年 デンマーク 23/25 韓国、インド 2015年 デンマーク 23/25 韓国、インド 2016年 デンマーク 26/27 アルゼンチン(新規)
日本の年金制度については、例年指数・ランキング共に大きな変化がなく、制度の安定性はみられるものの、高齢化社会をめぐる課題に対する取り組みなど、引き続き改善の余地があることが明らかになった。
マーサージャパン以下の通りコメントしている。
「日本の総合評価が低いのは、特に、十分性と持続性の評価が低いためです。
十分性に関しては、年金給付による所得代替率(現役世代の年収と年金給付額の比率)が低いこと、税制や私的年金の仕組みが年金受給を促す形になっていないこと、などが評価を引き下げています。また、持続性に関しては、少子高齢化に伴い高齢者人口割合が増加していること、平均余命の増加により公的年金の期待支給期間(平均余命と年金支給開始年齢の差)が長くなっていること、さらには政府債務残高が大きいことなどの要因により低い評価となっています。
日本では他国よりも早いペースで少子高齢化が進行し、平均余命も伸長しています。公的年金では、社会情勢(現役人口の減少や平均余命の伸び)に合わせて、年金の給付水準を自動的に調整するマクロ経済スライドが2015年に初めて発動され、年金給付額の伸びは賃金や物価の上昇分以下に抑えられました。このような中、老後の生活資金を確保するには、公的年金に加え、企業年金や個人年金などの私的年金からの収入や活用方法を理解した上で、個人のライフスタイルに応じた早めの資金準備を実施していくことが重要になってきます。」
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公的年金の支給額を引き下げる新しいルールを盛り込んだ年金制度改革法案は11月25日の衆院厚生労働委員会で可決された。将来の年金水準を維持する狙いがある。
法案に盛り込まれた新ルールでは、これまで賃金が下がっても物価が上がれば年金が据え置かれていたシステムを変え、新たに賃金の下げ幅に連動して支給額も下げる。
また、支給額が上がる場合でも増加額を毎年0.9%ずつ目減りさせる「マクロ経済スライド」のルールも、2018年度から強化する。
「マクロ経済スライド」は、減益人口が減り保険料収入が減る一方、平均余命の伸びで年金支出が増え、年金会計が悪化するのを補填するため、消費者物価アップなどによる年金のアップを調整するもの。
2004年の年金制度改正で導入されたが、これまでは物価スライド特例措置(物価が下落しても年金を下げない)分を取り戻すために年金アップを抑えた期間は適用せず、2015年に初めて実施された。
2015/2/12 年金のマクロ経済スライド実施
今までの制度では年金の伸びから0.9%ポイントを減らすことになっているが、消費者物価のアップが低い場合は下記の通り 調整される。
今回の改正では、賃金や物価が低迷する景気後退期には支給額の抑制を凍結し、代わりに賃金や物価が上昇した局面で過去の調整不足分をまとめて年金額を抑える。2018年度から導入する。
消費者物価 本来の
スライド調整実際の
スライド調整年金改定 +2.3 -0.9 -0.9 +1.4 ルール通り適用 +0.8 -0.9 -0.8 0 調整を 0.1%分 棚上げ -1.0 -0.9 -0 -1.0 調整を全て棚上げ
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