日本触媒、バイオマスの新規資源化プロセスを神戸大学と共同開発

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日本触媒は6月28日、神戸大学(大学院工学研究科サスティナブルケミストリー寄附講座)と共同で、バイオマスの新規資源化プロセスを開発したと発表した。

日本経済新聞は同日、紙おむつの高吸水性樹脂(SAP)の原料をパームヤシ殻から生産する技術を開発したと報じた。

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バイオマス利活用の技術の一つとして水熱分解(Hydrothermal Liquefaction)がある。

この方法は、高温水中でバイオマスを熱分解し、水溶性および油溶性分解物を得る方法だが、従来の方法では、水溶性分解物および油溶性分解物の収率は各々約15wt%と低いうえに、分解物中の酸素含有量 が高いため、水素添加など追加の脱酸素工程が必要である。

加えて約40wt%と大量に生成する炭化物(チャー)の処理が最大の課題でもある。

今回の方法では、リグノセルロースを 250-300℃の高温水中、金属鉄存在下で高効率で炭素数 2-6程度の水溶性化合物群に分解する。

金属鉄を共存させて酸化鉄とすることで酸素を除外し、水溶性分解物を60wt%程度の高い収率で得ることができる。

このときの水溶性分解物中の酸素含有量は、原料に比べて約2割減少しており、脱酸素により炭化水素化が進んでいることも認められた。

さらに銅やパラジウムなど水素化能をもつ金属を添加することで、分解と水素化(脱酸素)をより効率的に進めることができ、一段と炭化水素化が進んだ水溶性分解物を得ることができることも分かった。

従来から大きな問題であった副生チャーは金属鉄の再生に用いる還元剤として活用できるため、バイオマス全体の高い利用効率を実現できるというメリットもある。

得られた水溶性化合物群は、ZSM-5などの固体酸触媒を用いて、エチレン、プロピレン、ブチレンなどのオレフィン系炭化水素やベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素に変換できることも確認した。

種々のグリーンケミカルズの基礎原料として有望と考えられる。

バイオマスから作ったプロピレンを既存のアクリル酸プラントに供給することができれば、再生可能資源由来のアクリル酸を製造でき、環境にやさしい高吸水性樹脂→紙おむつ へとつながる。

この成果は、ACS Sustainable Chem. Eng., 2017, 5 (4), pp 3562-3569 で発表された。

Fe-Assisted Hydrothermal Liquefaction of Lignocellulosic Biomass for Producing High-Grade Bio-Oil

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共同研究の神戸大学・大学院工学研究科サスティナブルケミストリー寄附講座は、2012年7月に日本触媒の寄付講座として開設された。

サスティナブルケミストリーによる産業創出を目指し、再生可能資源バイオマスの利活用(バイオリファイナリー)技術、再生可能エネルギー生産技術、温室効果ガスである二酸化炭素の再資源化技術等に関する革新的技術の実践的な研究を行うとともに、新産業創出を担うイノベーション創出型の人材育成も行うことを目的とする。

文部科学省「先端融合領域イノベーション創出拠点形成」プログラムの一つであり、神戸大学が中心となって推進している「バイオプロダクション次世代農工連携拠点(iBioK)」と協働して、より緊密に産学連携のネットワークを構築し、大学保有の独自性のある様々な基本技術と企業保有の実用化技術や事業形成力を融合させることで、化学品製造のために新規な先端融合的製造プロセス開発を推進 するとしている。

設置期間は2017年6月末までの5年間で、寄付金額は総額2億5500万円。

特命教授に喜多裕一・日本触媒 顧問(前 取締役専務執行役員)、特命助教に平野喜章・日本触媒 企画開発本部開発部主任部員が就任した。


付記

日本触媒は、神戸大学(大学院工学研究科(応用化学専攻)に、共同研究講座「サスティナブルケミストリー(日本触媒)」を2017年7月1日に開設した。

名称:サスティナブルケミストリー(日本触媒)

場所:神戸大学大学院工学研究科(応用化学専攻)

研究体制:教授 荻野千秋 [神戸大学大学院工学研究科教授(兼任)]
       特命准教授 平野喜章[日本触媒より出向、工学博士]

設置期間:2017年7月1日から2019年6月30日までの2年間

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別途、日本触媒は2017年4月1日、大阪大学大学院工学研究科(吹田キャンパス内)に、「日本触媒協働研究所」を開設した。

2014年4月に共同研究講座を開設し、大阪大学の最先端触媒・合成技術と日本触媒の保有技術を融合させ、革新的で競争力のある機能性化学品合成に関する基盤技術の創造に取り組んできたが、これを発展的に解消し、協働研究所を新たに開設した。

大阪大学が強みとしている医工連携分野と日本触媒の触媒、有機合成、高分子合成などの保有技術の融合を図り、他大学・企業との多面的連携を視野に入れながら、革新技術の創出、事業創出、そして研究人材の育成を目指す。

【協働研究所の基本方針】
1.既存製品の革新技術の創出
2.新規事業に育成のための革新技術の創出
3.医工領域(医学と工学の学際領域)の新規事業創出

研究体制:
所長:三浦雅博 (大阪大学大学院工学研究科 教授)
副所長:原田信幸 [大阪大学大学院工学研究科 特任教授(常勤)](日本触媒 常務執行役員)
  
設置期間: 2017年4月1日から2020年3月30日までの3年間

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