田辺三菱製薬は7月24日、イスラエルの医薬品企業 NeuroDerm Ltd.の買収手続き開始について合意したと発表した。
普通株式およびストックオプションを含む本買収の取得価額の総額は、約11億米ドル。
NeuroDerm は、 パーキンソン病の治療薬に関して、新たな製剤研究や、医薬品と医療器具(デバイス)とを組み合わせる優れた技術開発力を有する医薬品企業で、現在、米国および欧州でフェーズ3に移行し、2019年度に上市が見込まれるパーキンソン病治療薬「ND0612」を中心に開発を推進している。
NeuroDermの開発パイプラインは次の通り。製品名 | 一般名 | 想定適応症 | ステージ |
ND0612 | レボドパ/カルビドパ持続皮下注投与ポンプ/パッチ製剤 | パーキンソン病(中等度/ 重症) | P3 |
ND0701 | アポモルフィン持続皮下注投与ポンプ | パーキンソン病(重症) | P2 |
ND0801 | 経皮剤 | 中枢神経系疾患に伴う認知障害 | P2 |
パーキンソン病(Parkinson's disease)は、錐体外路症状を示す進行性の神経変性疾患である。中枢神経系に存在する神経伝達物質のドパミン(dopamine)が減少し、筋固縮、振戦、無動などの運動症状が起こる。
パーキンソン病の病勢の進行を止める根本治療法はないものの、薬剤による対症療法が中心に行われている。
ドパミン補充のため、L-ドーパ含有製剤レボドパ およびレボドパ・カルビドパ水和物などのドパミン受容体刺激薬の錠剤が臨床使用されている。
中でもドパミンの前駆体であるレボドパは、脳内でドパミンに変換され、パーキンソン病症状の軽減に高い有用性を持つと評価されている。
パーキンソン病の治療では、疾患の進行に伴い、代表的な治療薬であるレボドパ の血中濃度を適切にコントロールすることが重要である。
NeuroDermの「ND0612」は、同社が有する製剤技術により、経口治療薬であるレボドパ および カルビドパの液剤化に世界で初めて成功し、それらを携帯ポンプにより24時間持続的に皮下注射する 製剤で、これによりレボドパ の血中濃度を一定にコントロールし、進行したパーキンソン病患者に問題となる運動症状の改善が期待されている。
田辺三菱製薬では、世界最大の医薬品市場である米国を中心に成長するため、自社販売による持続的成長基盤を早期に構築することを目指しており、第一歩として、2017年8月に筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療薬ラジカヴァの米国市場での販売開始を予定しているが、「ND0612」の獲得により、中期経営計画の目標である2020年度までの米国売上収益800億円の 達成が可能になると考えている。
ーーー
NeuroDerm のND0612は、ドパミン補充のためのレボドパ錠剤を液剤化し、携帯ポンプにより24時間持続的に皮下注射する 製剤である。
パーキンソン病治療薬には他に、ドパミン受容体に結合し刺激することにより作用を示すドパミンアゴニスト がある。
ドパミンアゴニストは長時間作用性であり、安定したドパミン受容体の刺激が図れるため、レボドパ効果の短縮に伴った症状悪化緩和にも役立つ。
しかし、単独投与の効果はレボドパに及ばず、上部消化管症状や循環器症状、幻覚の頻度も高い。
大塚製薬は2013年、パーキンソン病およびレストレスレッグス症候群の治療薬として、世界で唯一の経皮吸収型ドパミンアゴニスト製剤「ニュープロパッチ」を発売した。
レストレスレッグス症候群(Restless Legs Syndrome)は、主に脚(足の裏、ふくらはぎ、太ももなど)に不快な感覚を覚え、じっとしていられなくなる慢性疾患で、日本国内の有病率は成人の1.5%と推定され、40歳以上の中高年、特に女性に多いといわれている。
経皮吸収型の「ニュープロパッチ」は、1日1回貼付するという簡便な投与方法で、薬剤が持続的に放出され、24時間血中濃度を一定に維持し、安定した効果が期待できる。
2002年に日本国内における「ニュープロパッチ」の独占的開発・販売権をベルギーのUCB社から取得し、開発を行ってきた。海外ではNeupro®の製品名で、パーキンソン病で50カ国以上、レストレスレッグス症候群で30カ国以上の承認を得ている。
コメントする