ドイツの憲法裁判所、原発廃止で原発事業者の補償請求権を認める

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2011年の福島第1原発での事故を受け、ドイツ政府が自国の原発の停止を命じたことについて、ドイツの連邦憲法裁判所は12月6日、原発を操業していたエネルギー企業各社が補償を求める権利を認める判断を下した。

原発事業者のRWE、E.ON とスウェーデンに本社を置く Vattenfall の3社が所有権、職業及び事業の自由を侵害されたとして、憲法裁判所に訴えていたもので、3月15日から2日間公判が行われた。3社とも脱原発に異議はないとした上で、適切な損害賠償(190億ユーロ)を求めた。

2002年に当時のSchröder政権(ドイツ社会民主党と緑の党の連立政権)が原子力法を改正し、原発の運転年数を32年と定めて順次停止し、2022年までに原発を廃止すること、原発の新規建設は認めないことを決定した。

しかし、2009年にMerkel 政権(キリスト教民主・社会同盟と自由民主党の連立政権)が成立し、方向転換した。

1980年以前に稼働を開始した原発7基の稼働期間を8年、1981年以降に稼働を開始した原発10基の稼働期間を14年延長する「エネルギー計画2050」を決定し、2010年12月に原子力法を改正した。

ところが、2011年3月11日の福島第一原発事故で、この決定が覆ることになった。メルケル政権は、すべての原発を2022年までに廃止するという以前の決定を受け入れることになった。

争点となっているのは、2011年の原発8基の即時停止及び、2022年までの稼働期間制限が国家による収用に相当するか否かで、事業者側は、2002年に締結された脱原発契約における脱原発までに生産可能な「残留電力量」が、憲法の保証するところの所有権にあたるという主張した。

これに対し、政府側は、「残留電力量」は当時の政府の予想電力量であり、事業者に生産の権利を保証したものではないという見解で、それが減ったからと言って損害賠償を求める根拠にはならないとした。

8人の憲法裁判所判事たちは、「所有権」の根拠に疑念を抱いていることを匂わせた。
判事の一人は「収用」の条件として、国家が物資を統治権に基づいて調達し、自らそれを使用した場合又は使用する意図を持っていた場合を挙げ、原発による発電量の制限はこれに当たらない、という見解を明らかにした。

今回の判決で、憲法裁判所の主席判事は「福島の事故をきっかけとして国民の健康と環境を守るために議会が原子力発電からの脱出を加速させたことは容認できる」と述べた。
さらに段階的廃止の決定自体も合法だとしながら、企業側が政府から「適切」な補償を受け取る権利があると認めた。

2011年の法律が補償に関する規定が欠けているとしたが、電力会社の資産の収容であるという主張は否定し、補償額に限度があることを匂わせた。

憲法裁判所は補償額の決定は行わない。政府に対し、2018年央までに補償額を決めるよう指示した。Goldman Sachs は補償額を、EONの場合は7億ユーロ、RWE の場合は4億ユーロ程度と予想している。

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電力各社は、これとは別に、政府を相手に個別に損害賠償を求める訴訟を行っている。

停止命令を受けたRWEは直ちに訴訟を起こし、2014年1月にドイツ最高行政裁判所から停止命令が違法であるとの判決を得た。
(2014年8月にRWEは連邦政府とヘッセン州政府を相手取って、235百万ユーロの損害賠償の支払いを求める民事訴訟を起こしている。)

ドイツ北部ハノーバーの地方裁判所は7月4日、エネルギー大手E.ON が政府などに計約380百万ユーロ(約434億円)の損害賠償を求めた訴訟で、請求を棄却した。

E.ON が命令を受けた時点で法的措置を取らなかったためとしている。E.ONは一時停止であると考え、損害賠償訴訟にかかる時間は一時停止期間を上回るとの判断から、提訴を行わなかった。しかし2011年6月に議会はこれらの原子炉の閉鎖を決めた。
裁判長は、「E.ONが直ちに訴えを起こしていれば、運転停止による損失を回避できた可能性がある」としている。

電力会社EnBW も、Neckarwestheim 1 原発とPhillipsburg 1 原発の停止命令に関し、RWE訴訟での判決を受け、261百万ユーロの賠償を求め訴えたが、Bonn 地裁は2016年4月、これを却下した。停止命令を受けた時点で、直ちに全ての法的措置を取らなかったとしている。

なお、もう1社の電力会社で、スウェーデンに本社を置く Vattenfall は、ワシントンの投資紛争解決国際センター (ICSID)に47億ユーロの賠償を求め、訴えている。

2016/7/12 ドイツの原発停止訴訟、電力大手の敗訴続く

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