Moody's、中国国債の格付けを1段階引き下げ

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Moody's は5月23日、中国の国債格付けをAa3からA1に1段階引き下げた。(同社の格付けはAaa、Aa1、Aa2、Aa3、A1、--- となっており、A1は上から5番目)

2011に格付けをA1からAa3に1段階引き上げてから6年ぶりに当時の水準に戻した。Moody'sが中国の格付けを下げたのは 天安門事件のあった1989年以来28年ぶりとなる。

格付け各社の日本、中国、韓国の格付けは下記の通りとなる。

S&P Moody's- Fitch
AA
韓国
Aa2 韓国 AA
AA-
中国
Aa3 (中国 AA-
韓国
A+
日本
A1
日本
中国
A+ 中国
A A2 A 日本

格付けをA1に下げた結果、今後の見通しを「ネガティブ」から「安定的」に変更した。

Moody'sは次の通り説明している。

成長が鈍化する中で、経済全体の負債が増加し、今後、中国の金融の力が弱まる。

中国政府が進めている改革措置が今後、経済システム、金融システムを改善させるが、全体の債務が増加し、政府の保証債務が増加するのを防ぐことは出来ない。

改革措置は、長期的には成功するとみるが、債務の増、成長鈍化のなかで信用力の劣化を抑えるには十分なインパクトはなく、また即時の効果はない。

中国のGDPは非常に大きく、その伸びは他国に比べ高いが、潜在的成長力は今後落ちる。2010年の10.6%から2016年には6.7%まで下がったが、これは構造調整の結果であり、今後も続く。次の5年で5%近くまで下がるだろう。

中国政府が成長に重点を置くため、景気刺激策が続き、経済全体の負債が増加する。

2016年の政府予算の赤字はGDPの3%程度だが、政府の直接債務負担は2018年にGDPの40%近くになり、2010年代末には45%に近づくだろう。
(2016年では、格付けがAクラスの国の平均は40.7%で、Aaクラスの国の平均は36.7%である。)

更に、間接的、偶発的債務も増加するだろう。地方政府の特別目的会社 (LGFV) の銀行借入や発行債券は、2015年に5.5%増え、2016年には6.2%増えた。他のパブリックセクターの借り入れ、支出も、GDPの成長の維持のため増える。

政府、家計、非金融企業の全体の債務も昨年末のGDP比256%から更に増え続ける。経済活動が借り入れに大きく依存するためである。

以上を勘案すると、政府の直接債務、間接的、経済全体での債務が増え続け、信用格付けはA1が妥当と考える。

ーーー

A1に下げた結果、リスクのバランスが取れ、見通しを「安定的」に変更した。


中国財政部はすぐに声明を出し強く反発した。

まったく根拠がない。中国が直面した困難を過大評価し中国政府の努力は過小評価した 。

1-3月期に中国の経済成長率は6.9%で前年同期比0.2ポイント上がり、主要経済指標は予想を上回り、経済構造も徐々に改善されている 。


人民網は、商務部国際貿易経済協力研究院研究員による「ムーディーズの中国格付け引き下げに3つの誤解」と題する記事を掲載した。

▽ムーディーズの1つ目の誤解: 中国経済の安定回復の経済活性化政策への依存度を高く見積もりすぎ、その一方で中国の構造調整の取り組みと決意を過小評価していること。

ここ数年の中国における中央政府から地方政府まで各クラス政府が構造調整と革新をめぐって重ねてきた努力をみれば、中国で新興産業がわき起こり成長する様子をみれば、今年1~4月の市場の一般的な予測を大幅に上回る経済の「通知票」をみれば、ムーディーズのこのような断言のロジックが客観的事実に反したものであることはすぐにわかる。

▽ムーディーズの2つ目の誤解:中国政府の債務水準を高く見積もり過ぎ、これに基づいて中国の債務の安定性について実際とかけ離れた謝った判断を下していること。

ムーディーズは地方政府の資金調達プラットフォーム企業、その他の国有企業といった機関の未償還債務をすべて政府の間接債務や偶発債務に計上し、これに基づいて中国政府の債務規模や見通しについて悲観的な評価を下している。

規定によれば、中央政府直属の国有企業でも、地方政府に属する国有企業(資金調達プラットフォーム企業を含む)でも、各企業が借り入れた債務はいずれも政府債務には入らず、政府が引き受ける義務は出資額の範囲を超えない。

すでに1990年代末に、中国政府は広東国際信託投資公司が借り入れた対外債務は国の債務ではなく、中国政府はこの対外債務について償還義務を負わないと宣言している。
それから20年近くが経ち、ムーディーズは当時130人を超える海外の債権者が「身を切るようにして」国際金融市場全体に知らしめたこの道理をまだ理解していないだろうか。

▽ムーディーズの3つ目の誤解: 中国に対する姿勢といわゆる「高格付けの国」(米国や欧州などの西側諸国)に対する姿勢が実際の状況に合わないダブルスタンダードであること。

ムーディーズが上記の過大評価の方法を採ったとしても、中国の債務水準はいわゆる「高格付けの国・地域」でもみられる程度の水準だ。

だがムーディーズは、一連の「高格付けの国・地域」は一人あたり平均所得の水準、金融市場の成熟度、体制のもつ実力がどれも中国より高く、こうした特徴により債務償還能力が高くなり、マイナス事態が発生しても蔓延のリスクは低いと論じたてる。

こうした見方には道理があるようにみえるが、国際金融市場全体を転覆させかねなかったサブプライム問題や米欧の債務危機は一体、何年前のことだろうか。危機はどこで起こったというのか。中国だろうか、ムーディーズが「金融市場の成熟度や体制のもつ実力がいずれも中国より高い」とみる一連の「高格付けの国・地域」だろうか。

( 主要各国の現在の格付け  なお、サブプライム問題は Moody's 等が証券化したサブプライムローンを高位格付けしたのが発端)

実際、過去のデータに頼り過ぎて相対的に見通しが不十分になったり、主観的な「体制要因」を重視しすぎたりして、ムーディーズをはじめとする国際的格付け機関が誤った格付けをしたことは一度や二度ではない。

中国の債務は95%が対内債務であり、中国国民の貯蓄率は引き続き30%前後を保っており、中国には3兆ドル規模の外貨準備残高と政府が保有するその他の流動性の高い巨額の資産があり、中国の債務がシステムを脅かす債務危機に発展することはないと保証できる。

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