新日鉄住金、ウジミナスの経営を巡り訴訟

| コメント(0)


新日鉄住金は、持分法適用会社のブラジル鉄鋼大手 Usiminas の経営を巡り、3度目の訴訟に踏み切った。

新日鉄住金はともにUsiminas に出資するアルゼンチン鉄鋼大手Ternium との間で経営者選定を巡り対立し、混乱が続いている。

3月23日に開かれた経営審議会が、ホメル・ソウザ社長の退任、セルジオ・レイチ副社長の社長昇格人事を決めたが、新日鉄住金側は、重要事項について事前協議で決めるという株主間協定に違反し無効であるとして差し止め請求をミナスジェライス州ベロオリゾンテ市の裁判所に提出した。

過去1年間で社長が3回交代する異常事態となっており、2014年9月以降、社長人事を巡ってTerniumが1回、新日鉄住金側は今回が3回目の訴訟となる。

付記

2018年2月8日、新日鉄住金とTernium Investments S.à r.l. は、訴訟等の解決を定めた法的拘束力のある基本合意書を締結した。

(1)新たなガバナンスルールの導入
①CEO・取締役会議長(以下「議長」)の交互指名
CEO・議長は4年毎(任期2年×2)の交互指名とし、新ルールに基づく最初のCEOはテルニウム社が指名し、最初の議長は新日鉄住金が指名する。
なお、当初2年間については、テルニウム社はCEOにSergio Leite de Andrade氏を指名し、新日鉄住金は議長にRuy Roberto Hirschheimer氏を指名する予定。

②執行部門の構成及び指名
執行部門(CEO及び副社長)は6名とし、両社はそれぞれ3名ずつを指名する。

③JV解消ルール
2018年5月の執行部門の選任から5年後以降、新日鉄住金及びテルニウム社のいずれか一方が他方の保有するウジミナス社株を買い取ることにより共同経営を終了することができるJV解消ルールを導入する。

(2)関係する訴訟等の取扱い
両社は、過去数年内に生じ現在も係争中のウジミナス社に関わる訴訟等を円満に終了、または解決するために必要な全ての措置を講じる。
 

ーーー

当初、新日鉄グループ(新日鉄、日本ウジミナス、三菱商事・メタルワン)は、同業のVotorantim、Camargo Correa Group と従業員年金基金の間でUsiminas株主協定を結び、経営に当たっていた。

ブラジルでは、上場会社の議決権の過半を有する株主が、会社の意思決定、株式譲渡等につき協定を締結することができる。
Usiminasの協定株主は、議決権の過半数を確保した上で、株主総会、経営協議会(取締役会に相当)において議決権を統一的に行使することを取り決めている。

2011年9月にブラジルの鉄鋼大手CSN (Companhia Siderurgica Nacional SA)が、Votorantimと Camargo Correa Group に対し、Usiminasの議決権株式26%分の買い取りを正式に提案した。

これに対抗し、中南米を拠点とする大手鉄鋼会社Ternium Group が、VotorantimとCamargo Correa及び従業員年金基金から全議決権の約27.66%相当を購入、新日鉄グループ及び 従業員年金基金の3者で新たな株主間協定を締結した。

  元協定(~2011年11月) 改正新協定
議決権 普通株+
 優先株
協定内 議決権 協定内
当社・日本ウジミナス社 26.14   40.93 27.83 43.57
三菱商事・メタルワン
(商事・双日)
1.62   2.54 1.62 2.54
日本グループ合計 27.76 13.8 43.47 29.45 46.12
Votorantim 13.0   20.3    
Camargo Correa Group 13.0   20.3    
V/Cグループ合計 25.97 12.9 40.67 0 0
ウジミナス社年金基金 10.13 5.0 15.86 6.75 10.57
Ternium Group       27.66 43.31
協定株主計 63.86   100.00 63.86 100.00


2011/9/24
ブラジル鉄鋼大手CSN、ウジミナス株買い取りを提案

新日鉄住金側とTernium 側で問題が生じたのは2014年9月である。

Usiminasの経営審議会は2014年9月26日、Terniumグループ出身のフリアン・エグレン社長と子会社社長、製造担当取締役の3人の解任を発表した。経営審議会で賛否は5対5だったが、議長の判断で解任が決まった。ホメル・ソウザ氏が暫定社長となった。

Ternium側は、事前協議がなく 株主間協定に違反するとしたが、新日鉄住金側は、会社の規定にない賞与を受け取ったコンプライアンス違反が理由であり、協定違反でないと主張した。

Ternium側は、この決定の取り消しを求めて訴訟を行ったが、ブラジルの裁判所は2015年5月5日、解任を支持する判断を下し、ホメル・ソウザ氏が社長となった。

2014/10/7 ブラジル鉄鋼会社 ウジミナスを巡る争い

2016年4月の定時株主総会では、新日鉄住金とTerniumが事前合意の上で、Terniumが指名するエリアス・デ・マトス・ブリトー氏が経営審議会の議長に就任した。このためCEO人事は新日鉄住金が主導し選定されるものと見られ、ホメル氏の続投が濃厚とされていた。

しかし、経営審議会でTerniumが多数派工作を展開、新日鉄住金を裏切る形で事前の合意がないまま、セルジオ・アンドレーデ氏を社長に選出した。

新日鉄住金側は株主間協定に違反するとして、これを無効とすることを求め、訴訟を行った。

裁判所は2016年10月5日、新日鉄住金側の訴えを認め、無効とし、役員体制を元に戻すよう命じる判決を下した。


今回、同様の事態が発生した。

社長人事の推移は下記の通り。

就任 解任
2014/9 住金側主導で決定 (暫定)ホメル・ソウザ フリアン・エグレン
Terniumが訴訟
2015/5  裁判所が是認判決 ホメル・ソウザ
2016/4 Ternium 主導で決定 セルジオ・アンドレーデ ホメル・ソウザ
住金側が訴訟
2016/10  裁判所が無効・復旧判決 ホメル・ソウザ セルジオ・アンドレーデ
2017/3  Ternium 主導で決定 セルジオ・アンドレーデ ホメル・ソウザ
2017/4 住金側が訴訟


この間、Usiminas は2016年4月に臨時株主総会を開き、10億レアル(約300 億円)の増資を承認した。

新日鉄住金は大幅増資を主張したのに対し、Terniumは、限定的な増資は受け入れるが、Usiminasの鉄鉱山会社 Mineração Usiminas S.A.(MUSA) のキャッシュの一部を流動性改善に充てるよう求めた。

両社は経営の重要事項を事前協議し、経営審議会や株主総会で協調する協定を結んでおり、採決での決着は異例である。

新日鉄住金側は他の株主が引き受けない場合、増資額の全額にあたる10億レアルを引き受ける意向であったが、協定株主は比率通りの引き受けを行った。

2017年3月時点の比率は次の通り。普通株 705万株

  議決権 協定内
日本グループ合計 21.1 46.12
Ternium Group 19.8 43.31
Usiminas従業員年金基金 4.8 10.57
協定株主計 45.7 100.00


2016/4/25 Usiminas、300億円増資を承認 


社長人事で大株主が何度も訴訟合戦をし、1年で3回も社長が交代するというのは異例中の異例である。両社の関係をなんとかしないと、企業の存続が危うくなる恐れがある。

コメントする

月別 アーカイブ