東京電力柏崎刈羽原発 6、7号機の再稼働に向けた審査会合が終盤を迎える中で、東電が再び信用を落とす事態に陥っている。
2月14日の規制委員会の審査会合で、免震重要棟について、2014年に耐震不足を示すデータが社内にあったにも関わらず公表してこなかったことが発覚した。
東電は2月23日の会合で背景を説明、このデータは信頼性が低いため公表されなかったが、社内にそれが伝えられず、別の担当者が発表したと述べた。
しかし、危険であることを示すデータが正しくないかも分からないというだけで、危険でないとのデータが出た訳ではない。
また、社内の連絡体制が不備であることが改めて明らかになった。
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柏崎刈羽の6、7号機の審査は2016年に終盤を迎えていた。福島第1原発と同じ沸騰水型で、審査が順調に進めば沸騰水型としては初めて審査に合格するとみられていた。
原発 運転開始 型式 万KW 再稼動申請 1号機 1985/9/18 BWR(Mark-Ⅱ) 110.0 未 2号機 1990/9/28 BWR(Mark-Ⅱ改)
〈沸騰水型〉110.0 3号機 1993/8/11 110.0 4号機 1994/8/11 110.0 5号機 1990/4/10 110.0 6号機 1996/11/7 ABWR
〈改良型沸騰水型〉135.6 2013/9/27
7号機 1997/7/2 135.6
東電では6-7号機の申請に当たり、免震重要棟を緊急時対策所としていたが、審査の過程で、これだけでは許可を取得できないと判断し、剛構造の建物である3号機建屋内に緊急時対策所を設置することとした。
東電が2013年に実施した調査で、7パターンある地震想定で5つのパターンで免震棟の耐震性の不足が確認された。
このため、重大事故の対応拠点には耐震性の高い5号機原子炉建屋内と免震棟を併用して使う案を規制委に提案した。緊急時対策所は、一次冷却系統に係わる施設の損壊その他の異常が発生した場合や重大事故等が発生した場合に、中央制御室以外の場所から指示・連絡を行うために設置する。
重大事故等に対処する要員がとどまることができるよう、遮断・換気について考慮した設計にするとともに、代替交流電源設備からの給電が可能なものとする。
免震重要棟内の緊急時対策所が使用できない場合でも、重大事故等に対処できる設計とする。
規制委は、2007年の新潟県中越沖地震で敷地が液状化したため、液状化の影響を詳しく調べるよう東電に指示していたが、大規模地震が起きると、3号機のある荒浜側の防潮堤の地盤が液状化し、壊れる可能性があると判断した。
液状化対策に1年以上かかり、審査が長期化するおそれがあることなどから、2016年10月、「緊急時対策所」について、6、7号機に隣接する5号機に設置することを明らかにした。
(重要免震棟なども水没の恐れはある。)
2016/10/18 柏崎刈羽原発の再稼働計画見直し
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今回、免震重要棟で問題が発生した。
東電は免震重要棟について、建築基準法の1.5倍の地震動にも耐えられるとしていた。2013年に新規制基準が導入されて地震の想定が厳しくなっても、「長周期の一部の揺れを除き、震度7でも耐えられる」と説明してきた。
しかし、2月14日の規制委員会で、東電は「緊急時対策所」について下記の通り説明した。
「免震重要棟内緊急時対策所」については、建物上屋変位量75cm未満の地震力に対し機能の喪失しない設計とする。
参考資料には下記の記載がある。
免震重要棟は、各種地振動の1.5倍のほかに、1号炉原子炉建屋基礎マット上で観測された地震動を1.5倍したものに対しても被害を最小限にするよう設計し、2009年に竣工した。
地震波変位29.0、57.7、41.4cmに対し、75.0cmとした。東電が2013年に実施した調査で、7パターンある地震想定で5つのパターンで免震棟の耐震性の不足が確認された。
(このため、重大事故の対応拠点には耐震性の高い5号機原子炉建屋内と免震棟を併用して使う案を規制委に提案した。)(2014年に)更なる安全性の向上を図る観点から、1号炉の西山層以深のデータを用いて解析を行った。
その結果、最大水平変位は、建屋基礎下への直接入力の結果よりも大きくなり、すべての基準地振動(7パターン)において評価基準の75cmを上回った。
これを見ると、免震重要棟は75cmの横揺れに耐えられる設計だが、すべての基準値振動は75cm以上の揺れであるため、地震には全く耐えられないこととなる。
基準地震動の半分の揺れでも横揺れが許容限度を超え、建屋が隣の壁にぶつかる可能性もある。
しかも、これが2014年に分かったのに隠していたこととなる。
これを知り、更田委員長代理は、「これまでの説明とは著しく異なる。これを知っていて、これまでの説明をしてきたのか」と詰め寄り、「信頼性や組織文化について確認をする必要がある」と述べた。
東電はこれについて、社内で情報が共有されていなかったなどと説明した。
東電の社内的な情報の連絡が大事なところで抜けているというのは、かなり重症だという認識です。以前から、そういう体質がまだ残っているという指摘をうちの職員も言っていましたけれども、そこのところがどういう状況なのか、きちっと見ていく必要があるのだろうと思います。
皆さんも含めて、免震棟神話みたいなのがあったのだけれども、実際には今の地震動には耐えられないということだと、まさかそんなことはないと思っていたのだと思いますよ、皆さんは。
それが今になって、実際に新しい地震動が設定されて、再評価したのが3年ぐらい前ですか。それで耐えられないということがわかったら、その時点できちっと報告すべきですね。
そのことをずっと、こと、ここに至るまで何も言わなかったというのが問題ですね。
九電とかはもう、免震ではできませんと言って耐震に切りかえたわけですから、そういうことをもっと謙虚にやってもらわないと、我々としても審査できないですね。そこのところは、そういう意味では非常に重症だと思っています。
規制委員会は2月16日、免震重要棟などを現地調査した。更田委員長代理は「免震棟は重大事故時の使用は難しい」との見解を示した。
東電は2月23日の会合で背景を説明した。
2014年の分析は、免震重要棟には西山層以深の地盤データが無いため、近接の1号炉建屋のデータを流用した。
地表面の振幅が4.5mを超えており、解析コードの適用限界を超えている。このため、計算自体が正しい結果を示していないことから、報告するには適切でないと判断した。
今回の資料作成者は2016年夏に引き継いだが、2014年のデータの妥当性について十分な吟味をしなかった。組織内に2014年のデータに技術的な問題があるとの認識が共有されないまま、解析結果の存在だけを認識したため、結果がある以上は提示するべきだと考えた。
しかし、危険であることを示すデータが正しくないかも分からないというだけで、危険でないとのデータが出た訳ではない。
原子力規制委員会は2月28日、免震重要棟の耐震性不足を巡り、東電の広瀬直己社長を呼び、臨時会合を開いた。田中俊一委員長は、再稼働の前提となる審査が終盤を迎えていた柏崎刈羽6、7号機に関し、 これまでの審査全体で説明の誤りや不足がないか点検し、申請書を改めて提出するよう求めた。
委員長は3月1日の記者会見で、次のように述べた。
もし今回問題になったようなたぐいの手戻りがあれば、そこは相当の覚悟を持って私たちも判断しなければいけないと思いますし、東京電力もそれくらいの覚悟を持って、社長の責任で出していただく必要があると思っています。
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東電内部の情報共有については以前から問題視されていた。
規制庁の幹部は、原発を安全に運転するには原子炉の設計を行う部署と、地震や津波対策を担う部署は、緊密に連携することが不可欠だが、「別会社のような組織だ」と証言する。
「昔からプラントと土木の仲が悪いといわれている。今回だけの問題ではない。一体どうなっているのか」と述べた。
東電は2008年に15.7mの津波を社内で試算しながらも対策を講じず、事故を防げなかった一因とされているが、政府の事故調査・検証委員会は、当時の小森原子力・立地副本部長にはワーキンググループの存在自体が報告されていないと指摘、その上で「東京電力社内で重要な問題として認識されていた形跡はうかがわれない」と問題視している。
新潟県の米山隆一知事は「事実と異なる説明をしていたのでは安全確保はできない」とした上で、原因や経緯を報告するよう求める要請文を東電に提出した。
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