韓国、建設予定の原発の設計を中断、新大統領の脱原発方針の一環

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韓国の全原発を保有・運営する韓国水力原子力㈱ はこのたび、慶尚北道蔚珍郡に建設予定の新ハンウル原発 3、4号機の設計業務を一時中断した。

設計担当の韓国電力技術に対し、「原発の新規建設に関する政策が確定するまで工事設計を中断してもらいたい」と通告した。
当初計画では、3、4号機は今月着工され、3号機は2022年、4号機は2023年に完成する予定だった。

関係者は「建設計画を完全に中断したわけではなく、政府の政策方向によって最終決定する」と説明した。

しかし、業界では今回の措置が政府の検討を経て、最終的に建設中止につながる可能性が高いとみている。

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韓国の文在寅大統領は選挙運動中に「新規の原発建設を全面中断し、建設計画を白紙化する」と公言している。

5月17日に、(後記の通り)老朽火力発電の一時停止を命じたが、原発についても、老朽のものを閉鎖、建設中のものは見直し、今後40年で原発に頼らないエネルギー政策に切り替えると述べた。

同氏は大統領選挙前の2017年4月14日、脱原発市民団体6団体と反原発についての政策協定を結んだ。

内容は次の通り。

原発の危険から国民の生命を守り、 安全で持続可能なエネルギー政策策定のために次期政府は積極的な 脱核・エネルギー転換政策を推進しなければならない。
ここに、文在寅候補は、次期政府において、 以下の政策課題を即座に推進することを約束する。

1.現在建設中の新古里4号機と新ハンウル 1・ 2号機の建設を暫定的に中止し、社会的合意を通じて運転の是非を決定する。

新古里4号機は間もなく稼働予定、新ハンウル 1号機は2018年4月、2号機は2019年2月に稼働予定。

(下記のとおり石炭火力を停止することもあり、電力不足の恐れがあるため、稼働せざるを得ないと思われる。)

2.現在建設中の新古里5・6号機と建設計画中の新ハンウル3・ 4号機を白紙に戻し、許可を取り消す。

新古里5号機は2021年、6号機は2022年、新ハンウル3号機 は2022年、4号機は2023年の稼働を予定していた。

3.江原道三陟と慶尚北道盈徳で推進中の原発建設計画を白紙に戻し、電源開発事業の実施計画を直ちに取りやめる。

韓国水力原子力は2015年に江原道三陟と慶尚北道盈徳の2カ所を新たに原子力発電所の建設候補地に決めた。 最大で4基ずつ、計8基を建設する計画。
韓国政府は、この8基を含め2030年までに19基を建設する計画であった。

4.ソウル行政裁判所の判決を尊重し、月城原発1号機の寿命延長裁判の控訴を取り下げ、1号機を即座に閉鎖する。

月城原発1号機は2012年11月20日に設計寿命の30年を迎えて運転停止したが、韓国の原子力安全委員会が2015年2月に安全性を審査し、2022年までの運転延長を許可した。

これに対し、近隣の住民ら2100人余りが運転延長は無効だとして安全委を相手に行政訴訟を起こした。

一審のソウル行政裁判所は本年2月7日、原告側の主張を認め延長を取り消す判決を言い渡した。延長審査の過程で原子力安全に関する法令が求める書類が不足していたことや、適切な決裁が行われなかったことなどを指摘、原子力安全委員のうち、委員の資格がないにもかかわらず審査に参加していた人物がいたことも問題視した。


なお、古里原発1号機は2007年に30年が経過したが、10年間の延長が認められ、2017年まで稼動する。

韓国水力原子力は2015年6月、稼働期間の再延長を申請せず、稼働から40年目の(現在の期限である)2017年6月で運転を終えると発表している。

2015/3/3 韓国、設計寿命30年超の原発の再稼働問題

付記  原子力安全委員会は6月9日、「古里1号機永久停止運営変更許可」を審議・議決した。6月18日0時に永久停止する。原発の永久停止は韓国で初めて。

5.パイロプロセッシング(乾式再処理技術)研究と第2原子力研究院の建設計画を再検討する。

6.大統領選挙後6か月以内に大統領直属で「(仮称) 脱核国民委員会」を構成し、脱原発ロードマップを議論する。


韓国の原発は下記の通り。稼働中25基(うち間もなく2基停止)

 

 

運転開始 原子炉形式 容量
 kW
大統領の政策協定
ハンウル
(
蔚珍)

1

1988/9/10 加圧軽水炉 (PWR) 95万
2 1989/9/30 加圧軽水炉 (PWR) 95万
3 1998/8/11 加圧軽水炉 (PWR) 100万
4 1999/12/31 加圧軽水炉 (PWR) 100万
5 2004/7/29 加圧軽水炉 (PWR) 100万
6 2005/4/22 加圧軽水炉 (PWR) 100万
新ハンウル 1 (2018/4) KSNP (APR-1400) 140万

建設を暫定的に中止し、社会的合意を通じて運転の是非を決定

2 (2019/2) KSNP (APR-1400) 140万
3 KSNP (APR-1400) 140万 許可を取り消す。
4 KSNP (APR-1400) 140万
ハンピッ

(霊光)

1

1986/8/25 加圧軽水炉(PWR) 95万
2 1987/6/10 加圧軽水炉(PWR) 95万
3 1995/12 加圧軽水炉(SYSTEM80) 100万
4 1996/3 加圧軽水炉(SYSTEM80) 100万
5 2002/5/21 KSNP(OPR-1000) 100万
6 2002/12/24 KSNP(OPR-1000) 100万
月城 1 1983/4/22 CANDU 67.9万 運転延長取り消し判決の控訴を取り下げ、即時閉鎖
2 1997/7/1 CANDU 70万
3 1998/7/1 CANDU 70万
4 1999/10/1 CANDU 70万
新月城 1 2012/7/31 KSNP(OPR-1000) 100万
2 2015/7 KSNP(OPR-1000) 100万
3 KSNP(OPR-1000) 100万 (未認可)
4 KSNP(OPR-1000) 100万
古里 1 1978/4 加圧水型(PWR) 58.7万 (2017年6月停止が決定している。)
2 1983/7 加圧水型(PWR) 65万
3 1985/9 加圧水型(PWR) 95
4 1986/4 加圧水型(PWR) 95万
新古里 1 2011/2 加圧水型(PWR) 100万
2 2012/7 加圧水型(PWR) 100万
3 2017/1 加圧水型(PWR) 140万
4 間もなく 加圧水型(PWR) 140万

建設を暫定的に中止し、社会的合意を通じて運転の是非を決定

5 加圧水型(PWR) 140万 許可を取り消す。
6 加圧水型(PWR) 140万
三陟 4基 白紙に戻す。
盈徳 4基

なお、稼働中は25基だが、これまでトラブルで多数が停止している。

2012/10/6 韓国で原発停止相次ぐ

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文在寅大統領は5月17日、原発に加え、老朽石炭火力10基の一時停止を命令した。

大気汚染悪化の原因である老朽石炭火力発電所10基を6月に一時停止し、来年にさらに10基停止すると公表した。

停止対象の10基は、江原道、全羅道、忠清南道、慶尚北道の各地にある操業から32年~44年が経過している老朽火力発電所で、この10基が現在の大気汚染物質の20%を排出しているという。

韓国は中国からの黄砂やPM2.5の飛来も多いが、国内でも石炭火力が59基と多いため、ソウル市内などでも煤塵による健康被害問題が深刻化している。

石炭火力の稼働低下によって、煤塵の排出量を現状より30%削減することを目標とする。

大統領は、「われわれは、もはや安全とクリーンなエネルギーを目指すことで他国に遅れをとっていられない。石炭火力と原発を減少させ、再生可能エネルギーと天然ガスの発電を増やしていく」と化石燃料と原発からの脱却を宣言した。


ただ、現在、韓国の発電の40%は石炭火力で最も多く、次いで原発の30%となっている。天然ガス発電は25%だが、再エネは2%でしかない。

想定通りの天然ガス・再エネ切り替えには、エネルギー安定供給のリスクがある、との指摘もある。

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