東芝の半導体売却に新たな難問

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東芝は3月30日、臨時株主総会で、半導体事業を分社化して売却する計画を3分の2以上の賛成で承認を受け、4月1日に半導体事業の新会社「東芝メモリ」を発足させた。

東芝メモリの売却先を決める入札手続きは3月29日に締め切られ、海外のファンドや競合企業など約10社が応札した。

このうち、有力とされるのは、米半導体大手のBroadcom Ltd.、東芝の四日市工場で半導体事業に共同投資する米Western Digital Corp、シャープを傘下に持つ台湾の鴻海精密工業(Foxconn)、半導体大手の韓国SK Hynix の4陣営とされる。Broadcomは米ファンドのSilver Lake Partners と連合を組んでいる可能性がある。

Wall Street Journal によると鴻海は3兆円のオファーをしたとされる。

しかし、半導体事業に共同投資する米Western Digital が東芝メモリの入札にクレームをつけた。

Western Digital (が買収したSanDisk)は、東芝の主力製品であるNAND型フラッシュメモリ事業に関する提携 を行っており、実質折半出資のJVが東芝の工場の建屋内に設備を所有し、生産を行い、製品を折半で引き取っている。(後記の通り、一部生産ラインの約3割は東芝がJVから取得し、単独で運営している)    これまで日本に90億ドルもの投資をしたという。

Western Digital は、これがあるために190億ドルという多額の金額でSanDiskを買収したと言える。

東芝の取締役会宛ての4月9日付の同社CEOのレターで、東芝メモリの分割がJV契約の重大な違反であるとしている。入札手続きは東芝の株主の利益にならないとし、独占交渉を求めている。

付記

東芝はWestern Digital の持ち株を東芝メモリに譲渡したが、JV契約では、事業譲渡には双方の同意が必要となっており、現状は違反。破産の場合を除き、契約は法的拘束力を持つ。
準拠法はカリフォルニア州法。

噂に挙がっている候補は適当でないとし、特にBroadcomについて最近の取引を基に重大な懸念を示している。さらに噂される2~3兆円の金額はチップ事業の公正な価値を上回るものだとしている。

Western Digital Corp が東芝とのJVの相手となったのは2016年5月で、それまではSanDisk Corporationが相手であった。

Western Digitalは大手ハードディスクメーカーであったが、2015年11月21日、フラッシュメモリ製品メーカーのSanDisk を190億ドルで買収することで合意したと発表した。
2016年5月12日に買収が完了し、SanDiskはWestern Digitalの完全子会社となった。

SanDisk と東芝は1999年10月7日、次世代の大容量NAND型フラッシュメモリの共同開発と、製造合弁会社を設立することで基本合意に達した。(その後の経緯は後記の通り)

それ以来、両社の技術者が詳細な情報を共有して最先端の製造プロセスを開発してきた。 (2014年時点でSanDisk技術者 約600名が四日市工場に駐在)
東芝の事情だけで簡単に合弁契約を解除することはできない。東芝メモリを同社の意向に反する企業に売却することも難しい。

東芝は債務超過の解消のため、できるだけ高い金額での売却を望んでいるが、3兆円のオファーをしたとされる鴻海については中国との関係で日本政府が認めない可能性がある。

さらに今回のWestern Digital の主張は、東芝にとって深刻である。Western Digital との独占交渉では、売却価額はかなり低いものとなると思われる。逆に他社を選んだ場合、JV契約違反で裁判になると、短期の解決は考え難い。売却相手によっては独禁法の問題も生じる。

東芝がこれまでJV相手のWestern Digital と話をしていなかったのは不思議である。

東芝の再建に新たな問題となる。

ーーー

東芝とSanDiskのJVの経緯は次の通り。

1999/10/7 NAND型フラッシュメモリ事業に関する提携で基本合意
 ・次世代の大容量フラッシュメモリ(512メガビット、1ギガビット)及びSDメモリーカード用コントローラの共同開発
 ・折半出資による製造合弁会社の設立と、東芝の国内外のメモリ生産拠点を活用した両親会社への製品の供給
2000/5/10 NAND型フラッシュメモリの製造合弁会社の設立
 社名:FlashVision LLC
 立地:バージニア州(東芝子会社
Dominion Semiconductor内に700億円の設備投資)
 出資比率、製品引取比率:50/50
2000/9 業界最大容量512メガビットNAND型フラッシュメモリの商品化決定
 2001/7から
Dominion Semiconductor内で生産
2001/12/18 東芝の半導体メモリ事業の構造改革
 
Dominion Semiconductorの設備を2002/1にMicron Technology Inc.に売却
 半導体メモリ事業に関する技術、生産管理などの本社機能を、2002/6月末までに四日市地区に集結
 
四日市工場をメモリ事業の世界拠点に
2002/4/12 「フラッシュビジョン」(50/50JV 旧:Flash Vision LLC)を東芝四日市工場内に移転
 NAND型大容量フラッシュメモリ(512メガビット、1ギガビット、2ギガビット)の製造
2003/12/3 NAND型フラッシュメモリの生産能力増強
 300mmウェハー対応の製造ラインを共同で導入
 製造は、両社の合弁会社フラッシュビジョン  投資総額は約2000億円
2004/4/13 四日市工場における最先端のNAND型フラッシュメモリ製造棟(第3クリーンルーム棟)の建設
Flash Partners 東芝:50.1%、SanDisk:49.9%
2005/2/21 東芝四日市工場における300ミリウェハー対応新製造棟の竣工
2007年前半には月産40,000枚
2006/4/5 NAND型フラッシュメモリの生産能力増強
四日市工場内に300ミリウェハー対応の新製造棟(第4製造棟)を建設
製造設備はFlash Alliance(東芝:50.1%、SanDisk:49.9%)が導入、2008年後半には月産8万枚
2008/6/16 四日市工場200mmウェハ製造ラインの再構築
 200mmウェハラインの生産活動を終了し、保有設備を移設、売却
2008/10/20 改組
 これまで:第3、第4製造棟で、両社の合弁会社を通じて、共同生産(折半出資、均分引取)
 今後:第3、第4製造棟の生産ラインの約30%を東芝単独で運営
    残りの約70%については、引き続き、合弁会社形式で共同生産し、生産能力を両社で均分。
2011/7/12 四日市工場でNAND型フラッシュメモリ新製造棟(第5製造棟)を竣工
設備投資は、2010年9月設立のフラッシュフォワード社(東芝 50.1%、SanDisk 49.9%)
2014/5/14 四日市工場第2棟を建て替え
2015年夏に竣工、NAND型フラッシュメモリ(3Dメモリ)の専用設備を設置する拡張スペースを確保
2015/10 両社共同で設備投資を実施する正式契約を締結。3次元フラッシュメモリの生産体制を構築。
2016/7 竣工
2014/9/9 四日市工場の第5製造棟(第2期分)の竣工
 15nmプロセスを採用した製品の量産
2016/5/12 Western Digital によるSanDisk 買収完了
 東芝のJV相手はWestern Digital に。

2014年9月の竣工式でのSanDiskのCEOのスピーチ:

東芝とSanDiskは、日本と米国をつなぐお手本ともいえる取り組みであり、半導体業界のなかで最も成功を収めた協業である。15年間の協業によって、フラッシュメモリを11世代も進化させてきた。四日市工場は、300mmウエハの製造工場を3棟持つ、世界最大レベルの工場であり、SanDiskは、90億ドルの投資を行っており、日本に対して、最大の投資を行っている米国の企業だともいえる。

現在、日本にはSanDiskの社員として600人以上のエンジニアを有しており、今回の第5製造棟第2期分の稼働により、15nmプロセスの新たな技術へと進むことができる。さらに今後は、既存の製造拠点にも磨きをかけて最先端技術を展開していく。


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