東芝は4月11日、監査法人による「結論の不表明」のまま、第3四半期決算を発表した。
主にCB&I ストーン・アンド・ウェブスター社の買収に伴うのれんに係る損失 7,166 億円を計上したことにより、2016年度第3四半期連結累計期間の営業損失は 5,763 億円、株主に帰属する四半期純損失は5,325 億円になった。この結果、2016 年12 月31 日現在の連結株主資本は△2,257 億円、連結純資産は 299 億円になった。
PwCあらた有限責任監査法人は、東芝の決算報告の内容が適正かどうかについて、「結論の表明の基礎となる証拠を入手することができなかった」という異例の意見表明をした。
根拠は以下の3点。
1)Westinghouseが巨額の損失の具体的な数値を算定する過程で、一部経営者による「不適切なプレッシャー」があったとの問題で東芝の監査委員会が調査を実施したが、監査法人としてはその結論が正しいかどうか納得せず、「評価を継続中」。
2)監査委員会は、巨額の損失の計上時期を2016年第3四半期と結論づけたが、監査法人は、当該損失を認識すべき時期がいつであったかをチェック中。
もっと以前から損失を認識していたが、それを適正に決算処理していなかったのではないかとの疑問が解消されていない。
監査法人は2016年4~6月期と7~9月期決算について、「適正」意見を取り消したと報道されている。
3)そのほかにも当監査法人の評価が終了していない調査事項があり、これらの影響についても、確定できていない。
そのうえで、東芝について「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象または状況が存在しており、現時点では継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる」と指摘している。
これに対し、東芝は同日、本件に関し調査に当たった監査委員会の見解を発表し、監査法人の懸念をすべて否定した。
1)本件損失に係る調査において、損失認識時期が問題となる証拠は発見されていない。
調査の過程で、一部経営者について、限定された範囲・期間で不適切なプレッシャーとみなされ得る言動が認められたが、 東芝及びWestinghouseの内部統制は有効に機能しており、財務諸表に影響を与えなかったと判断している。
この一部経営者については、Westinghouseの経営に関与させない等、抜本的な措置を講じることを執行側に要請し、改善措置の実施を確認している。
2)監査委員会としては、2016年12月以前に財務諸表に織り込むことができる程度の確度をもって損失を認識し得たとの証拠は認めらず、本件損失を認識し得たのは早くとも2016年12月以降。
東芝およびWestinghouseの役員・従業員、合計15名に対してインタビューを実施するとともに、これらの役員・従業員らの電子メールのデジタルフォレンジック調査を実施した結果、2016年12月以前に財務諸表に織り込むことができるような確度をもって本件損失を認識しえたとの証拠は認められませんでした。
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しかし、巨額の損失が2016年12月まで全く分からなかったということの方が不思議である。事態は当初から変わっておらず、巨額損失の原因が急に出現したわけではない。
Westinghouseは2015年にS&WをCB&I から、建設の遅れについては責任を一切免責する(to get a "complete end to responsibility or liability")という条件で無償で買収した。
(既報の229百万ドルは、建設完成後の報酬と機器引き渡しなど事後にCB&Iが実施するものの対価である)
また、原発の発注元の電力会社との間では、S&W買収と同時に、コスト増のうちの電力会社負担分で合意しており、それ以上の求償できない。
このため、工事完成までのコストアップ分は全てWestinghouseが負担せざるを得ないこととなる。
WestinghouseはS&Wと一緒に事業を行っており、実態は熟知している筈である。
完成まで、どれだけ遅れるかは当然知っている。
電力会社との裁判を通じて、これまでのコストアップや今後の追加コストについても知っている筈である。
電力会社への追加請求ができないことも、自身が和解の当事者であるため知っている。
この時点で東芝は87百万ドルの「のれん」を想定していたが、これは余りにも少なすぎる。取引の承認を得るための一部経営者による「不適切なプレッシャー」があった可能性も考えられる。
監査委員会は、どういう計算で買収を決めたのかを調べる必要があるのではないか。
また、東芝の2016年8月12日の発表によると、S&Wの買収契約には下記の「価格調整条項」がある。
購入契約上、CB&Iは S&B の運転資本額として1,174百万ドル相当額を計上した状況で株式を譲渡する義務を負う。
買収完了後に運転資本額を精査し、運転資本額がこれを下回った場合は、差額をCB&Iが支払い、
逆に、上回った場合は、差額をCB&Iに支払うこととなっている。見解に相違があった場合は、第三者の会計士が判断する。
この発表によると、Westinghouse では、これに基づく算定結果を含む書面をCB&Iに提出していたが、CB&Iは7月21日に、第三者会計士へ判断を委ねることの差し止めを求めデラウエア州公衡平法裁判所に行った。
東芝は一切触れていないが、CB&Iによると、CB&Iは運転資本の算定の結果として16億ドル(基準を428百万ドル上回る)であると報告したが、Westinghouseは 976.5 百万ドルのマイナスであるとし、差額の21.51億ドルを請求したという。
おそらく、Westinghouseはこの時点では損失を認識し、これをマイナスの運転資本額として、差し引き20億ドルを請求したと思われる。
CB&IはS&Wの売買契約の免責条項を理由にこれを拒否し、裁判所に提訴した。
2017/1/24 東芝の原子力事業の損失の実態
デラウエア州公衡平法裁判所の裁判はどうなっているのだろうか。裁判が始まれば、東芝の主張が明らかになる。
監査委員会はこの件を調べたのだろうか。
2016年12月に巨額の赤字は初めて分かったとするが、どういう経緯で分かったのだろうか。
監査委員会の発表だけでは納得はできない。
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このままでは、本決算の監査で「適正」意見が得られる保証はない。監査法人の差し替えも「選択肢」とされるが、簡単ではなく、間に合わない。
東芝は過去の不正会計問題で東証から「特設注意市場銘柄」に指定されており、上場が適当かどうかの審査が行われている。上場廃止リスクが高まった。
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