メガカリオンは8月7日、iPS細胞を用いた独自の血小板産生技術並びに日本企業保有の周辺要素技術を結集し、ヒトiPS細胞由来血小板製剤について臨床試験用製剤の製法を確立したと発表した。
2020年を目途に医療現場での応用に向け量産体制の構築に努める。
メガカリオンは2011年9月に、東京大学の中内啓光教授、京都大学iPS細胞研究所の江藤浩之教授らの開発したヒトiPS細胞由来の巨核球を不死化・凍結保存する技術を継承して設立された。
献血に依存しない、①計画的安定供給が可能で、②感染等のリスクを排した、③医療コストの低い、ヒトiPS細胞由来血小板製剤を世界の医療現場へ提供することを目指している。
同社は、ヒトiPS細胞から自己複製および凍結保存が可能な不死化巨核球前駆細胞(MKCL)を誘導し、これから大量且つ安定的に血小板を産生させる基盤技術を有している。(下記)
しかし、血小板製剤の製造には、この基盤技術を基に、
①大量培養による血小板の産生と機能・品質の確保、
②血小板の分離精製・保存 、
③各種分析・試験といった要素技術の組み合わせと最適化が必須となる。
そこで、これら要素技術を有する日本企業と連携(共同研究、業務委託等)、コンソーシアムを形成し、臨床試験に用いる為の血小板製剤の製法を確立した。
- 巨核球は造血幹細胞から作られる細胞で、血小板を生み出す細胞。巨核球は成熟すると核分裂はするが細胞分裂はしないという特殊な分裂を行い、大型で多核の細胞になる。
血小板は止血に重要な役割を果たす血液細胞で、巨核球という細胞から分離することで生み出され、血液の中を循環しながら、止血で利用されるが、一定の寿命で崩壊 する。
自ら分裂することはできないので、常に巨核球から作られ、必要量が補充されている。
深刻な貧血および出血素因をもたらすような血液疾患の患者は、献血による血液製剤を用いた輸血に頼らざるを得ない状況だが、献血ドナーの数は少子高齢化などもあり、減少してい る。
2027年には我が国の必要な輸血製剤の20%はドナー不足に伴い供給できないと発表されている。
特に血小板は機能を維持するために室温で保存する必要があり、有効期間は採血後4日間しかなく、必要なときに必要な量の血小板を供給することが困難である。
また、何回も血小板輸血を受けた患者の中には、血小板上のHLA抗原(ヒト白血球抗原)の存在によってHLA抗体が産生され、輸血効果を認めなくなることがあ る。このような患者にはHLA型を適合させた「HLA適合血小板」が必要となるが、HLAは親子や兄弟の間でも一致する確率は低く、非血縁間では数百〜数万分の1の確率でしか一致しない 。
ヒトiPS細胞由来の血小板製剤は、このような献血血小板製剤が抱える需給問題並びにHLA適合血小板の確保という課題を一元的に解決できる手段として、早期の実用化が望まれてい る。
HLAは白血球の血液型といえる。
HLA型は何万もあり、全てのストックは無理だが、HLAホモドナー(父母が同型)のものは、片方が合えば使用できる。
HLA型が例えば 〔Ax-By-DRz〕& 〔Ax-By-DRz〕のドナーのものは、片方が〔Ax-By-DRz〕の人すべてに移植可能である。
民族によりHLA型の分布が異なるが、日本人の場合は、ある1名のホモドナーで全体の20%、75名のホモドナーで80%をカバーできる。
2012/7/26 「iPS細胞ストック構築」で赤十字と提携
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江藤教授らのグループは2010年に皮膚細胞由来のiPS細胞から培養皿上で血小板が生産できることを発表した。
しかし1回の輸血では患者1人につき2,000~3,000億個もの血小板が必要だが、これまでの方法では、10億個程度しか生産できなかった。
江藤教授らのグループは2014年2月、ヒトiPS細胞から血小板を安定的に大量に供給する方法を開発したと発表した。
iPS / ES 細胞から2週間かけて誘導した造血前駆細胞に2種類の遺伝子を導入し、さらに2~3週間後に1つの遺伝子を追加で働かせることで、ほぼ無限に複製できる巨核球を作製することに成功した。
巨核球で強制的に働かせていた3つの遺伝子の働きを止めると、およそ5日後には巨核球が成熟し、血小板を生産した。
この方法では25~50Lの培養液を用いれば輸血に必要な1,000億個の血小板を5日以内に用意できることになる。(従来法では26日必要)
今回の方法で生産した血小板は基本的な血小板の機能を持っていた。
複製可能な巨核球(不死化巨核球前駆細胞)は凍結保存が可能であるため、このシステムにより、日本人に多いHLA型のiPS細胞から血小板製剤を生産するための巨核球のストックや、ドナーが見つかりにくいHLA型やその他の特殊な血小板型(HPA型)の患者への血小板製剤の安定供給が可能となった。
メガカリオンは、この技術を今回、実用化した。
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