英国のTheresa May首相は1月17日、EUからの離脱を巡り、移民制限や司法権独立など英国の権限回復を優先し、EU単一市場から完全に離脱すると表明した。
単一市場に残りながら移民を制限する "soft Brexit " は、「いいとこ取り」を認めると他に離脱国が出ることを恐れるEUが認めないことが確実なため、"hard Brexit" に踏み切った。
付記
英国の最高裁は1月24日、EUからの離脱開始のプロセスについて議会での投票が必要との判断を明らかにした。
EUとの離脱協議を正式に開始するには、EUの基本条約である「リスボン条約」50条を発動させ、離脱を通知する必要がある。裁判は、この離脱通知を、議会の承認なしに、政府が行使する「国王大権」で行えるかどうかが争われた。
判決は、一審のロンドンの高等法院が2016年11月に示した判決を踏襲。英国をEUから離脱させる手続きは、EU法の効力を国内に及ぼすことを定めた国内法の効力を失わせると指摘し、議会の主権を認めた上で、「国王大権」には、議会が制定した国内法で認められた国民の権利を変更する権限はないと判断した。
May首相は3月末までに50条を発動する意向を表明しているが、議会の承認が必要となり、スケジュールに遅れが生じる可能性も出てきた。
首相はBrexit計画の12のポイントを挙げた。
1) Provide certainty about the process of leaving the EU
EU離脱のプロセスのすべてを明らかにすることは出来ないが、概要は伝え、パニックや市場の混乱が生じるのは防ぐ。
EUとの最終合意については議会で議決する。
2) Control of our own laws
英国の法律は、EUのLuxembourgで作られるのではなく、 英国のWestminster、Edinburgh(Scotlandの首都)、Cardiff(Walesの首都)、Belfast(Northern Irelandの首都) でつくる。
欧州司法裁判所(European Court of Justice)とも サヨナラだ。
3) Strengthen the Union between the four nations of the United Kingdom
強い英国には、英国のBritain、Scotland、Wales、Northern Irelandの4か国の統合強化が必要。
Brexitについて、Scotland、Wales、Northern Irelandの主張は聞くが、最後は英国政府が決める。
特にScotlandに、英国を離脱し、新しい国境をつくるなどしないで欲しい。
4) Maintain the Common Travel Area with Ireland
英国とアイルランド共和国では1923年の協定で圏内の移動の自由が認められている。(「Common Travel Area:CTA」)
Brexit 後も、EUメンバーであるアイルランドとの間で移動の自由を続ける。EU加盟以前に戻るだけだ。
5) Control of immigration coming from the EU
欧州からの英国への移民の数をコントロールする。
医者や科学者や技術者は受け入れるが、コーヒー店で働くような移民は制限する。
EU市民の貢献は認めるが、記録的な移民が賃金を引き下げ、学校や病院や住宅が満員になり、これ以上受け入れ出来ない。
6) Rights for EU nationals in Britain, and British nationals in the EU
英国でのEU市民の権利は保証するが、それはEUで英国市民の権利が保証される場合である。
7) Protect workers' rights
英国政府は欧州の法律で決められた労働者の権利を守るとともに、英国でも権利保護の法をつくる。
労働党党首Jeremy Corbynは、EUに残留することは「有給休暇や差別禁止の規制、産休、父親の育児休暇、そしてとりわけ環境保護」を守ることになると言うが、Brexitでこれらが変わることはなく、逆にもっと良くなる。
8) Free trade with European markets through a free trade agreement
EUとの間で大胆で野心的なFTAを締結する。ある種の関税協定を結び、関税支払いを不要とする。
これが無理なら、低税率で規制の少ない経済に移行し、ビジネスにとってEUよりも魅力的な国にする。
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ロジャーズ前駐EU大使はEUとの「将来協定」締結には各国議会の承認が必要で、「10年かかる」と英政府に報告したと伝えられる。
9) New trade agreements with other countries
EU以外の他国と貿易協定を結び、偉大な、グローバルな、貿易国家としての役割を再発見する。
そのキイはDonald Trumpだ。
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オバマ米大統領は2016年4月に、英国がEU離脱を選択した場合、米国との通商協定締結交渉は「最後列」に並ぶことになると述べた。
これに対し、トランプ次期大統領は、大統領就任後数週間内に英国に対して貿易協定のチャンスを提供すると述べた。(2017/1/16 The Times )しかし、EUの制度では正式な離脱まで加盟国として扱われ、第三国との交渉に入れない。
交渉にも入れないのであれば、離脱後、長期間にわたり、第三国との間に協定なしとなるが、どうするのだろうか。
10) The best place for science and innovation
科学、研究、技術分野でのEUとの協力継続の協定を歓迎する。
11) Cooperation in the fight against crime and terrorism
EU離脱後も、犯罪対策、テロ対策でEUと緊密に連携する。
12) A smooth, orderly Brexit
移行期間が必要だが、それは短くしたい。
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