Donald Trump 次期米大統領は11月21日、ビデオメッセージを発表し、来年1月20日の就任初日に「環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)から脱退する意志を表明する」と宣言した。
「よって立つのは単純なコアの原則、即ち、アメリカ第一(put America first)だ。鉄の生産、自動車生産、病気の治療、・・・ 全ての次世代の生産やイノベーションはこの、偉大な祖国アメリカで起こって欲しい」と述べた。
「就任初日に実施する行政府としての行動」を列挙。その一番目の項目としてTPP脱退の宣言を挙げた。
TPPは「我々の国にとって災難になりうる」とし、「その代わり我々は雇用や産業を米国国内に取り戻すため、公平な二国間の貿易協定を交渉していく」と している。
このほか、シェール開発や石炭産業への規制の緩和、インフラ設備へのサイバー攻撃の防止計画の策定、ビザ制度の悪用の調査や、ロビイストの制限などをを打ち出した。
これらは、大統領選挙の前の10月に発表した「アメリカを再び偉大にする」ための100日間のアクションプランのうち、就任初日の処理 項目に沿ったものである。
2016/11/11 トランプの公約
これに含まれていた「北米自由貿易協定(NAFTA) の再交渉又は撤退の意思を発表」は今回の発表には触れられていない。
なお、今回は「ObamaCare廃止」や「メキシコ国境の壁建設」などは含まれていないが、これらは上記アクションプランでも「法案を提案し、政権の最初の100日で議会を通すよう戦う」とした項目であり、今後発表されると思われる。
なお、Trump氏はオバマ大統領との会談の後、ObamaCareについて、既往症による保険加入の拒否禁止や26歳まで子供を両親が加入する保険対象に含める措置など、一部を維持することを検討していると明らかにしている。
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安倍首相は11月22日、ペルーで行われたTPPの参加12か国の首脳会合の後の記者会見で、「アメリカ大統領選挙後の状況を受けて、国内手続きを遅らせたり、やめようという国は1国も無かった。今国会で承認を得られるよう全力で取り組むとともに、あらゆる機会を捉えて、ほかの署名国に国内手続きの早期の完了を働きかけていく」と述べた。
さらに「アメリカ抜きでTPP協定の発効を目指すべきという声をどう考えるか」との質問 に対し、「アメリカ抜きでTPPの発効を目指すという意見については12か国の会議では議論にならなかった。TPPはアメリカ抜きでは意味が無く、根本的な利 益のバランスが崩れる」と述べた。
しかし、その後のTrump発表でTPPの発効の可能性はほぼ無くなった。
TPP発効には12カ国全体のGDPの85%以上を占める、少なくとも6か国が批准手続きを終えることが条件となっている。
米国のGDPは12カ国全体の60.4%を占めるため、米国抜きでは発効しない。(条約を変更すれば別だが)
2015/10/13 TPP の発効条件
Trump の主張する「雇用や産業を米国国内に取り戻すための公平な二国間の貿易協定」の交渉は厳しいものになると思われる。
11月20日に閉幕したアジア太平洋経済協力会議(APEC)は参加21カ国・地域で構成するアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の実現を掲げる首脳宣言を採択したが、これの将来も見通せなくなった。
ビショップ豪外相らは中国が主導を目指す米国抜きの東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に軸足を移す可能性に言及している。ペルーもRCEPへの参加準備を進めていると明らかにした。中国は低レベルの協定を主張しており、これに魅力を感じる国もある。
安倍首相は、RCEPでは国有企業の制限や知的財産権のルールがまだ交渉次第となっていることから、自由で公正な経済圏を目指すTPPが「一つのモデルにならなければならない」と述べていた。
戦略の練り直しが必要となった。
Trump氏の10月の公約のうち就任初日の処理項目と今回の発表は次の通り。
問題点 | 2016/10 発表 「アメリカを再び偉大にする」ための100日間のアクションプランのうち、就任初日の処理 |
2016/11/21 発表 |
政界の不正、特定利益の共謀 | 上下両院議員の再任を制限する憲法改正を提案 | |
連邦職員削減のための雇用凍結 | ||
連邦規則1つの新設の場合には既存の2つの規則をなくす。 | 新たな規制新設で、古い規制を除去 | |
White Houseと議会の職員が退職後5年間はロビイストになることを禁止 | 政界の「ヘドロをかき出す(Drain the Swamp)」一環 政府高官が退職後5年間はロビイストになることを禁止 政府高官が外国政府のロビイストになることを永久禁止 |
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White House役職員が外国政府のロビイストになることを永久禁止 | ||
外国のロビイストが米国の選挙のために資金を集めることを完全禁止 | ||
米国の労働者保護 | 北米自由貿易協定(NAFTA) の再交渉又は撤退の意思を発表 | |
TPPからの撤退を宣言 | TPPからの撤退を宣言、フェアな二国間貿易協定を推進 | |
中国を為替操作国に指定 | ||
米国の労働者に不当な影響を与える全ての外国の貿易阻害行為に対応 | ||
エネルギーの開発への制限を取り除く | エネルギーの開発への制限を取り除く | |
Keystone Pipelineなどのエネルギー関係のインフラ計画を進める | ||
国連の気候変動計画への数十億ドルの支払を取り止め | ||
ビジネスへの規制の廃止 | ||
安全保障と憲法のルール | オバマ大統領が決めた全ての憲法に反する指令等を廃止 | |
Justice Scaliaの後任を選ぶ手続きの開始 | ||
Sanctuary Cityへの全ての国家資金使用の禁止 | ||
不法移民犯罪者の米国からの追放を開始 | 米国労働者より安い賃金で働く移民のヴィザ悪用の調査 | |
身元調査ができないテロの温床地域からの移民を中断 | ||
インフラ防衛のためのサイバーテロ(cyber-attacks)への対策 |
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