出光興産は7月3日、公募増資で1385億円を調達すると発表した。
発行済み株式の3割にあたる4800万株を、国内で3360万株(970億円)、海外で1440万株(415億円)を募集する。
海外での投融資、国内での有機EL等への設備及び研究開発への投資、及び昭和シェル石油買収に伴う金融機関からの短期借入金の返済に充てるとしている。
しかし、これにより出光一族の出資は現在の33.92%から26%に低下し、株主総会で合併を拒否できる3分の1を下回る。
このため創業家の代理人は同日、「創業家の保有する議決権比率の希釈化を目的とすることは明らかで、直ちに株式発行の差し止めの仮処分を申し立てる方針だ」とのコメントを発表した。
一方、会社側は「創業家の影響力の低下を意図したものではなく、引き続き説得を続ける」としているが、出光興産の会社側と創業家側との経営をめぐる争いは法廷闘争に発展することになった。
付記
東京地裁は7月18日、差し止め請求を却下する決定をした。「新株発行の主要目的が不当とは認められない」として出光側の主張を認めた。
創業家の持ち株比率を相当程度減少させ、支配権をめぐる争いを有利にする目的があったことは認め、出光側のベトナム製油所建設などの費用というのも的確な証拠がないとしたが、昭和シェル株の取得の際の借入金返済については弁済期を数カ月後に控え、資金調達の必要性が高いと認めた。
創業家側は東京高裁に即時抗告した。
東京高裁は7月19日、「新株発行の目的が不当であると認められない」として、申し立てを退けた東京地裁決定を支持し、創業家側の即時抗告を棄却する決定をした。
但し、高裁は「増資後、直ちに株主総会が開かれ、合併が議題になることをうかがわせない」としており、総会をすぐに招集できない。合併には時間がかかる。
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東京地裁、東京高裁の判断:
支配権を維持する目的 支配権を巡る実質的な争いで経営陣が自らを有利な立場に置く目的が存在したと一応認められる。 不当 資金調達目的 戦略的投資 製油所など戦略的投資に充てるために新株発行で資金調達をする必要性、合理性があるとは認められない。 不当 借入返済 昭和シェル株の取得の際の借入金返済については弁済期を数カ月後に控え、資金調達の必要性が高い。 正当 公募増資 第三者割当増資に比べ、経営陣に反対する株主の支配権を弱める確実性は弱い。 正当 合併提案時期 増資後直ちに合併承認議案を臨時株主総会に諮る恐れが高いと認められない。 (裁判所推定) 結論 新株発行の主要な目的が、経営陣が自らを有利な立場に置くとの目的とまで断定できない 「著しく不公正」ではない
昭和シェル株の取得時に増資構想はなし。
著しい低金利時代に増資による借入金返済が妥当か?
創業家側は出光興産の議決権の33.92%を握っており、総会決議で拒否権を持つ。
日章興産 * 16.95% 出光文化福祉財団 7.75% 出光美術館 5.00% (小計) (29.70%) 名誉会長 * 1.21% 長男 * 1.51% 次男 * 1.51% 合計 33.92% 創業家側は2016年8月8日、上記*の共同保有の届出を行った。21.18%となる。
今回の増資に伴う株式の変動は次の通り。
創業家
株数 比率 現在の発行済株数 160,000,000 54,272,000
33.92% 増資株数 48,000,000 (ゼロとして) 増資後株数 208,000,000 54,272,000 26.09%
会社側は、増資手取りの用途を次の通りとしている。(単位:億円)
海外投融資 255
ベトナム 製油所(NSRP) 142
インドネシア 潤滑油事業(出光ルプテクノ)63
インド 潤滑油事業(出光ルプインド)16
台湾 水添石油樹脂事業 (台塑出光特用化学品) 25
ベトナム 給油所 9
合計 255
電子材料(愛知製油所)112
有機EL材料関連製造装置
地熱事業地域の調査活動用機器
C8スプリッター研究開発費 155
有機EL材料の開発・用途拡大
固体電解質の工業化実証設備等短期借入金返済 863
昭和シェル石油買収の金融機関からの短期借入金 1,590億円の一部
合計 1,385
これまでの経緯
2015/8/3 出光興産と昭和シェル石油、経営統合で基本合意 2015/11/16 出光興産と昭和シェル、経営統合に関する基本合意書締結 2016/6/29 出光興産の創業家、昭和シェルとの合併「反対」 2016/8/5 出光創業家、合併阻止へ強攻策 2016/9/22 出光販売店の具申書 2016/9/27 出光興産と昭和シェルの合併をめぐる出光販売店と創業家の動き 2016/12/20 公取委、出光興産による昭和シェル石油の株式取得を承認 2016/12/20 出光興産、シェルから昭和シェル株式取得
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