オーストラリアのイクシス(Ichthys)LNG事業で低温タンクを建設中の英国の建設大手Laing O'Rourkeは3月15日、共同事業相手の川崎重工業の「代金未払い」を理由に工事を中止したと発表した。
840人の作業員(下請200人を含む)を現場から引き揚げた。
発表された理由は下記の通り。
川崎重工は同社に対し数カ月間、支払いを行っていない。同社は問題解決に努力したが、この数週間の日本での交渉は満足した結果を生まなかった。
3月9日の東京での交渉の後、早急に問題の解決を見なければ、川崎重工の行動の結果から身を守るため、行動せざるを得ないと通告した。
川崎重工は対策をとることを拒否した。
報道では、Laing O'Rourkeは「過去4カ月分の代金が支払われていない」としている。
これに対し川崎重工は3月17日、契約に基づく代金は全て支払ったとし、法的措置も検討すると発表した。Laing O'Rourkeの言い分には同意できないとし、新たに工事業者を選定し工事完了をめざす。
現地紙によると、川崎重工による設計変更で、大幅なコストアップとなったのが原因という。コストアップ分の負担で争いになったとみられる。
設備の完成は2016年6月の予定であったが、現時点で91%の進捗とされる。新たに工事業者を選定するとなれば、完成はかなり遅れると思われる。
Laing O'Rourkeは昨年、グループ全体として赤字を計上、豪州事業を売りに出し、4社と交渉したが、折り合いがつかなかった。
付記
国際石油開発帝石の発表(2017/4/28)
沖合生産・処理施設が、試運転作業や各種確認作業を経て、今般、建造地の韓国ゴジェを出航した。約1カ月半かけて曳航し、その後、設置作業を行う。
沖合生産・貯油出荷施設も、今後、現地に曳航し設置作業を行う。
陸上ガス液化プラントの建設作業などを鋭意進める。
今期中(2018/3まで)にコンデンセート・LNG・LPGの生産を順次開始し、その後、生産物を出荷していく予定。
国際石油開発帝石は2018年5月31日、生産開始に必要な試運転作業が完了したと発表した。
今後は最終的な安全確認作業等を実施した後、生産井からのガス生産を開始する予定で、その後、本年度の上期末までに生産物の出荷を行う。
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Ichthysプロジェクトは、国際石油開発帝石(INPEX)がTOTALとともに推進する西豪州沖合WA-37-R鉱区ほかに位置するIchthys ガス・コンデンセート田の開発プロジェクトで、日本企業が主導する初の大型LNG(液化天然ガス)開発プロジェクト。
2012/12/22 豪州イクシスLNGプロジェクトのファイナンス契約締結
Ichthys ガス・コンデンセート田の埋蔵量は、年間800万トン超のLNGを約20年の長期にわたり生産できる規模。
産出される天然ガスを、Darwinに建設する陸上プラントで液化し、年間890万トンのLNGと年間約160万トンのLPGとして生産・出荷する。
また、洋上貯油・出荷施設(FPSO:Floating Production, Storage and Offloading)等から日量約10万バレル(ピーク時)のコンデンセートを生産・出荷する。
LNG 890万トン LPG 160万トン コンデンセート 10万バレル/日
権益比率(%)と製品引取(万トン)
主要EPC請負業者
権益比率 製品引取 INPEX (オペレーター) 62.245 90 Total 30.000 90 CPC (2013/6 参加) 2.625 175 東京ガス 1.575 105 大阪ガス 1.200 80 関西電力 1.200 80 JERA 東京電力 0.735 105 中部電力 49 東邦ガス 0.420 28 九州電力 ー 30 合計 100.000 832 2017年から15年間の長期LNG売買契約を締結
上流事業 沖合生産・処理施設(CPF) Samsung Heavy Industries(韓) 海底生産システム(SPS) GE Oil & Gas(米) 沖合生産・貯油出荷施設(FPSO) Daewoo Shipbuilding & Marine Engineering (韓) フローライン、フレキシブルライザーなどの接続作業等 McDermott(米) 下流事業 陸上LNGプラント 日揮、千代田化工、KBR社(米)のJV 低温タンク4基 川崎重工、Laing O'Rourke ガス輸送パイプライン(GEP) Saipem(伊)・三井物産・住友商事・メタルワン 2017年2月時点の状況
沖合生産・処理施設及び沖合生産・貯油出荷施設の建造作業が完了し、2017年2月17日に命名式を建造地の韓国にて執り行った。
ガス・コンデンセート田から天然ガス及びコンデンセートを生産するための海底生産施設類の設置作業が一部の設備を除き、2017年1月に完了した。
しかし、下流事業が遅れており、生産開始は当初の2016年12月末から遅れており、2018年初めとする予想がある。
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川崎重工は2012年5月、同社をリーダーとするLaing O'Rourkeとのコンソーシアムが、陸上LNGプラント建設を担当する日揮、千代田化工、KBRのJVから陸上LNGプラント向け低温タンク4基(LNGタンク2基、LPGタンク2基) を受注した。設備の完成は2016年6月の予定であった。
LNGタンク 165,000m3 x 2基 プロパンタンク 85,000m3 x 1基 ブタンタンク 60,000m3 x 1基
川崎重工は設計と機器の供給を担当、Laing O'Rourkeは建設を担当する。両社の共同事業はこれが最初。
現地報道によると、川崎重工による設計変更で、Laing O'Rourke側のコストが増え、建設期間が延びた。日本側が供給する材料の品質でも問題があった。Laing O'Rourkeのコストアップは125百万ドルになるとされ、資金が枯渇したという。
追加コストの負担で争いとなった模様で、Laing O'Rourkeは川崎側が負担すべきと考える金額を受け取るまでは作業に戻らないとしている。
Laing O'Rourkeは640人を現場から引き揚げた。他に下請けの200人も同時に引き揚げた。
640人のうち、395人は海外からの労働者で、最も早い便で帰国させる。
元受けの日揮、千代田化工、KBRのJVでは、両社が問題を解決し、作業を継続することを望んでいる。
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