Trump大統領は3月31日、中国や日本などとの貿易赤字削減を目指す大統領令(Executive Order) "Omnibus Report on Significant Trade Deficits" に署名した。
商務長官と米通商代表部(USTR)代表に貿易赤字の要因を分析させ、相手国の不公正な関税や輸出補助金などを徹底的に調査する内容。
米国は長年の間、貿易協定やWTO参加で期待される利益を享受しておらず、2016年では、モノの貿易で7千億ドル、全体の貿易で5千億ドルを超える年間赤字となっているとし、貿易相手国のアンフェアで差別的な慣行が米国民から自由貿易で得るはずの利益を奪っているとする。
商務長官とUSTR代表に各省庁と協力して90日以内に報告を出すよう指示した。
2016年に米国が大きな貿易赤字を出した国が対象で、国ごとに次の報告を求めている。
(a) 貿易赤字の主因の評価
関税・非関税障壁、ダンピング、政府補助金、知財盗用、技術移管強要、不当な労働条件、その他のすべての差別
(b) 法律・規則・慣行などで米国の通商に直接間接に不当な重荷を課したり、不公平な差別をしていないか。
(c) 通商関係が米国の製造や防衛産業のベースの製造能力や強さに与える影響
(d) 通商関係が米国の雇用や賃金の伸びに与える影響
(e) 輸入や貿易慣行が米国の安全保障を損なっていないか。
Wilbur Ross 商務長官は記者会見で、調査対象は中国だけではなく、米国が大きな貿易赤字を出しているすべての主要国であるとして、列挙した。中国、日本、ドイツ、メキシコに加え、アイルランド、ベトナム、イタリア、韓国、マレーシア、タイ、フランス、スイス、台湾、インドネシア、カナダで、最後にインドを加えた。
合わせて、アンチダンピング税などの不払を防ぐための大統領令 " Establishing Enhanced Collection and Enforcement of Antidumping and Countervailing Duties and Violations of Trade and Customs Laws" にも署名した。
2015年5月時点で23億ドルものアンチダンピング税、相殺関税が不払いとなっている。輸入業者が米国に資産を持たないなどが理由。
このため、保証金を積ませるなどの対策をとる。
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大統領は署名後、記者会見をおこない、次のように述べた。
選挙運動中に各地を訪れ、ひどい状況を見て、話を聞いた。雇用と富がこの国から奪われている。
この政権の下で、米国の富の奪取は終わる。
本日、2つの大統領令に署名した。
1つは、アンチダンピング税等の課税は完全に回収する。
2つ目は、米国に危害を加える米国の貿易赤字と貿易ルール違反についての総括的なレビューである。
私は米国民のために働く。TTPからの即時撤退や本日の歴史的ステップはそのためだ。
来週、中国の習近平主席とフロリダで会談する。真剣に議論する。しかし、米国企業や米国の雇用の点では、現在の状況はよくない。状況を変える必要がある。時間はかけない。
大統領は3月30日のtwitterで習近平主席との会談について、次のように述べている。
"The meeting next week with China will be a very difficult one in that we can no longer have massive trade deficits."
付記
中国商務省の報道官は4月1日夜、「米国は公に認められた国際ルールに従うべきだ」との談話を公表した。「中国は平等と相互利益を基礎に、意見の相違を適切に処理することを望む」と指摘した。
菅義偉官房長官は4月3日午前の記者会見で、「日本の経済に与える影響などについては引き続き注視していきたい」と語った。
日本市場に関して「外国製品に差別的な取り扱いをしておらず、障壁となる措置もない。十分に開放的だ」と強調した。
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米通商代表部(USTR)は3月31日、2017年版の貿易障壁報告書を公表した。
日本(P.243~)に関しては農産物市場に「重大な障壁」が存在すると批判し、牛肉や豚肉などで一層の市場開放を要求した。
日本側の食品添加物や農薬規制、自動車流通市場に非関税障壁があるとの見解も示した。
日本はBSE対策で米国産の輸入牛肉を月齢30カ月未満に制限しているが、米国側は制限の全面撤廃を要求に掲げている。
このほか皮革・革製品、コメ、海産物、保険・共済、郵便事業など各種分野で更なる市場開放が必要としている。
特に自動車市場については、車両の認証制度や販売店網に関する規制などを例に挙げて「さまざまな非関税障壁がある」と指摘。また医薬品についても、薬価の市場拡大再算定制度の透明性向上が必要としている。
日米も4月中旬に第1回の経済対話を開く方向だが、自動車や農業などの貿易問題が改めて焦点になる。
為替問題も議題に上がる可能性がある。
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