米政府、中国企業による独社の米子会社買収を禁止 

| コメント(0)


半導体製造装置メーカーのドイツのAixtron は 2016年5月23日、中国の福建芯片投資基金 (Fujian Grand Chip Investment Fund:FGC) が ドイツ子会社の Grand Chip Investment (GCI) を通じて同社を買収することで合意したと発表した。

GCI はAixtron の全発行済み普通株式の取得を目指してTOBを実施する。買収総額は約6億7000万ユーロにのぼる見込み。

Aixtron は1983年創業で、ドイツのヘルツォーゲンラートに本社を置く。買収手続き完了後も、ヘルツォーゲンラートの本社と技術拠点、および英国のケンブリッジと米国カリフォルニア州 Sunnyvale にある技術拠点を維持する。

これによりAixtron は中国市場に事業を拡大し、アジアでの地歩拡大を図ることができる。Aixtron は 2015年12月、中国Sanan Optoelectronics(三安光電)の発注キャンセルを受けて業績見通しを引き下げ、株価が43%下落した。

ーーー 

これに関し、オバマ米大統領は12月2日、Aixtron のカリフォルニア州の子会社 Aixtron Inc の買収を禁止すると発表した。軍事利用が可能な技術が対象に含まれ、米国の安全保障の脅威になると判断した。

Aixtronは発光ダイオード(LED)照明やレーザーなどに使う化合物半導体の製造技術を持つ。研究機能のある米子会社がこの技術に重要な役割を果たしているという。
また取引先には米防衛大手 Northrop Grumman が含まれる。

窒化ガリウム(GaN)ベースの新しい半導体技術が問題になったのではとされる。

米財務省の声明は、今回の買収に関し「中国政府が資金調達で支援している」と指摘した。

対米外国投資委員会(CFIUS)がAixtron の技術が軍事用途に使われる可能性があると判断しており、米子会社買収が「緩和措置を講じても解決できない安全保障上のリスクをもたらす」と強調した。

米国は外国からの米国内直接投資を歓迎するが、国家安全保障を保護するための例外を設けている。
外国投資委員会(CFIUS)が審査を行い、投資内容が米安全保障にかかわるものと大統領が判断した場合には究極的には買収案件を拒否できる。

まずCFIUSが外資による投資の予備審査をした後、同委員会が必要と認める案件についてのみ、本審査を行い、最終的に大統領の決定を仰ぐ。
財務省が議長となり、国土安全保障省、商務省、国防総省、国務省、司法省、エネルギー省、通商代表部、労働省、国家情報局がメンバーとなる。

ホワイトハウスが米国の安全保障リスクを理由に海外の買い手による投資を拒否するのはここ 4半世紀余りで3度目となる。

最初は 1990年2 月にGeorge Bush大統領が行ったもので、China National Aero-Technology Import and Export Corp(中国宇宙航空技術輸出入公司)による航空機部品メーカーのMAMCO Manufacturing, Inc.の買収である。

オバマ大統領は2012年9月28日、「国の安全保障に関わる」として、中国系企業Ralls Corp. によるオレゴン州の米海軍施設近くの風力発電企業4社の買収と所有を禁止し、本年取得した所有権を放棄することを求めた。

2012/10/4  オバマ大統領、米国内での中国企業の風力発電買収を阻止 

しかし、これについては、2015年11月4日、三一重工と米国政府の間で全面和解に至った。

三一重工側が訴訟を撤回し、米国政府も大統領令の強制執行を撤回する。
Ralls Corp.は風力発電企業4社を第三者に売却できる。
外国投資委員会(CFIUS)はRallsが買収した他の風力発電事業が国の安全保障上で問題がないことを認め、将来の更なる投資を歓迎する。

実質的には三一重工の勝利である。

2015/11/10 中国の三一重工、米国での風力発電買収阻止事件で米政府と和解、実質勝利 

今回が3度目で、オバマ政権としては2度目である。

これを受け、Aixtron は12月3日、「大統領令は米国事業に限られ、GCI が Aixtron 株を取得することは禁じていない」との声明を出し、米子会社を除いた買収に切り替える方針を示した。

中国外交部は12月2日、買収は通常のコマーシャルなM&Aであり、市場のルール、原則に従って取り扱うべきだと述べた。

ーーー

ドイツ政府は9月8日に買収を承認しているが、10月21日にこの承認を取り消し、買収の審査手続きを再開すると発表した。

ドイツ政府は、今回の米国の決定とは無関係としている。

FGCでは、買収を撤回しないとし、認可取り消しの法的な影響を精査しているという。


付記

福建芯片投資基金は12月8日、独 Aixtron の買収取り止めを発表した。声明の中で「米大統領が禁止の決定を下さないことが買収の必要条件だった」との説明を行っている。

米子会社を除いた買収も検討したが、戦略拠点の米子会社が除外され、独政府の認可の行方も不透明なことから買収を断念した。


コメントする

月別 アーカイブ