富士フィルムは12月15日、武田薬品から和光純薬工業を買収する契約を締結した。富士フィルムが2017年2月に実施するTOBに武田薬品が応募するもの。
和光純薬は、1922年に当時の武田長兵衞商店から化学薬品部門が分離したもので、当初は武田化学薬品と称した。1947年に和光純薬工業と改称した。
「科学技術の振興と学術研究の進展に寄与し、人々の豊かな暮らしに貢献する」との一貫した経営理念のもと、最先端分野の研究ニーズに応えうる総合試薬メーカーとして高品位の製品を開発・製造してきた。現在では、独自の技術力を活かして、「試薬事業」をはじめ「化成品事業」「臨床検査薬事業」を柱としている。ES細胞やiPS細胞の培養につかう試薬など有望技術を持つ。
現在、武田薬品が69.42%を出資する。
富士フィルムも1960年に和光純薬と提携、9.50%を出資している。これまで長年にわたり、写真感光材料の生産に必要な発色剤などの化成品の供給を受けてきており、現在では写真感光材料だけではなく、半導体材料をはじめとする高機能材料などの製品に和光純薬の製品を活用するなど、事業面でも強固な関係を築いている。
武田薬品は現在、重点疾患領域である「オンコロジー(がん)」「消化器系疾患領域」「中枢神経系疾患領域」ならびに「ワクチン」への研究開発資源の重点的な配分を通じてイノベーションを推進することで、革新的な新薬の創出を目指している。
このため、膨大な費用がかかる新薬開発に経営資源を集中するため、和光純薬の売却を決めた。売却価額は 1,985億円で、株式売却益(税引き前)1000億円を計上する。
富士フィルムのほか、日立化成、Carlyle Groupが応札していたとされる。富士では、「入札方式だったため、ある程度買収金額がつりあがった面は否めない。ただ、そろばんをはじいて企業価値を見極めて応札しており、妥当な範囲におさまる金額だと考えている」としている。
富士フィルムによると、「再生医療などヘルスケア分野の成長を模索するなか、4~5年前に武田薬品工業の長谷川閑史・現会長との話のなかで持ちかけた。その頃からずっと欲しいと考えていた。武田側の事業改革のなかでこのたび売りに出ることになり、名乗りをあげた。買収は当社にとり重要なマイルストーンだ」という。
富士フィルムでは、買収により多くのシナジー効果を期待している。
1) 再生医療
富士フイルムグループには、iPS細胞の開発・製造のリーディングカンパニーであるCellular Dynamics International、国内で最初に再生医療製品を上市したジャパン・ティッシュ・エンジニアリングがある。
2016/6/28 富士フィルム子会社のCellular Dynamics、米国国立眼科研究所と加齢黄斑変性の治療に関する共同研究開発契約を締結
2010/9/3 富士フイルム、ジャパン・ティッシュ・エンジニアリングと資本提携
富士は再生医療に関して、iPS細胞作製などに関する主要特許や細胞の開発・製造ノウハウ(Cellular Dynamics)、フィルム事業などで開発してきた細胞培養に必要な足場材(リコンビナントペプチド)、一定条件生産技術や微小環境でのコントロール技術などを持つ。
和光純薬は細胞の培養に必要な「培地」(細胞が必要とするアミノ酸、糖、脂質、ビタミン、ミネラルに、成長因子などをバランス良く含む栄養液)を手がけており、「我々に欠けていた部分がそろう」こととなる。
2) 体外診断分野(メディカルシステム事業)
- 富士フイルムは、血液中の化学成分を正確かつ高精度に測定できる臨床化学分析システムやインフルエンザウイルスを高感度で検出できる免疫診断システムなど体外診断システムを展開し、同システムの売上を年率10%以上で伸長させている。
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今回、和光純薬が持つ免疫分析装置や生化学分析試薬などの製品群を加えることで、クリニックから大病院までのニーズに対応できる製品ラインアップを拡大。さらに院内検査を実施している国内のほぼすべての施設にアクセスできる和光純薬の営業網と、画像診断装置をはじめとした医療機器や医療ITシステムなどの販売を通じて構築した富士フイルムの海外ネットワークを活かして、それぞれのルートで相互に製品を拡販していく。
3) 医薬品の開発製造受託(CDMO)分野(医薬品事業)
富士フイルムグループは、FUJIFILM Diosynth Biotechnologies でバイオ医薬品の開発製造受託を行っており、また富士フイルムファインケミカルズでは低分子医薬品の開発製造受託を展開している。
今回、和光純薬の化学合成技術や培地の生産技術などと、富士フイルムグループが持つ低分子医薬の化学合成技術やバイオ医薬品の生産技術などを活用して、医薬品のCDMOビジネスを拡大させていく。
4) 電子材料事業
- 富士フイルムは、フォトレジストやイメージセンサー用材料、CMPスラリーなどの半導体材料製品をラインアップし、なかでも最先端の半導体材料分野で競争力の高い製品を供給することで、年率10%以上の売上成長を実現している。
- 今回、和光純薬が持つ、半導体の生産プロセスで使用される洗浄剤などを加えて、さらなる事業成長を図る。
5) 産業機材事業
富士フイルムが写真フィルムなどで培ってきた20万種の化合物ライブラリを試薬ビジネスに展開していくが、和光純薬の重合開始剤の次世代品などの開発を進めるとともに、富士フイルムの海外ネットワークを活用して、化成品ビジネスをグローバルに拡大していく。
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R-Pharmは、2001年に設立された、ロシア国内約60か所に拠点を有する製薬会社で、欧米の製薬会社などと、がん、感染症、リウマチなど、幅広い領域の新薬を共同開発し、ロシア国内で販売している。
また、子会社では医療機器を扱っており、今後、医療機器の開発・製造・販売にも注力する意向を示している。
今後、富士フイルムは、R-Pharmと、以下のテーマを含めたヘルスケア領域で幅広く協業を進める。
- 富士フイルムグループが有する医薬品、再生医療などのヘルスケアビジネスのロシアにおける事業展開
- 富士フイルムグループの医療機器のロシアでの事業展開
- 機能性化粧品やサプリメントのロシアでの事業展開
- 上記を実現するための合弁会社など設立の検討
なお、富士フイルムグループ会社の富山化学は、2015年に、R-Pharmの傘下企業であるトルコの製薬企業TR-Pharmと抗リウマチ薬「イグラチモド」に関するライセンス契約を締結している。
TR-Pharmは、トルコ・中東・北アフリカにおける開発・製造拠点として設立された会社で、事業拡大に向けて、がん、炎症、感染症などの領域に注力し、10以上の新薬を開発中。富山化学は、本契約に基づき、TR-Pharmにトルコ・中東・北アフリカにおけるリウマチ治療を目的とした「イグラチモド」の開発、製造、販売の独占的実施権を付与し、TR-Pharmより一時金およびロイヤリティを受け取る。
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