多額の不良債権を抱えるイタリア第3位の銀行 モンテ・パスキ(Banca Monte dei Paschi di Siena:Monte Paschi)は12月22日、増資と劣後債の株式交換などを通じて50億ユーロを調達する計画は失敗に終わったと発表した。
アンカー投資家としてカタール投資庁(QIA)との間で10億ユーロの増資引き受けを交渉したが、まとまらなかった。アンカー投資家不在となったことで、他の機関投資家が増資を引き受ける見込みがなくなった。
このため、同行は債務の株式交換計画の撤回も意味すると表明。20億ユーロを確保したが、提供された債券は返却する。
増資などに関与したJPMorganとMediobanca などのアドバイザーに対し手数料は支払わないとし ている
増資とともに不良債権の売却も計画していたが、増資が失敗に終わったことで不良債権売却も進めることができなくなった。
Monte Paschiの自主再建の失敗を受け、イタリア政府は12月23日未明の閣議で、民間銀行支援のための200億ユーロの基金設立を了承した。
Monte Paschiは直ちに資本注入を要請した。イタリアでは過去最大規模の銀行国有化となる。
付記
Monte Paschi は12月26日、欧州中央銀行(ECB)が同行について88億ドルの資本不足を指摘したことを明らかにした。
50億ドルの調達で自力再建を目指したが、財務基盤が一段と悪化した。
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イタリア大手銀行のMonte Paschi は7月4日、欧州中央銀行(ECB)から不良債権比率を下げるように求める書簡を受け取ったと発表した。不良債権の総額を昨年の469億ユーロから2018年までに約30%削減するように求められた。
イタリア政府は公的資金注入による救済の検討を始めたが、EUが定めた銀行再建ルールが障碍となった。
金融危機を受け、EUでユーロを使う国々は各国でばらばらだった金融行政を一元化する「銀行同盟」を進めた。
銀行の破綻処理のルールも1月から施行し、まず銀行の債券などを持つ投資家に一定の割合の損失を負わせることにし (Bail-in 制度)、公的資金の利用を制限する仕組みにした。
しかし、イタリアでは銀行の債権者に個人投資家も多いため(個人が銀行債を預金に近い感覚で購入している)、このルールを適用すれば大問題となる。
Monte Paschi の劣後債は45億ユーロある。内訳は次の通りで、保護されない側の大半が個人である。
保護の順序 保有者 金額 Tier 1 best-protected 機関投資家等 21億ユーロ Tier 2 中間 大部分が個人 20億ユーロ Tier 3 least-protected 機関投資家等 4億ユーロ
このため、イタリア政府は欧州委員会に特例を求め たが、欧州委やドイツは、導入したばかりのルールを破ることに難色を示した。
さらに、欧州銀行監督機構(EBA)は7月29日、大手51銀行(EU:50、ノルウェー:1)を対象に実施したストレステスト(健全性審査)の結果を公表した が、Monte Paschi は、景気が大幅に悪化した場合、中核的自己資本比率 (Tier 1)が唯一マイナス(-2.44%) で最悪となり、同行の経営基盤の脆弱さが突出した。
Monte Paschiは7月29日、資本増強や不良債権売却を柱とする再建計画を発表した。
JPMorgan とイタリアのMediobanca が主導でまとめた案で、まず92億ユーロの不良債権を証券化する。その後、再建策のとりまとめを手掛けたJPMorgan、Mediobanca などの銀行団を引受先に最大50億ユーロの増資を年末までに実施するというもの。
不良債権の証券化については、政府の呼びかけで同国の銀行や保険会社が参加した民間投資ファンドが一部を引き受け、残りは既存株主などに売る。
Monte Paschi は不良債権を簿価の33%で売却することを決めた。
欧州中央銀行(ECB)は増資を年末までに完了することを求めた。
イタリアの憲法改正の是非を問う国民投票は12月4日開票され、改正案は賛成 40.89%、反対 59.11% で否決された。
これを受けて、改憲を推進していたレンツィ首相は引責辞任した。
憲法改正案が否決され、首相が辞意を表明したことから政治的不透明感が高まり、Monte Paschi の資金調達が難しくなった。
2016/12/8 イタリア国民投票、憲法改正を否決
Monte Paschi はECBに対して増資計画の完了期限を3週間延長し、2017年1月20日とするよう要請したが、ECBはこれを拒否した。
ECBは、期限延長により同行の流動性、および資本比率が一段と悪化する可能性があり、存続に対するリスクとなる恐れがあると説明。
増資計画を1月に延期することで市況が改善するとの保証もないとの考えを示した。
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イタリア政府は、Monte Paschi の国有化について、詳細は今後詰めるとするが、概要は明らかにした。
4万人の小口投資家が保有するTier 2の劣後債については、購入時にリスクを認識してなかったとして保全する方針で、額面で株式に転換する。逆に機関投資家などが保有する Tier 1 債は額面の75%で株式に転換する。
個人の損失回避のため、強制転換された株式を普通社債とスワップし、この株式を政府に売却する仕組みも導入する。
政府による資本注入のほか、流動性への対応として借り入れへの保証も行う可能性を示した。
こうした投資家保護は、厳格に救済ルールを適用すると金融システムに深刻な悪影響を及ぼす場合や、救済額が少額の場合、当該銀行が他の方法ですでに資金を得ている場合にのみ認められる。
政府は保護の対象を小口の投資家に限定することで欧州委員会の理解を得る狙いとみられるが、今後の例となるため、EUがどうするか注目される。
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