協定は、「BEPS防止のための租税条約関連措置の実施に係る多国間協定(Multilateral Convention to Implement Tax Treaty Related Measures to Prevent BEPS)」と呼ばれるもので、BEPSとは、Base Erosion and Profit Shifting (税源浸食と利益移転)で、多国籍企業による租税回避のこと。
OECDの試算によると、少なくとも世界の法人税総額の4~10%に当たる年1000億~2400億ドルが毎年課税漏れとなっている。
BEPSは、多国籍企業が、現行ルールの下で、税制上の所得を実際の経済活動の場所と異なる国に配分することが可能であることから生じる。
これにより、所得がいずれの国でも課税されず、多国籍企業が支払う法人税が大幅に軽減されるという結果が生じうる。
2012年6月のメキシコでのG20サミットで「税源浸食と利益移転を防ぐ必要性」について再確認した。
直後に、スターバックス、グーグル、アマゾン、アップル等の租税回避が政治問題化し、協議が続き、「BEPS行動計画」を作成した。
2013年9月のG20サミットで「BEPS行動計画」が全面的に支持された。
http://www.oecd.org/tokyo/newsroom/documents/20140922DSGTamaki-ppt-beps.pdf
この条約は、BEPSプロジェクトにおいて策定されたBEPSを防止するための措置のうち,租税条約に関連する措置を,この条約の締約国間の既存の租税条約に導入することを目的と する。
現在は2国間の租税条約で課税漏れを防いでいるが、条約を締結した2国のどちらかに、第三国の企業がペーパーカンパニーをつくって、軽減税率などの条約特典を不正に得るケースもあり、3つ以上の国を舞台にした税逃れには対応しにくい。
また、巧妙化する課税逃れを防ぐには、2国間の租税条約に新たなルールを設けるための条約改正が必要で、条約締結している国ごとに改正手続を進めなければならない。
2国間の租税条約は世界で約3千あるとされ、「一つ一つ改正した場合、10年単位の時間がかかる」とされる。
今回の多国間協定では、こうした課題に対応するもので、協定参加国が課税に関する統一のルールを決めるため、各国の税制の違いに着目した課税逃れを防ぎやすくなる。
2国間条約の改正作業も統一ルールに合わせた1度の改正で済み、複数の国に同じ効力を持たせることが可能になる。
OECD事務総長は次のように述べた。
「この多国間協定への署名は、租税条約の歴史における重要な転換点である。我々は、BEPSプロジェクトで合意された、世界全体で1100以上に上る租税条約の抜本的な改革を早急に実施し、租税条約の改正方法を大幅に変えようとしている。この新協定は、署名諸国を二国間条約の再交渉という負担から解放するだけでなく、企業には確実性と予測可能性の向上、市民の利益にとっては国際租税制度の機能改善に繋がるものである。さらに本日の署名式は、国際社会が団結すれば、実効的に対処できない課題はないということを明らかにしている。」
米国は多国間協定を嫌うTrump大統領の方針に沿い、これに不参加で、2カ国の租税条約で対応する。
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本条約のうち日本が適用を選択しようと考えている項目は下記の通り。
課税上存在しない団体を通じて取得される所得に対する条約適用に関する規定(第3条)
双方居住者に該当する団体の居住地国の決定に関する規定(第4条)
租税条約の目的に関する前文の文言に関する規定(第6条)
取引の主たる目的に基づく条約の特典の否認に関する規定(第7条)
主に不動産から価値が構成される株式等の譲渡収益に対する課税に関する規定(第9条)
第三国内にある恒久的施設に帰属する利得に対する特典の制限に関する規定(第10条)
コミッショネア契約を通じた恒久的施設の地位の人為的な回避に関する規定(第12条)
特定活動の除外を利用した恒久的施設の地位の人為的な回避に関する規定(第13条)
相互協議手続の改善に関する規定(第16条)
移転価格課税への対応的調整に関する規定(第17条)
義務的かつ拘束力を有する仲裁に関する規定(第6部)
適用を選択しようと考えていない項目は下記の通り。
二重課税除去のための所得免除方式の適用の制限に関する規定(第5条)
特典を受けることができる者を適格者等に制限する規定(第7条)
配当を移転する取引に対する軽減税率の適用の制限に関する規定(第8条)
自国の居住者に対する課税権の制限に関する規定(第11条)
契約の分割による恒久的施設の地位の人為的な回避に関する規定(第14条)
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