SamsungとAppleの特許権裁判で米連邦最高裁、下級審に差し戻し、賠償金大幅引下げへ

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米連邦最高裁は12月6日、特許権をめぐるAppleとSamsungの裁判について、Samsung に多額の罰金支払を命じた控訴審判決の一部を無効として連邦巡回区控訴裁判所に差し戻した。


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特許訴訟を専門に扱う米連邦巡回区控訴裁判所は2015年5月18日に、SamsungがAppleの複数の特許を侵害したと認定、賠償額は 548百万ドルとなった。

これを受け、2015年12月3日に、Samusung が Appleに548百万ドルの損害賠償金を払うことで両社が合意し、12月14日に支払が行われた。

しかし、Samsung は2015年12月14日、米最高裁判所に上告し、上記の548百万ドルのうちのデザイン特許に対応する399百万ドルについて、意匠に関する権利がどの範囲まで適用されるのか、またどのような賠償を請求できるのかについて指針を示すことを求めた。

2016年10月11日、連邦最高裁でヒアリングが行われた。連邦最高裁が上訴を認める確率は1%にも満たない。
最高裁が意匠に関する訴訟を取り扱ったのは、1800年代にスプーンの取っ手、カーペット、鞍、ラグなどに関するものが最後で、
約120年ぶりとなる。

ヒアリングは Samsung に有利な方向で進んだ。

2016/3/26 米最高裁、Samsung とApple のデザイン訴訟を審理

2016/10/21 Samsung と Apple のデザイン特許訴訟で米最高裁のヒアリング

連邦最高裁は、Samsung による上告のうち、「デザイン特許が製品の1つのコンポーネントにのみ適用される場合、そのコンポーネントに起因する部分に限定して侵害による利益を算定すべきではないか」という点についてのみ上告を受理し、審査した。

デザイン特許に関しては、1887年に制定された特許法289条の規定を根拠に、製品の全体の価値(Entire Market Value:EMV)ルールに基づく算定が現在も行われている。

第289条 意匠特許の侵害に対する追加的救済

(2)特許意匠若しくは実質的に周じ意匠が利用されている製造物品("article of manufacture")を販売した者、若しくは販売のために展示した者は、$250を下回らない総利益を特許権者に支払う責任を負い、当該回収は当事者に対する管轄権を有する合衆国地方裁判所において行われる。

Samsung はこの all-profits rule をスマートフォンのような複雑で多くの部品からなる製品に適用するのはフェアでないと主張した。

控訴審では、スマートホンのfront face やスクリーンは個別に売られていないため、スマートホン全体が "article of manufacture"であるとし、製品の総利益で罰金を計算した。

今回、最高裁はこの考え方を否定し、多くの部品からできた製品の場合、"article of manufacture"は最終製品である必要はなく、その製品の部品であってもよいとした。

第289条に規定する "article of manufacture" は 手作業または機械により製造された物品を示すに過ぎず、最終製品のほかにその部品も含んでいる。

特許法§171(a)では、"design for an article of manufacture" をデザイン特許の対象としているが、特許庁も裁判所判決も、多くの部品でできた製品の特定部品のデザイン特許を認めている。今回の解釈はこれと矛盾しない。

"article of manufacture" 損害賠償のベース
従来の判決 最終製品
(部品は売られていない)
最終製品の総利益
今回の最高裁 販売対象とは限らない。
部品もあり得る。
部品の利益相等分

判決文 https://www.supremecourt.gov/opinions/16pdf/15-777_7lho.pdf

その結果、控訴審による狭い意味での解釈は289条に一致しないとして判決を差し戻し、最高裁の意見に従った判断を示すよう命じた。裁判官 8人全員一致である。


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Samsung は上告に当たり、「この判例が効力を持った場合に影響を受けかねない大小すべての米国企業のために、米最高裁判所に上訴することが重要であると考えている」と述べているが、多くの企業、団体がSamsung を支持する法廷助言書(amicus curiae)を提出した

Google、Facebook、eBay、Hewlett-Packard、Dell、Vizioなどの各社に加え、スタンフォード大学やジョージタウン大学などの法律専門家、Public Knowledgeや電子フロンティア財団といったNPO、Computer & Communications Industry AssociationやHispanic Leadership Fund などの権利擁護団体がそれぞれ提出した。

いずれもSamsung の要求を支持するもので、 「最近の判決は一部装飾的な特許を違反したとの理由で (スマートフォンのような)複雑な革新製品の全体を侵害したと見なしており、憲法的価値と合わない」と述べ、最高裁に対して、デザイン特許に関する定義を明確にすることや、この特許の侵害に関する賠償金の額を制限することなどを求めている 。

これはSamsungに好意をもってのことでなく、情報技術業界の利益がかかる問題であるためだと見られた。

Samsung は、「今回の記念碑的判決で、市場の公正な競争や技術発展が促進されることを期待する」と述べた。


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