米国とカナダの通商摩擦がエスカレート

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Trump大統領は、2月の米加首脳会談では、NAFTA再交渉の主な標的はメキシコであり、カナダとの交渉は「微調整」にとどまると述べた。

しかし、カナダが最近、米国産乳製品の輸入を一部制限する措置を実施、米国はカナダ産木材への最大24.12%の対抗関税実施を発表した。
これに対し、カナダ政府は米国産石炭の輸出に国内の港を使わせない措置を検討している。

Trump政権は国内業界の反発を背景に態度を硬化させ、これまで中国やメキシコ、日本に照準を合わせていた矛先をカナダにも向けた形となっている。

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Trump大統領は4月25日、米国の農業と農村の繁栄を推進するための大統領令を出した。

安定し、安全で、安い食料、繊維、木材の供給は米国の安保、安定、繁栄のために必須であり、米国の農業と地域社会の推進は国家の利益に係るとし、Agriculture and Rural Prosperityのための省庁間のタスクフォース設置を指示した。

大統領は同日、カナダの酪農保護政策が米国産乳製品の輸出を阻んでいると批判、さらに木材輸出に対するカナダの補助金支給が不公正だとして、最大24.12%の相殺関税を課す仮決定を発表した。
カナダを名指しし、「米国産の乳製品を売れにくくしている。もう我慢するつもりはない」と批判した。「貿易戦争も恐れない」とも述べた。

ロス商務長官は、対象の木材は主に州政府保有地で伐採されており、「その料金は市場実勢より安く、政府補助金だ」と説明 した。乳製品に関しても、「是正するための措置を調査している」とした。

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カナダ政府は最近、酪農産業に関し、"supply management system" を設定している。
供給の管理、ミルク製品の価格の設定、割り当てを超える輸入品に関税を課すというものである。

米国の酪農家は数年前に出てきた ultra-filtered milkの需要に対応するため、工場建設に多額の投資をし、生産とカナダ向け輸出を増やした。
乳蛋白質は残すが、ラクトースや水分やミネラルを除去したもので、チーズやヨーグルトの生産に使用される。

カナダ最大の州であるオンタリオ州は昨年、ミルクの在庫の急増に対応して、ultra-filtered milkなどの価格を引き下げた。

この結果、カナダのメーカーはカナダ産の購入を増やし、米国品の需要が減少した。

本年初めには、カナダ政府は、このミルクの価格引き下げを長期的に続けること、オンタリオ州から全国に拡大することを明らかにした。

これを受け、カナダ国境に接する米国の酪農家(特にWisconsin 州とNew York州)は、最早、ミルク事業はやっていけないとしている。
米国で生産するミルクの15%が輸出されており、市場を失う農家にとっては大災厄となる。

カナダの酪農業界は逆に、問題は米国の酪農製品の過剰であり、カナダの政策変更はスケープゴートにされているとしている。

カナダとアメリカ全体での供給過剰のなかで価格引き下げは妥当であり、それにカナダの業者は対応したが、アメリカの業者は対応せず、売れなくなっただけではないだろうか。
価格を下げたのは州政府だが、経済原則に沿った行動であり、これにクレームをつけるのは、おかしい。

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米政府は4月24日、カナダからの輸入針葉樹製材(softwood lumber)に対し、暫定的に平均20%の反補助金課税を行うと発表した。

この問題は1982年から断続的に発生している。

カナダの針葉樹林はほとんどが州政府の所有であり、米国側は製材製品がカナダの連邦及び州政府の補助金を不正に受けていると批判している。価格は市場の競争で決まるのではなく、州政府が決めている。

2006年に両国は Softwood Lumber Agreement を締結した。価格が一定水準を超えている限り、反ダンピング、反補助金課税をしないというもの。2012年にこれを2年延長した。

2015年10月12日にこの協定が切れた。

今回の米側の措置に対し、カナダ側は対抗することを明らかにした。天然資源相は、WTO提訴やNAFTAでの協議を考えており、この課税で職を失う企業や従業員を支援すると述べた。
これまで独立のパネルが米国の主張が根拠がないことを示しているとしている。

Trudeau 首相はTrump大統領に電話し、カナダに対する根拠のない批判と反補助金課税という不当な決定を拒否すると伝えた。

米国のRoss商務長官は、カナダを親密な同盟国と呼ぶ一方、カナダが勝手にやっても良いということではないと述べた。直ちに次の手を打つ考えはないが、この紛争はNAFTAの再協議を急がせることとなるとした。

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