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多額の不良債権を抱えるイタリア第3位の銀行 モンテ・パスキは2016年12月22日、増資と劣後債の株式交換などを通じて50億ユーロを調達する計画は失敗に終わったと発表した。
アンカー投資家としてカタール投資庁(QIA)との間で10億ユーロの増資引き受けを交渉したが、まとまらなかった。
このため、同行は債務の株式交換計画も撤回した。増資とともに不良債権の売却も計画していたが、増資が失敗に終わったことで不良債権売却も進めることができなくなった。
イタリア政府は公的資金注入による救済の検討を始めたが、EUが定めた銀行再建ルールが障碍となった。
金融危機を受け、EUでユーロを使う国々は各国でばらばらだった金融行政を一元化する「銀行同盟」を進めた。
銀行の破綻処理のルールも2016年1月から施行し、まず銀行の債券などを持つ投資家に一定の割合の損失を負わせることにし (Bail-in 制度)、公的資金の利用を制限する仕組みにした。
しかし、イタリアでは銀行の債権者に個人投資家も多いため(個人が銀行債を預金に近い感覚で購入している)、このルールを適用すれば大問題となる。
モンテ・パスキ は12月26日、欧州中央銀行(ECB)が同行について88億ドルの資本不足を指摘したことを明らかにした。
2016/12/23 イタリア政府、モンテパスキ銀行の支援決定
その後も人員削減の規模などを巡り伊政府と欧州委の調整が進まなかった。
欧州委員会は2017年6月1日、伊政府によるモンテ・パスキ への公的支援となる「予防的な資本増強」を承認することで伊政府と大筋合意したと公表した。
伊政府は「納税者の負担を抑えつつ、EU規則に沿って、予防措置としてモンテ・パスキへ公的資金を注入できる」との声明を発表した。
EUルールでは本来、個人投資家も損失負担が必要だが、銀行債を保有する個人が多いイタリアで完全に適用すれば社会的な影響が大きい。
このため、劣後債保有者のうち、劣後債のリスクを十分に知らされないまま購入していた個人投資家については、伊政府の出資の一部を使ってモンテパスキが損失を補填することで懸案事項を解決した。
欧州委員会は7月4日、条件付きでモンテ・パスキ に対するイタリア政府の公的支援を正式承認した。
税金を使用するための条件
5年の再建計画
事業モデルを個人、中小企業向けとし、効率を重視、信用リスク管理の改善
その一部として、経営トップの給与制限(従業員平均の10倍)不良債権 261億ユーロの民間ファンドへの時価での移管
イタリア政府の支援
資本不足 81億ユーロ 伊政府出資 54億ユーロ 株主・劣後債保有者負担 43億ユーロ 劣後債の株式転換後に減資 特定劣後債保有者保護 -15億ユーロ 劣後債のリスクを十分に知らされないまま購入していた個人投資家(条件あり)の保護
政府出資分を基に、劣後債をシニア債に転換
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これとは別に、欧州中央銀行(ECB)は6月23日、イタリアの中小銀行2行 、ベネチア近郊の地銀ベネトバンカ(Veneto Banca SpA)と中堅銀バンカ・ポポラーレ・ディ・ビチェンツァ(Banca Popolare di Vicenza SpA)が再建不能な状態になったと発表した。
ともに民間ファンドの傘下で立て直しを目指したが経営は改善せず、ECBに提示した再建策も不十分と判定された。
欧州委員会は6月25日、イタリア政府による両行の公的支援を伴う破綻処理策を承認した。
イタリア政府は同日、2銀行の破綻処理に必要な緊急法案を閣議決定した。
2行を優良資産と不良資産に切り分け、優良資産を同国銀行2位のインテーザ・サンパオロ(Intesa Sanpaolo)が買い取る。
インテーザが自己資本比率への悪影響を避ける形で資産を買い取れるようイタリア政府がインテーザに52億ユーロを支払い、インテーザが1ユーロで取得する。インテーザは今後、2行の従業員を3千~4千人ほど削減する。
今後の資産査定で健全な融資が不良債権に格下げされるリスクに備えるため、政府はさらに120億ユーロを保証金として準備する。
預金者とシニア債の保有者は保護される。シニア債はインテーザの債務となる。一方、株主と劣後債保有者は損失を被る。
この処理では、シニア債保有者が保護され、清算費用の大半を国庫が負担することになっており、批判の矛先は、投資家が損失を負担すべきだとするEU各国指導者の合意原則を破ったイタリア政府や、それを許した欧州委員会に向かっている。
政府と欧州委員会が、まったく異なる説明をしているのが取り上げられている。
イタリア政府は、両行が倒産するとベニス地区の経済が無秩序に倒壊するとしてシニア債保有者の保護を説明した。
これに対し、欧州委員会は、2つの銀行は非常に小さく、競争の観点からは問題ないとした。
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